天使との邂逅



「!?…ぁ、ごっごめんなさい、考え事してて」

名を呼ばれて自分が暗い過去を振り返っていたことを思い出す。

「いいえ、突然こんなことを言われて、気が動転してしまうのは当然のことです」

罰が悪くて俯いたミーアは、男の紳士的な言葉に少しホッとした。

さっきは自分を行かせまいと強引に進路を塞いだくせに…とも思ったが、それ程までに必死だったという事なのだろうか。

また思考を巡らせていると目の前に小さな紙が差し出されて、え?と思わず顔を上げて男と紙を交互に見る。

「あの…これは…?」

見ると電話番号らしき数字が書かれていた。

「今はまだ答えを出せないご様子、ですから一日よく考えてから結論をお出し下さい。
貴方が駄目なら、我々は早急に次の方を捜さなければなりません…」

では、と用件を伝え終わった男達は来たとき同様、静かに立ち去っていく。

その後ろ姿を一瞥した後、ミーアは手渡されたメモをぼんやり見ていた。


『ラクス・クライン』

『歌姫の代役』

『あたしの…力』

さっきの嵐の数十分の間、自分は夢でも見ていたのではないかと思わせる程の現実離れした話だった。

…でもこれは間違いなく現実。
夢ではないのだと、目の前の小さなメモ用紙が語っている。



「━━さん!25番、ミーア・キャンベルさん!何処ですか!」

「はっ!」と夢見心地だったミーアを現実に引き戻したのは、先ほどまで頭の大部分の思考を占めていたはずのオーディションだった。

「ぁ、はい!あたしです!」

オーディションの関係者らしき若い男がきょろきょろと公園内を探していた。
手を挙げて近づいて行けば、不安げだった男はすぐに安堵した表情になってミーアに駆け寄る。

「キャンベルさんですか? 急いで下さい。順番を最後に回してますから」

「すっ、すみません!ありがとうございます」

男の自分への配慮に申し訳なさと感謝を感じ、手に持っていたメモを無造作にポケットに押し込んむと急いでオーディション会場へと駆け出した。


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