マボロシの君へ
ガリガリ、ガリガリ
「う~~んι」
ガリガリ…ガリ
「なんか違うんだよな…」
威勢よく任せとけ!とは言ったものの、名前を考える
のがこんなに難しい事だなんては思ってもいなかった。
大して深くも考えずに言ってしまった事をシンは今更ながら少し後悔する。
でも、あんなに期待の篭った眼差しで見つめられたら、やっぱり無理だなんて言えない。
試しに思い浮かんだ女の名前を片っ端から書いては見たけれど、どれも目の前の少女には合わないような気がして。
さっきから名前を書いては消し、書いては消しの繰り返しで一向に前には進めていなかった。
「んぅ~…ιあ!なぁ、何か好きな物ないか、食べ物でも、鳥でも花でも何でも良いんだ」
良い名前が思いつかず、このままじゃヤバイ!と、この子が好きなものから何かヒントを得ようと思ったのだが……。
「すき?」
…『好き』も知らないのかι
「あぁ~、えっと……気に入ったとか、飽きないって言うか~、良く見てる…!! そう!君が一日で一番見てても良いって思った物は何?」
「みてる?…んー…あれ、みてる」
『あれ』と指差した先にあるのは真っ暗な夜空と満天の星。
「ケンサないとき、ずっとみてる。かぞえる」
「数える…ぁ、星!星が好きなんだ」
「ほぉ…し?」
「そう、星。君が数えてる、たくさん光ってるヤツの名前だよ」
ほし…と目をぱちぱちさせて、いつも見ている筈の星を興味深げに見つめる少女。
その姿は幼い言動に似合わず美しさを醸し出していて━━…。
星…、美しさ……。
「そうだ!綺羅(きら)!!」
「???」
星を見つめていた少女は、突然の俺の叫びにきょと~んとした顔で首を傾げる。
その仕草がなんだか面白くて、少し笑ってしまった。
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