執事とお嬢様(仮)



「一体これはどういう事なのですかッ!!アスラン様!!」

普段、滅多に表情を崩すことのない、まだあどけなさを残した青年は、その顔に はっきりと怒りを表していた。


「頼むから少し落ち着いてくれキラ。…君の気持ちも分かるが、俺達の話も聞いて欲しい」

「何を聞けと仰るのですか!このような茶番の何を理解しろと?」

かつての主人の婚約者の言葉に、キラは更に激昂する。

青年━━キラの目の前には、敬愛した主人『ラクス・クライン』に瓜二つの少女が不安げに立っている。

この少女が出てきたあの時の事は、いま思い出しても怒りが治まらない。

市民の間に開戦の兆しという不穏な空気が流れ始めた直後、その場に響いた凛とした声。

身体中が震えた…。


先の大戦時を最後に、聞くことのなかった優しい旋律。
聞く者の心を穏やかにする妙なる美声。…

━━涙が自然とこぼれ落ちた。



だが、その感動も直ぐ疑心に代わった。

「…………違う」

これは、自分がお仕えしていたラクスお嬢様ではない…。


確かにぱっと見は彼女そのもの。しかし、その動きや仕草に洗練された様子は全く見受けられない。

せいぜい彼女の動きを何度も真似た程度のレベル。
故に、これが本物だと分からないのは彼女とあまり関わりのない人物……。


「ラクス様…」

「ラクス様だわ!」


「………」

そう、彼女をブラウン管だけでしか見たことのない多くのプラント市民のような。


その後、ラクスの名を語る少女の言葉によって何とか場の怒りは治まり、皆 平静を取り戻した。


ただ一人を除いては……。



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