真実の愛




━━皇帝を失ったプラント帝国。

それでも変わらぬこの平穏は一部の公爵家達によって保たれていると言っても過言ではなかった。


その公爵家達とは…

女の身でありながら当主につき、今だに外交面において絶大なる力を持つ『ジュール家』


薬学に精通し、代々の皇帝の専属医師として仕えてきた『エルスマン家』


新たな武器や防具を考案し、造り出すことに長けている『アマルフィ家』


そして━━

先代の遠い血縁にあたり、皇帝の座にもっとも近いとされている『ザラ家』

次の皇帝はこの四つの公爵家から選ばれるだろうと国中ではもっぱらの噂だった。


公爵家たちにはそれぞれ一人の子息がいた。

四人は親が同じ爵位にあったことから社交界でもよく顔を合わす昔からの幼馴染みだった。

衝突することもしばしばあったが、彼らは常に切磋琢磨し、時には助け合いながら『信頼』という名の見えない絆で結ばれていた。


(…でも、僕は皆さんが平和に暮らして下さっていれば、それで良いんですけどねぇ)

アマルフィ公爵家の跡取り息子ニコル・アマルフィには、生来あまり欲というものがなかった。

それは残りの三人も(ニコル程ではないが)同じで、野望という言葉には無縁の実直な少年たちだった。


誰も自分たちの親を皇帝の座に据えたい等と考える者はいないし、もし誰かがなっても誰もそれを嫉まないだろう。

小さく息を吐いて前を向くと既に目前には広大なアマルフィ邸が見えてきていた。


屋敷に近づくとニコルの姿を見つけた門番が恭しく一礼をしてから直ぐに門を開いてくれた。

その門を潜り、控えていた厩番にブリッツを預けてから迎えに来てくれた彼と共に我が家に入っていく。


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