真実の愛




自分の名を呼ぶ声に耳を澄ませると馬の蹄の音が段々とこっちに近づいて来るのが分かった。

上半身を起こして振り返ってみると馬に騎乗した男が来るのが見えた。

それはアマルフィ家━━我が家に幼い頃から側仕えとして仕えてくれる者。

一人っ子のニコルにとっては兄のような存在だった。

「どうかしましたか?」

そう聞いたのは、いつも冷静な彼の顔が今は少し焦っているように見えたから。


「城から火急の書状が届きました」

「城から?」

なるほど、彼がいつもと違う様子だったのはその為か、とニコルは納得する。

「内容は私も存じませんが、どうやらその書状、ニコル様宛てのようなのです」

「僕に、ですか?」


いまのプラントに皇帝はいない。

代わりに采配をとっているのは先代がご存命だった頃から重要な役職に就いていた元老院たち。

その元老院がアマルフィ家当主である父を差し置いて何故自分にそのようなものを寄越して来たのか…

「分かりました。すぐに戻りましょう、ブリッツ!」

近くで大人しくいた愛馬の名を呼ぶとブリッツは嬉しそうにニコルの許に掛けてくる。

重さを感じさせない動作で愛馬に跨がり、消えない疑問を残しつつも二人はアマルフィ邸へと急いだ。


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