執事とお嬢様(仮)
アスラン視点
キラと不本意な形で再会して数ヶ月が過ぎた。
あの後、俺は議長の指示通り地球に降下して漸くミネルバと合流することができた。
キラの答えが気になったがその事ばかり考えていられるほど現状は易しくはない。
オーブと大西洋連邦の同盟、カガリとユウナ・ロマ・セイランとの結婚(未遂)。
しかも結婚式の最中にカガリは誘拐され、浚ったのはアークエンジェル。
俺がプラントにいっていた間のオーブ…いや、地球の情勢は目まぐるしく動いていたようだ。
くそっ!俺の考えが甘かったのか。いくら連邦寄りの首長たちでも、自分たちの代表を蔑ろにしてまで無理矢理同盟を締結はさせないだろうと思っていたが……。
いや、もしかしたらこれは良い機会なのかもしれない。アークエンジェルが出航したのならラミアス艦長やバルトフェルド隊長も一緒のはずだろう。
それに恐らくラクスも……。
彼女たちが傍にいるのならきっと大丈夫だ。
「隊長?どうかしましたか?」
「え?ぁ、いや…何でもな━━━」
考えに耽っていた俺を部下のルナマリアが不振に思ったのか心配顔で、俺の顔を覗き込んで…。
「アスラぁ~ン!!」
━━━きたと思ったら聞き覚えのあり過ぎる声がルナマリアを押し退けて俺に抱きついてきた。
「お久しぶりですわ!アスラン♡」
「ミッ!……ラクス、お久しぶりです。何故ここに……」
シン達の視線が一気に俺に集中した。
危ない……、危うくミーアと呼んでしまうところだった。
内心はとても穏やかではいられなかったが、それをおくびにも出さず、アスランはその"原因"を引き剥がし当たり障りのない質問を婚約者に投げ掛けた。
「わたくし、先ほどディオキアでの慰問ライブが終わりましたの。その帰りの車の中でミネルヴァが入港したとお聞きしてーー」
「お嬢様ッ!!」
ミーアの説明の途中で厳しい声が彼女を遮り、今度は俺たちから後ろの人物に注目が移った。
「その様に走られて……、はしたのうございます」
そこにいたのは紛れもなく、先ほどまでアスランを悩ませていた人物の一人。
「あらぁ~?…そうですわねぇ。ごめんなさい、キラ。でも早くアスランにお逢いしたかったんですもの~」
「衆目がございます。いくらアスラン様にお逢いになりたかったとしても慎みを疎かにしてはなりません」
「……分かりましたわぁ」
言葉では了承したものの、彼女のその顔はやはり少しの不満を滲ませていた。
その事が可笑しくて俺は苦笑して目の前の「彼」に向き直った。
「キラ…」
戸惑っているアスランに気づいたキラは恭しく頭を垂れる。
「お久しゅうございます、アスラン様」
その仕草も笑みもクライン邸でいつもラクスと共に自分を迎えてくれた頃と何も変わっていなかった。
ただ一つ変わっていたとすれば、それはキラが自分達と同じ『紅服』を着ていたことだった。
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