執事とお嬢様(仮)
「…少し、考えさせて下さい」
苦悶の表情を浮かべるキラにデュランダルは、構わないと柔和な笑みで答える。
「だが、猶予は余りないことを覚えておいてくれ」
彼女の情報が何処から漏れるか分からない。ならば疑われる前に出来るだけの対処法を彼女自信に学んで欲しい。
自分達は常に傍にいてやれる訳ではないし、マネージャーとして付けた男達も少々頼りない。
キラがいれば心強いが、駄目なら別の策を早急に講じねばならない。
「はい…」
力なく礼をして去っていくキラの後ろ姿を見ていられず、アスランは咄嗟に追いかけていた。
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「…キラ……キラ!」
「…アスラン様」
「すまない、君をこんな事に巻き込んでしまって本当に申し訳ないと思っている」
「……お変わりになりませんね、アスラン様は」
本当に変わらない。この主の婚約者━━いや、今は元と言うべきか。
実直で誠実、嘘のつけない方だ。
軍人だが、スパイ活動には到底向かない、冷静沈着でも冷徹にはなりきれない、優しい人。
最後に会ったのが休暇でクライン邸を訪れたときだから三年近くになるだろうか。
あの戦争で彼も多くのものを失った。
そして新たな開戦の兆しに、自身も色々と苦悩しているだろうに、それでも失わないその優しさにキラは眩しささえ感じていた。
「何事も深くお考え過ぎると本末転倒してしまいますよ、アスラン様。…ですが、そんな お優しいところは、どうかこれからも そのままの貴方様でいて下さいませ」
「キラ…」
「では、失礼致します」
……いや、この争いに巻き込んではいけないのは自分ではない。
本当に巻き込んではならないのは━━━
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「ミーア……ミーア、そろそろ起きてくれ」
「ん…うぅん?…ァスラン…?」
目の前に広がるエメラルドグリーンの瞳と藍色の髪に段々と頭が覚醒する。
…そうだ。あたし緊張とふわふわのベッドの誘惑に負けて眠っちゃったんだっけ。
「議長がお帰りになる。君も次の仕事場まで送って下さるそうだから」
「ぁ、うん」
確か次のお仕事はファンクラブ限定販売のビデオクリップの撮影だっけ、マネージャーがやたらと気合い入ってたから覚えてる。
「……あれぇ?そう言えば執事さんは…?」
今日ってその為にここに来たんじゃなかったっけ?
……ぁああ~ん、もうぉー!寝起きで頭が全然働かないー!!
「キラは先に帰ったよ。少し考えたいそうだ」
「……ぁ…そっか」
その答えであたしの眠気は一気に覚めちゃった。
でも、しょうがないよ。だっていきなり現れて自分の御主人様(お嬢様?)の偽者に協力してくれ!な~んて言われたって困っちゃうもんね。
アスランだって最初は怒ってたし、…うん、静かに怒ってた。あたしあの時、結構落ち込んだんだよ。
だから、しょうがないよね。うん、しょうがない……。
だって、あたし 『偽者』 だもん。
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