執事とお嬢様(仮)
「確かに私は、シーゲル様の思想を引き継ぎ、争わず、対話という道で世界を平和に導きたいと思っている」
フッとキラは鼻で笑った。
その平和へと導く為の手段が、一人の少女━━しかも、なんの力も持たない偽者にすがる等……。
シーゲル様はそんな姑息な真似は決してなさらなかった。
きっと、最期まで━…。
「だが、だからと言って私は、クライン元議長のように、易々と殺される訳にはいかないのでね」
「ッ!!?」
「議長っ!!」
ぎりっと奥歯を噛み締めた。
そうしなければ衝動的に目の前の男に殴りかかっていただろう。
軽い殺意と同時に心を読まれたのかと錯覚させる議長の言葉に、キラは言い返すことが出来なかった。
「すまない…、キラくん。私とてクライン議長のことを貶めるつもりはない」
(何を…今更ッ!!)
「だが、分かって欲しい。私にはクライン議長のように盟友もいなければ、後ろ楯もない…。私には頼るものが何一つないのだよ」
デュランダル家は、クラインやザラ程の資産家ではない。
遺伝子学の権威などと呼ばれてはいるが、プラントの一番の難題━━二世代以降の急激な出生率の低下問題の研究により、資金は底を尽き、支援者も芽の出ない研究に一人二人と離れていっている。
そんなデュランダルに残されているのは、為政者として実直にやってきた己を評価してくれたプラントの市民だけ。
彼らは、こんな自分の努力をを認めてくれていた。
唯々純粋に嬉しかった。
だから、例えどんな汚い手を使ったとしても、全ての人間を欺く大罪を犯そうと、私はプラントを━━彼らを守ろうと誓った。
そしてそれが、現プラント最高評議会議長であるギルバート・デュランダルの最大の務めでもあるのだから。
「………」
.