Innocence《完結》
あの後やっと母から理由を聞けた。
かなり真面目な話だったのに、何故あんなに嬉しそうだったのか解らない。
要は父上達えらい人が地球軍に狙われて、家族の自分達にも危険がおよぶかもしれないから、しばらくのあいだ月に身を隠す━━という事らしい。
俺は一つ頷くと直ぐに自分の部屋に行き、荷物をまとめ始めた。
といっても俺の部屋にあるのは衣類と本、去年の誕生日に母上が買ってくれたマイクロユニットの工具とキットくらいだ。
数日分の衣服と気に入っていた本、工具とキットをトランクに詰める。
その作業は一時間もしないうちに全て終わってしまった。
(……終わった。やる事がない…ひまだなぁ)
母にその事を告げに言こうと部屋を訪れるが、こちらはまだトランクに詰める前。
必要な物とそうでない物の仕分けをしている途中だった。
「あら?アスラン、もう終わったの?」
扉の前に立っていた息子に気づいたレノアは、動かしていた手をとめて聞いた。
コクンッ
静かに首を縦に振ると母は俺の前にひざをついて「じゃあ、お友達にお別れを言って来なさい」と言った━━が…
当時、俺には親しい友━━いわゆる親友がおらず、上辺だけの付き合いの奴が数人いただけだった。
…いや
まだ四年と数ヶ月しか生きていない子供に友達は出来ても親友が出来る奴なんてそうはいない。
この歳で上辺だけの付き合いをしていた俺のほうが恐ろしい。
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