Innocence《完結》
『アスラン、月にお引越しですよ』
そう、全ての始まりは
母上のこの一言だった。
「???」
唐突な母の会話。
それはいつもの事なので俺は首を傾げる動作だけした。
それに対して母━━レノアは、ふふっと微笑するばかりでアスランの欲しい答えをくれようとはしない。
このままでは埒が明かないと、俺は思い切って疑問を口にしてみることにした。
「母上、どうして僕たちがおひっこしをするのですか?」
常日頃から仕事で家にいることの少ない母。
その母が今この時間にいる事と何か関係があるのか?とアスランは子供らしからぬ思考を廻らせる。
いま思えば、なんて子供らしくない子供だったんだろう…ι。
無邪気に笑うことも、感情のままに癇癪を起こすこともない。
良く言えば手のかからない、悪く言えば育て甲斐のない子供だ。
だが、そんな俺に母上は別段動じることもなかった。
その母が唯一俺によく言い聞かせていたのは
『コーディネイターはただ器が大きくなっただけなのよ』だ。
十七になった今なら母の言っていた事がよく分かる。
でもプラントから出たことがなかった当時の俺にとっては、『ナチュラル』はニュースや本でしか知らない存在だった。
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