Jigsaw puzzle《完結》
目の前で安らかに眠るキラの頬をアスランは優しく撫でる。
「……キラ」
母がカリダおばさんを連れて帰った後、直ぐに医者から呼ばれた。
診断の結果、キラはを軽い脳震盪だと言われて心底安心した。
直に目を覚ますとも…
でも━━…
「アスラン…」
「っ……父上」
キラを診てくれた医者と別室で話をしていた父が小さく俺を呼ぶ。
キラの事で頭がいっぱいになっていた俺は、声をかけられて初めて俺と彼女以外の人が病室にいる事に気づかされる。
「………」
無言で出ていく父の行動に促されるままに、俺はなるべく音を立てずにキラの病室を後にした。
七時を過ぎると、人通りもまばらになった病院の廊下は、静寂が支配していた。
「お前の所為ではない」
項垂れる息子の肩にパトリックは優しく手をのせてその横に座る。
それに対し、アスランはゆっくり首を振って否定を示す。
「…俺の所為ですよ。
俺がもう少し早くキラに話を聞いていれば…」
そうすれば少しはマシな結果になっていたかもしれない。
彼女はいち早く自分の変化に気づいてくれていたというのに……
『アスラン、さびしいの!ずっとずっといい子にしてたの!』
(……キラッ!)
慰めの言葉で更に自己嫌悪に陥るアスランを見て、パトリックは呆れたように言う。
「……そうやってお前が自分を責めた所で、物事が解決する訳ではあるまい?」
「………」
解っているっ!!
けれど、目の前であんな光景を見たら落ち込まずにはいられない。
あんな……っ!
「━━それにお前が聞いても、きっとあの娘は何も話さなかっただろう」
「っ……どうして、そう思うんですか?」
父が何故そんな事を言ったのか分からないアスランは覇気のない瞳を向ける。
「…アスラン、お前はまだ“あの時”の事…覚えているか?」
━━“あの時”
……コクリッ
考えるそぶりも見せずに小さく頷いたのを確認して少し胸が痛んだが、パトリックは無視をして再度話を始める。
「その時に私たちの事を、お前はすぐキラくんに話したか?」
「……ぃ…いいえ」
苦虫を噛み潰したかのような息子の顔に、自分が言わんとする事を理解したのだとパトリックは受け取る。
「それと同じだ。キラくんも話さなかった…、話せなかったのだろう」
自分の理想が目の前で自分ではない誰かに再現されていたのなら、尚更。
寂しいなんて言えない。
ただ一緒にいたいだけなんて
邪魔なんてしたくない。
迷惑だってかけたくない。
二人の笑っている顔が見たいだけだから。
だから言わない。
良い子にしてるよ。
だからっ!
…そうだよな
言えないよな━━キラ…
ごめんな…
そんなことにも気づかなくて…
ごめんな…
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