Innocence《完結》
家を後にして少し歩いていたが、やっぱりあいつらには別れを言うほどでもないだろうという結論に至った俺は、軽く散歩をして時間を潰すことにした。
通い慣れた道、見慣れた風景。
暫くその景色を見ることがなくなると解っていても、アスランには何の感慨も沸いてはこなかった。
特に思い入れがある訳でもない。
何の変哲もない唯の道。
何処にでもある平凡な風景。
(どうせ何年かしたら直ぐ戻って来るんだから…)
感傷に浸ることなんかない。
それは何も失ったことのない者の台詞。
なんの疑いもなしに明日は来ると思っていたあの頃。
俺は変わらぬ日々を抜け殻のように過ごしていた。
…その変わらぬ時がどれ程尊いものか、考えもせずに…。
━━散歩は数十分としないうちに終わってしまった。
家に帰っても母上はまだ整理中で。
仕方なしにトランクに詰めていない、本棚に残された本を一冊手に取り、暇を潰すために再度読み始めた。
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「アスラン、もう帰っていたの?」
「はい、母上」
母に声をかけられて窓の外を見るが、太陽はまだ完全に沈んではいない。
時計を見ても、まだ5時過ぎだった。
「明日のお昼前には此処を立つわ。あっちではお手伝いさん達も雇えないけど、お母さんがいないときは知り合いの人に貴方をお願いするから良い子にね」
「知り合い…?」
「そう、お母さんの昔からの親友なのvV」
カリダって言うのよ、と華やいだ笑みを浮かべる母親に、あの時嬉しそうだったのはこういう理由かと内心で溜め息をついた。
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