二万打記念小説


互いに譲らぬ攻防戦。

その緊張の糸を切ったのは━━。


ぐぅ~…、きゅるるるぅ……。

限界を訴えるアスランのお腹だった。

顔が熱くなる。アスランはこの時ほど恥ずかしい思いをした事がない。

そもそも王子が空腹を我慢する等あり得ない……のだが、自分にだって一国の王子としてのプライドというものがある。

あんな粗末な食事や苦すぎる薬など口に出きる訳がないだろう!

薬は飲め!と無理矢理胃に流し込まれたが夕食は抵抗し通してやった。

…その結果が今のこの腹の虫なのだが。

「…はぁー、まったく世話がやけるんだから」

大きな溜め息の後に投げて寄越したのは真っ赤に熟れた美味しそうな━━

「りんご!」

「へぇー、王子さまでもりんごは知ってるんだねぇ~」

軽い嫌みも耳に入ってこない程アスランは夢中でりんごにかぶりついた。

一つ二つとりんごを平らげ、そこにあった四つの実は全て芯だけとなった。

満腹とはいかないまでも少し満たされたお腹を撫でながらアスランはさっきまでそこにいたケモノがいないことにやっと気づいた。

「こんな物があるならさっさと出せばいいものを……」

なんて意地の悪い奴なんだとブツブツ愚痴りだすが、それも襲ってきた睡魔によって長くは続くことはなかった。

(明日にでも、絶対に文句を…言って、や…る…)

眠る直前まであのケモノに明日なんて言ってやろうか等と子供染みた事を考えながら、アスランは少し遅い眠りに就いた。



*****


「本当に…困った我が儘王子さまなんだから…ッ」

違う部屋でアスランと似たようなことを言っていたケモノは、ズルズルと壁に凭れ掛かるように力なく座り込んだ。

(これで死んだら、僕 馬鹿みたい…かも)

呟くケモノの足許には小さいながらも真っ赤な液体が幾つも溜まり始めていた。

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