二万打記念小説
ウォーーン!
「…ぁ」
聞き慣れた遠吠えに顔を上げる。
ウオォーン!
暫くしてその声に呼応する複数の遠吠え。
低く太く腹の底から絞り出すようなこの声は…。
「狼の声…」
*****
「イージス急げ、追いつかれるぞッ!!」
後ろを何度も振り返りながら腹を刺激して愛馬を急がせる。
イージスもそれに応えるように、荒い息を吐いて懸命に脚を動かし続けていた。
アイツらとの距離が少しずつだが確実に開いている。
このまま森の外まで走り続ければ逃げ切れる!
そう思った瞬間、右から黒い大きな影が自分たちに向かって飛び掛かって来るのが分かった。
「…っ?!!」
とっさに手綱を反対に引くことで鋭い爪はアスランのマントの裾を掠るに止まったが、この事で出来る隙を彼らは逃さなかった。
後方からアスランを追い掛けていた内の一匹がイージスの後ろ脚に鋭い牙を突き立ててきた。
「うわっ!━━ッ、落ち着けイージス、落ち着くんだ!」
突然の痛みに驚いたイージスは、噛み付いてきた灰色の獣を引き離そうと暴れ回り始める。
「イージス!!」
狂乱状態のイージスに、アスランの声など聞こえていない。
今はただ手綱をしっかり握り締めて、この獣と一緒に振り落とされないよう堪えるだけ。
━━だが、すでに四方は取り囲まれていた。
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