二万打記念小説



あの後、彼女は直ぐに国に帰っては父達に叱責を受けるからと、暫く城にいる旨をニコルに伝えてさっさと与えられた部屋へ戻って行った。


その内容はニコルにとってはとても有り難い事だった。

カガリ姫が滞在している間に王子を連れ戻し、地面にめり込むぐらい彼女の前で土下座させてから残りの日数を予定通りに過ごさせれば、なんとか国も王子としての面目も立つと言うもの。

━━が、同時にそこまでしなくてはならない自国の王子がニコルは情けなくてしかたがなかった。


「ハァ…」

窓辺に肘をついて息を吐くと、ゆっくり肩の力が抜けていくのが分かった。

顔を上げると自分の心の中とは裏腹に何処までも蒼い空が目の前に広がっている。

(アスランも根は良い人なんですけどねぇ…)


…良い人なのだが、あまりにも悪い面が目立ち過ぎて、一握りの良さを誰も見つけることが出来ない。

彼の相手になる人は、そんな小さな事にも気づいてくれて、尚且つ寛大な心の持ち主がいいと思ってはいるが……


(そんな夢を絵に描いたような女性なんて、そうそういるわけ……)

もし、いたとしてもこの広い世界で二人が出逢う確率なんて、ないにもひとしい。

「ハァ…」

知らず知らずのうちに出る溜め息に、今度は肩がずしりと重くなる気がした。




******

―呪いの森周辺―


「全く、なんて無礼な奴らなんだ!」

端正な顔を歪ませ、不機嫌な顔を隠しもせずに道のど真ん中を行く少年。

珍しい赤毛の馬に乗る姿は正に上流貴族の令息。

「城に戻ったら、直ぐに罰を与えてやるからな」

少年は先ほど街であった待遇を思い出し、憤慨していた。

自国の王子である自分が街に来てやったにも関わらず、頭一つ下げないどころか、俺の命令に背くなどと…

城に帰ったら極刑にしてやるからな!


━━そう、彼こそ、カガリ姫の婚約者にしてニコルが捜していたこの国の王子、アスランであった。


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