二万打記念小説
西の森に辿り着いた魔女・ミーアは、身体が小刻みに震えているのが自分でも分かっていた。
彼女の視線の先にいるのは噂の少女。
少女は何かを探しながら草や花を選んで摘んでいた。
顔や服の至るところに泥がついているから、もしかしたら転んだのかもしれない。
でもそんな事、今のミーアにとってはどうでも良かった。
手を強く握っても、唇を硬く引き結んでも治まらないこの感情の名を彼女は知っている。
『嫉妬』だ。
少女が笑うのを見て、またその思いが強くなる。
「……っ!」
噂の少女は確かに美しかった。
『生きる宝石』とまで言われた自分たちにも引けをとらないくらい。
ミーアも認めざるを得なかった。
でも心が拒否をしている。「認めたくない」と
容姿でも力でも姉と自分を脅かす存在なんて赦せない!
だが、人を殺す事は魔女の最大の掟に反してしまう。
だったら…
あの子を醜い化け物に変えてしまえば良い。
そうすれば、自然その美しさは失われ、化け物に変わった少女の姿を見た街人は恐れて彼女を始末しようとするだろう。
わざわざ自分が手を下すまでもない。
口許を吊り上げてミーアは懐から出した杖を少女に向ける。
「さようなら…お美しいお嬢さん?」
別れの言葉と共に軽く杖を振れば、青白い光が薄暗い森を照らした。
「ふふっ♪」
満足そうな顔で帰っていくミーア。
光が放たれた場所にいた筈の美しい少女は姿を消し━…
あとに残ったのは醜い化け物が一匹。
プロローグ-END-