whereabouts
俺の腕の中ですやすやと眠るキラ。
その目もとは少し赤く、先程まで泣いていたことが容易に理解出来る。
そして、そんな彼女の髪を手馴れた様子でシン梳いていた。
「……泣き虫キラ」
ボソリと呟いた一人言にも反応を示さないキラ。
よく眠っているようだ…。
最初は涙も見せずに大丈夫だと力のない笑顔を作っていたキラ。
そんなキラに我慢出来なくて部屋に無理矢理入って、泣いているキラを抱き締めた。
「シンさん…?」
「ばっか野郎ぉ……。何でもかんでも一人で抱え込みやがって…!!」
イライラしながら昔、妹にやってやったように抱き寄せて頭を優しく叩いた。
暫くしたらキラは少し体の力を抜いて本当に少しだけ俺に体を預けてきた。
すぅー、すぅー
せめて夢の中で位は、優しい穏やかな気持ちでいて欲しいけど、時として夢は現実の世界よりも残酷なものを見せることをシンは知っている。
「お前は一体どこまで頑張る気だよ……」
キラの悪夢はいつ終わる?
フリーダムのパイロットだからやっぱりこの戦争が終わるまでか?
オーブでの戦闘でも戦っていたのは確かな筈だ。…じゃあ………じゃあ、キラはあと数ヶ月はずっとこの状態…。
「持つわけ、ないだろう……」
こんなことをあと何ヵ月も延々と続けていたらキラは完全に壊れて━━━
(相変わらず仏頂面だな。美人なのに勿体無い)
「っ!!?」
何の反応も示さない表情。良く出来た人形みたいで気持ち悪いと思っていたけど
もしかしてあの時既に、キラ・ヤマトは壊れていたとしたら?
「キラ………っ」
━━どうか傍にいてさし上げて下さい。
そんな時、ある少女の顔が浮かんだ。
緩やかなウェーブが掛かった優しいピンクの髪のお姫さま。
俺がいた時代のクライン派のトップ。
でも、そこで俺は彼女に会ったことがない。戦後プラントに戻った彼女は直ぐに最高評議会に呼ばれ、懇願されて評議会議員の一人となった。
本当は議長にと乞われていたらしいのだが、ラクス・クラインはこれを完全拒否。
自分のような若輩者がいきなり国のトップに立てば、必ず混乱と反対派閥の増長を招くことになりかねないからと。
そして俺はこの時代の彼女と出会った。
俺が知る彼女より少し幼い容貌のふわふわとした深窓の令嬢。
“ピンクの妖精”という言葉が本当に似合う少女だった。
1+1は何でしょう?
過去の彼女は唐突に俺に言った。
針の筵であろうアークエンジェルでも笑顔を絶やすことのない少女。
逆にキラを気遣い俺に託そうとしてきた。
「同じ言葉を発しても……悲しい事ですが今のキラ様にはお友達の声は届かないでしょう…」
キラにとって、この艦にコーディネイターが一人ではないという事はそれだけで力になる。
2にも3にもなることが出来る。
だから、傍にいてあげてくれと言われた。
例えシン(コーディネイター)に依存したとしても、今を乗り越えなければ明日はない。
それにキラが護っているのは間違いなくナチュラルの友や民間人だから。
そんな言葉を残して嵐の様なお姫さまはアスランの手を取りザフトへと帰っていった。
「………」
でも、彼女を逃がして少しの混乱が残るアークエンジェルで俺は改めて気づいた。
キラが護っているのは間違いなくナチュラルなんだろう。
そして、戦って殺しているのも間違いなく俺やキラと同じコーディネイターだという悲しい事実に…。
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