夢の始まり〈中篇〉
「でも、でも僕…分からないんだ…」
「俺のことが好きかどうか、…ですか?」
コクンと頷くキラ。
彼女の両手は膝の上で不安を現すように震えている。
「大丈夫ですよ、俺にも分かりませんから!」
「…………へ???」
動揺するキラに拍車をかけるシンの一言。
まさか告白した彼からそんな言葉を聞くとは、キラも思わなかった。
「ぇ……あの、…シンくんは、僕のことを…すっ、好き…じゃない?」
「いえ、好きです!」
「え、え、ぇえええっ?!!ちょっ、待って待って!」
シンの矛盾過ぎる返事に、もしかしたら自分は彼にからかわれているのではと、思うほどキラの頭は大混乱だった。
「えっと、あの……どういう」
確かに自分もシンに似たようなことを言ったかもしれないが、シンは最初に好きだと告白してきたのだ。
「えっと……リンに言われたんです。俺のキラさんへの思いが勘違いかも……って」
「リン…。シンくんのお友達のコリン・ウォービルさん?」
キラの脳裏にモルゲンレーテで友達だと紹介された柔らかな少女の声が甦る。
「俺がキラさんに一目惚れしたって、どうしたらいいかって…あいつらによく相談してたんです」
「ひ、一目惚れ?!!」
「そうですよ?あの場所でキラさんに出会ってから俺━━━」
どんどん貴女に惹かれていったんですから。
自分の言葉でキラが困って、悲しんで……でも一番はやっぱり喜んで、笑って顔が良い。
リンはキラに告白する前にシン自身は惚れたことを自覚しろと言っていた。じゃないと俺もキラさんも傷つくと━━…。
その通りになったのかもしれない。
俺がキラさんに出会って一目惚れして、二人に相談して勘違いかどうか、すっげぇ悩んだこと。
本当なら、そんなことキラさんに話す必要なんてないけど……でも、俺もその事で何度も何度も悩んだから。
「だから!…だから俺の気持ちが間違いじゃないって分かって欲しくて。……このまま終わらせたくなくて!キラさん困らせたくないけど、俺も俺の気持ち抑えきれなくて」
「シンくん…」
「何も言わずに終わるより、言って何年後かに笑い話に出来る方が俺もフッ切れるかもしれないし、それにキラさんだって…お、俺に気兼ねなく次の恋……出来るだろうし…」
語尾をを濁しながらもシン言葉の端々からは彼の本当の気持ちがキラにも伝わってくる。そんなシンの真剣な思いからキラも逃げたくなかった。
「じゃあ、二人で確かめようよ!」
「…確かめる?」
「僕たちがお互いに…その、本当に…好き……かどうか///」
「『お試し期間』…みたいなモノですか?」
「う…うん、そんな感じ…かな」
「じゃあルール決めませんか!期間は一ヶ月、名前は呼びすてで!とか」
「ぇええ!?期間はいいけど……呼びすてはまだ…」
「そうですか?じゃあ呼びすては保留にして…後は━━━」
こうして、俺とキラさんは『お試し期間』の恋人となった。
本当は俺も告白ならしっかり自分の気持ち固めて、雰囲気のいい場所でかっこ良く決めたかった。
突然告白した挙げ句、あーだこーだと言い訳してキラさんの気持ちも先伸ばししたみたいでなんかかっこ悪い。
俺にはその位がお似合いって言われそうだけど…。
でも、終わりよければ何たらってヤツでお試しでも仮でも『恋人』であることにかわりはない。
━━この日、俺のキラさんへの想いは今日、ただの『同僚の家族』から『お試しの恋人』に昇格という一気に五歩も十歩も前進した。
《後篇に続く》