夢の始まり〈中篇〉
「じゃあ、帰りましょうか」
二人を見送った後、キラへと向き直るとシンはゆっくり歩き出す。
「うん…でも、本当にいいのかなぁ?」
「?、何がですか…?」
彼女の突然の脈絡のない会話に、シンは頭に疑問符を浮かべて聞き返した。
「僕がアスカのお家に住んだりして…」
「へっ!?……あの、キラさん?」
「あっ、やっぱり駄目だよね。ごめんね」
キラが言った事の意味は解らないが、自分の態度に彼女が誤解をしている事だけ解ったシンは、全力で否定する。
「ち、違います!キラさんがうちに住むってどういう事ですか!俺っ、なんにも聞いてませんよ!」
シンのその言葉にキラは困惑した。
「えっ!でっでも、一緒に住まないかって、アスカさん達━━シンくんのお父さんとお母さんが言ってくれたんだよ」
「………」
「…ぁ」
シンが何も返さないことから、本当に何も知らないのだと感じとれた。
無言のシンにキラは、このままアスカ家に行く訳にはいかないと今夜の宿を何処にしようかと考えだす。
「いまの時間帯ならまだ予約してなくても大丈夫かな…」
「…キラさん」
「あっ、でもアスカさんの家に荷物を置いてるから、まずそれを取りに行かないと…」
「…キラさん」
「話はその時にして、纏まるまでの間にホテルを探して、それから…」
「キラさん!!!」
「ふぇっ!?」
一人でブツブツとこれからの事を考えていたキラにはシンの呼びかけは全く聞こえていなかった。
「帰りましょう!キラさん!」
「ぁ…うん、そうだね。僕の荷物の事もあるし、シンくんのお父さん達とも話さなくっちゃだしね」
目の見えないキラにはその時のシンの爛々と燃える真っ赤な瞳には気づけない。
「…しっかり掴まってて下さいね」
「ぇ、シ…ンくん…?」
燃える瞳に気づくことはないが、その異様に力の入った口調に背中に嫌な汗が伝うのを感じた。
「えっ?……ぇえええええっっ~~!!?」
次の瞬間、キラは自身に感じたことのない風圧が掛かるのが分かる。
必死で車椅子にしがみつきながら早くアスカ家へ着く事をキラは心から願っていた。
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