夢の始まり〈前篇〉
(暇だなぁー )
父さんが本社まで行って暫くした頃。
「…んっ?」
いかにも高そうな黒塗りの車が一台、マンションの入り口に停まった。
運転席から出てきたのは黄褐色の長い髪を纏めた女の人。
「さぁ、着いたわよ」
「あっ…ありがとうございます」
そして、助手席から出てきたのは━━
「キラ…さん?…っ!」
気づいたら俺は走り出していた。
見えたのは亜麻色の髪だけ。でも今の俺にはそれだけで十分だった。
「キラさん!!」
「…えっ」
「…?」
振り向いたその人はやっぱりキラさんだった。
「お仕事。おっ…、終わったんですか…?」
「……ぁ…、シ…ン…くん?」
「っ!!! はいっ!!
そうです。シン・アスカ!」
覚えていてくれた。
俺の事…俺の名前まで。
嬉しい、すごく嬉しい。
「あら、キラさんの知り合いの子?…ひょっとして…彼氏?」
「あっ、えっ////」
「あの///シモンズ主任。シンくんはアスカさん達の息子さん、なんです」
俺があたふたしていると、キラさんがとても簡潔に話してくれた。
本当に簡潔に…
それが少し悲しくもあったが、あまりにも事実だったので何も言えない。
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