しあわせを願って
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騎士団の集会(Kaeya , Eula & Jean)
その日もまたエンジェルズシェアの扉を開けたガイア・アルベリヒに「いらっしゃませ」と声をかけたのはバーテンダーのチャールズだった。
「よお、良い酒は入ってるか?」
「こんばんは! 今日は蒲公英酒がおすすめですね。それはそうと二階に珍しい方が来ていますよ!」
「蒲公英酒が入ってるなら、午後の死を頼む」
ガイアが慣れたように片手を上げてチャールズに答えた。酒の入荷状況を尋ねるガイアにオススメを話してからチャールズはもうひとつガイアに情報を教えた。
彼に言われて二階を見上げれば同じ騎士団のエウルア・ローレンスと目があう。別に彼女がいることは珍しいことではない。しかし、知り合いがいるということでチャールズの言葉を気にしながらガイアは蒲公英酒がおすすめだと聞いてすぐさまお気に入りの午後の死を注文した。チャールズが酒をつくってくれている間に彼と世間話をして、できた酒を受け取り階段へと歩を進めた。
二階に上がると彼の言ったことを理解することができた。金色の髪を黒いリボンで高い位置でまとめたその人は酒場であろうと姿勢正しく座っていた。騎士団での業務が多忙な彼女が酒場にいるのは珍しい。本当に珍しいことだ。チャールズが珍しい人と形容したのは彼女のことに違いない。そう思ってガイアは彼女たちに歩み寄った。
「よお、こんなところで会うとは珍しいじゃないか!」
「ん?……ああ、ガイアか。私もたまにはこういう日もあるさ」
少し大げさなガイアの言葉に答えたのはジン・グンヒルド。彼女もまた西風騎士団の一員である。西風騎士団の創設者といわれているヴァネッサと同じ蒲公英騎士という称号を得ている女傑でもある。そう、チャールズが言う珍しい人というのはジンのことだった。二階には彼女達以外は誰もいない。ガイアは隣の席から椅子を動かして相席をすることにした。
「一体どうしたんだ? 何かあったのか?」
「特別な日だから誘ったのよ」
「特別な日?」
ジンが酒場で酒を飲むのはとても珍しい。だからこそ抱いた単純な疑問。そんなガイアの問いかけに答えてくれたのはジンと同席していたエウルアだった。特別な日と聞いてガイアは考えた。この真面目なジンが酒を飲むのだから慶事なのだろう。彼女はヤケ酒をするようなタイプではない。
慶事、つまり祝い事。祝い事とは何か。騎士団で何かの任務があってそれが成功したわけでもない。それならもっと大人数で騒ぐはずだし、当然ガイアも知らないはずがない。だから違う。エウルアとジンの2人。個人的なことかと思ったがジンと仲の良い図書司書のリサはいない。かなり内々の話のようだ。そこまで考えてガイアは先日ディルックに呼びだされたことを思い出した。
「! ……あれか……ディルックとなまえのことだろう?」
「――ああ、そういえばあなたってラグヴィンドの養子だったわね」
ガイアの予想にエウルアが肯定の代わりにガイアの身元について口にした。
「この間珍しく呼び出されてディルックのやつが話していたんでな」
いくら喧嘩別れしたとしても2人の関係は義兄弟のままだ。別にわざわざ呼び出さなくても良いとガイアは思うのだがそういうところにディルックの真面目な面を垣間見ることができる。ガイアの言葉にジンが先輩らしいと大真面目にうなずいていた。
「私とエウルアはなまえから聞いたんだ。本当はなまえも誘いたかったんだが」
「あの子、あまり人の多いところ好きではないから」
「ほとんど郊外にいるんだろ?」
ガイアは以前見たなまえの後ろ姿を思い出した。彼女とは話したこともなければ近付いたこともない。どんな顔をしているのかさえもガイアは知らなかった。
「そうよ。夜はさすがに家に帰っていたんだけど、先日あなたのお義兄様が乗り込んできて色々あったみたいで……家を勘当されたの。そのせいで、今はアカツキワイナリーの世話になっていると聞いたわ」
ガイアにとってその話は初耳だった。ローレンス家はモンド城内の者とはほとんど交流しない。そして、これはどこの家にも言えることだがそういう内輪の恥は隠す傾向にある。とにかくそのような経緯もあってローレンスの情報は外に漏れにくい。しかも手塩にかけて育ててきた娘があの憎きラグヴィンドの当主に連れて行かれたなどとローレンス家にとってはそれこそ末代までの恥ではないだろうか。
しかし、ディルックがローレンス家に行ってなまえを連れ帰ってきたとは意外と大胆なことをするなとガイアは思った。それだけの価値がその女にあるのだろうか。ガイアはなまえに興味を抱いた。ディルックにとってのなまえとはそれほどのものだったのか。一度話してみる必要がありそうだ。それは好奇心と少しの懐疑心。
ジンもディルックも人を見る目は持っている。そんな2人が認めた人間だから悪い女ではないだろうが、それでも自分の目でなまえ・ローレンスを確かめてみたくなった。
「……へえ。そりゃ興味深いな。挨拶がてらに今度、その義姉上にお話でも聞きに行くかな」
ガイアのその言葉を聞いてエウルアの瞳がガイアを射抜く。エウルアは静かに手にしていた酒の入ったカップを置いた。少しの沈黙のあとエウルアは口を開く。
「……あの場所はあなたの家でもあるのだから、私がどうこうできる権利はないわ。けれど、なまえを悲しませたら……私がなまえの代わりに復讐するから」
エウルアの話すトーンは平時と変わらないように聞こえた。しかし彼の言葉の中に含まれた小さな悪意をエウルアは見抜いていた。
復讐する、といつも言葉にするエウルアだったがその言葉には本来の意味があるとは思えないとガイアは思っていた。だが、いまエウルアが口にした復讐という言葉には本来の意味での復讐が使われているとガイアは理解した。爛々とガイアを射抜くその目がそう語っていた。本気を見せたエウルアの様子にガイアは意外だと思った。どうやらエウルアにとってなまえという存在はガイアが思うよりもずっと大切らしい。
「……ローレンス家というのは恐ろしいものだな」
「当たり前よ。だってあのローレンスだもの」
参ったというように手をあげたガイア。その後、少し茶化すような態度でわざとらしく言葉を紡いで肩をすくめて見せたガイアに挑戦的な笑みを浮かべてエウルアは酒に口をつける。そんな2人の様子を静かに見ていたジンはため息を吐いた。しかし、呆れたような様子を見せるだけで先程のエウルアの態度をジンは止めようとしなかった。
あとがき
お読みいただきましてありがとうございます。
3人で集会というのかという疑問は私にもあります。良いタイトルが思いつきませんでいた。すみません。ガイアのこと書くといつも思うんですがガイアの位置づけが私の中でちょっと不確定でよくわからないんですよね。難しいです。
私が忘れていた豆知識
午後の死=モンド特製白のスパークリングワインに蒲公英酒を3割ほどまぜたもの