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お姉ちゃんはなんでもできるとてもすごい人だ。
勉強も剣の腕も何もかも、私は姉に勝てたことがない。一族の誇りと呼ばれるその人は私がどんなに努力しても到達できない高みに登り詰めた。
才能。私になかったもの。努力も才能だという人もいるけれど持って生まれた能力には勝てない、そう思いそうになるほど追い詰められていた。私は一族の誇りと呼ばれるために必要な才能がなかった。
悔しい。それでも私は姉のことが好きだった。……もしかしたら好きだと思うことで自分を保っていたのかもしれない。
……そう思わなければ姉だけではなく両親……大切な家族を傷つけることになるから。それだけは嫌だった。私がそんなことを言えばきっと父は傷つくから。
「……」
夜風が冷たい。私の心を現すかのようなその風。父は今日は帰ってこない。そんな日がくると私は1人、モンド城の外へ出る。外と言っても小門から反対側にまわって人のいない所でただ座ってモンド城を背に水の向こうにある清泉町の方向を見つめるだけだ。暫くそうしていると草がカサカサと動く音がしてやっぱり今日も来たのかと思った。
「……」
何も言わずに隣に座り込む気配がした。私も何も言わない。だれかなんてわかっているから。ここでしか会わないなまえという女の子。普段何しているのかは知らない。おそらく彼女も私のことは名前しか知らないと思う。いつの頃からか眺めていると決まってなまえは私の隣にいた。はじめは嫌だった。こんな弱った自分を誰にも見られたくなくて、ここに1人で来るのだから。それなのに人に会うなんて、ついていないと思った。けれどそれは私がなぜこんな夜中にここに1人でいるのか聞かれることが嫌だったから。なまえは私を一瞥するだけで何も言わなかった。しばらく、ドキドキしながら彼女をちらちらと気にしていた。そしたらようやくなまえは口を開いた。
「隣……座っていい?」
「えっ……うん」
私が思ってもいなかった言葉だったから咄嗟に了承してしまった。なまえはありがとうとひとこと言って隣に座る。そのあとは何の会話もなく時間だけが過ぎていった。私はずっと何か言われるんじゃないかとドキドキしていたけれど結局それは杞憂に終わった。朝日が出る前に私たちは何も話すことなく別れた。その時はまだお互いの名前さえも知らなかった。それから何度か同じ場所でなまえと会った。私が早い時もあればなまえが先にいる時もある。もちろん会わない日もあった。そうして何度か共にいると私はなまえになら話しても良いのではないかと思えた。ずっと誰かに言いたくて、それでも言えないこと。努力が実を結ばない事。私はいつしかなまえにそのことをポツリ、ポツリと話していた。名前しか知らない彼女は存外話しやすかった。普段のお互いを知らないことが良かったのか。とにかく私は自分の置かれている境遇についてなまえに話していた。一度話すと気が楽になるのは誰しも同じだろう。
「……なまえ」
「なあに」
なまえはいつも話を聞いてくれる側だ。自分のことは話さない。私も聞かない。それが暗黙のルールのように感じた。お互い言いたいことだけ言って、相手のことは聞かない。だからこそ続く関係もある。この小さな夜会は私達だけの秘密であり、不定期なものだ。私達はお互いに自分達がどこの誰かも知らない。知らなくていい。
「……私ね、剣の修行やめようかと思うの」
「……」
「こんなにマメができたのに、私……全然ダメなんだ」
両親や姉、皆すごい才能を持っている。姉なんて一族の誇り、とそう呼ばれている。劣等感に苛まれて吐き気がしそう。努力しかできないのに、頑張ってもどうにもならない時はどうすればいい。そう私が劣等感に苛まれて、気持ちが沈んでいるとなまえが静かに口を開いた。
「バーバラには、休みが必要なんだよ」
「休み……」
「そう、休み」
そういえば最近はほとんど休んでいなかった気がする。だって、休みは怠惰であり努力という私の一番信じるものとはかけ離れているから。
「でも、休んだら……」
「バーバラ、聞いて。休むことは悪いことではないと思うの」
なまえの言葉の意味が私にはわからなかった。だって努力をしなければ姉には追いつけない。私が休んでいる間に姉が経験を積んでいたらその差は遠ざかるだけだ。ただでさえ遠いその背中が見えなくなってしまう。そんな焦りが私の中であってなまえの言葉を素直に受け入れられない。私の考えていることなんて彼女にはお見通しだったのだろう。なまえは人の感情の機微に敏感だったから。
「だって、バーバラはずっと頑張ってるもの。頑張りすぎると壊れちゃうんだって。だから、……バーバラ?」
「私は……頑張っているのかな。だって、お姉ちゃんには追いつかないし……」
そう。いくら努力しても姉の足元にさえ及ばない。実力が伴わないのならそれは努力とは呼ばないのではないかと思う。そう考えれば考えるほど私という人間のダメさが浮き彫りになるような気がした。だから剣を振って、振って、振り続けた。手にマメができても、それが潰れてどんなに痛くても私は剣を振り続けた。女の子なのにかたいてのひら。潰れたマメに真新しいもの。じっと掌を見つめているとなまえの手が優しくのせられた。ふわふわとして柔らかいまさに私の思い描く女の子の手。
「おねがい。バーバラ明日1日でいいからどうか休んで……ね?」
「なまえ……」
どうしてなまえはここまで親身になってくれるのだろうか。私となまえの関係はよくわからない。友達だというにはお互いを知らなさすぎる。かと言ってただの知り合いというには秘密を共有している。私達の関係はどんな名前がつくのだろう。
その日はそのまま別れて私はなまえの言った休みをとることにした。毎日ずっと剣を振り続けていたからなんだか不思議な気持ち。昼前に帰ってきた父は私が家の中にいることに驚いていた。私がなまえのことは伏せて休憩も必要だと思うようになったと話した。「そうか」と言葉少なな父だったけれどその顔には安堵の色が見て取れた。父のその顔を見てはじめてどれほど心配してくれていたのかと思い知らされた。
「お父様……ありがとう」
気がつくと父に感謝の言葉を口にしていた。父は私のことをずっと心配してくれていたのだとようやく気づくことができた。今までどれほど周りが見えていなかったのか。私の中の焦りは私を盲目にさせていたのだと気づいた。私は父にもなまえのことは話さなかった。彼女だけがただのバーバラとして見てくれていたから。それと同時に私も彼女については名前だけしか知らないことも思い出してしまった。
「(いつも私ばかり相談に乗ってもらってる……)」
私もなまえの悩みを解決したい。そうしたらきっとなまえのことをもっと知って、仲良くなれると思うの。そんな考えが浮かぶほど心に余裕ができたのもなまえが休めと言ってくれたおかげだ。
それにしても私はなぜなまえのことを父に話さなかったのかな。なぜなまえのことを知りたいと思ったのか。それは私がなまえに対して抱いた小さな独占欲に他ならない。
それに気づくのはずっと後のことである。そしてその後、私は剣の道を志すことをやめた。姉は姉であり、私は私である。私は姉にはなれないと言うことに気づいたから、もう必要なかった。それから私は父のもとで治療術を学び、祈祷牧師として西風教会に所属することとなる。
今も私達の秘密の夜会は続いている。でも未だになまえのことはその名前以外何も知らないままだ。
設定
なまえ
夜だけモンド城外で会える女の子。バーバラはなまえが人間かどうか半信半疑である。少なくとも昼間のモンドではバーバラは見たことがない。
バーバラ
治療者にもアイドルにもなる前だから今ほどの知名度はない、はず。家族でも普段会う友達でもなくあの場所でしか会わないなまえにだからこそ思いを吐き出せた。これから昼間とかもあうようになるかはわからない。そもそもお互いがどういう人間なのかすら知らない。
あとがき
お読みいただきましてありがとうございます。
クヨクヨしてる時間が30秒だけって見習いたいなと思い書いた話でしたが、書いた時点では牧師になろうと思ってから落ち込む時間は30秒にしようと考えたと思ってました。キャラスト見直してみたら幼いころからでした。せっかく書いたのでこちらにのせておきます。
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