防波堤への来訪(Sigewinne & Wriothesley)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なまえ」
「! ……リオセスリさん」
なまえがシグウィンのことを待っていると、階段から降りてきたのはリオセスリだった。彼の姿を久しぶりに見たなまえが最初にしたことは彼に謝ることだった。
「ごめんなさい。お忙しくしてるのに……」
「かまわない。なまえにここに来るように頼んだのは俺だからな。シグウィン看護師長から聞いたが生産エリアで労働をしていたんだって?」
迷惑をかけないために黙っていたのに、結局リオセスリの耳に入り迷惑をかけてしまった。
「うん、ちょっと到着したタイミングが悪かったのか法を犯した犯罪者と間違われちゃったみたいで……」
そう言いながらなまえはメロピデ要塞に着いた時を頭に思い描いていた。ちょうど犯罪者たちと到着時間が重なって、十把一絡げに写真を撮られてあれよあれよという間になぜか囚人認定されていたのだ。
「それで文句も言わずに生産エリアで働いていたのか?」
「そうだよ。マシナリーが作られるところなんて初めて見たからびっくりしちゃった」
でもそんな経緯をリオセスリに話す必要はないと思っていた。そこまで話すと忙しくしている彼にも、この要塞に従事する看守たちにも迷惑がかかると思ったからだ。なまえがリオセスリに話した結果、何かが変わることが怖かったのだ。
「なまえ、いくら神の目があるからって無茶するんじゃないぞ」
「わかってる。無茶はしない。それにあなたがここにいるんだから囚人は安全なんじゃないの?」
「なまえ、俺が言いたいのは……」
リオセスリがなまえにまた苦言を呈そうとしたとき、いつの間にか下に降りてきたシグウィンが彼を止めた。
「公爵、お説教はそれぐらいにして。なまえちゃんはさっきまで生産エリアで労働をしてたのよ」
「シグウィンちゃん……」
シグウィンは今いる三人の中で一番小さいのになぜだか年長者のような風格でなまえに助け舟を出した。
「なまえちゃんもウチもまだお昼を食べていないの。公爵もそうでしょ? だからお昼ごはんにしましょう」
「昼? ああ、そうだな。……、今日はここで食べたほうがいいかもしれないな」
シグウィンの突然の昼食の提案にリオセスリはのった。そして何か考えがあるかのように執務室での昼食を提案した。普段、リオセスリやシグウィンも特別許可食堂で食べていることを知らないなまえはそれが特別なことだとは気づかなかった。
「じゃあ、ウチがウォルジーさんに頼んでくるね」
「シグウィンちゃん、私も一緒に行こうか?」
「ううん、なまえちゃんはお客さんなんだからここにいて。ウチは一人で大丈夫。ここのご飯はお弁当に入ってるから一人でも持ってこられるのよ」
リオセスリの言葉を受けてシグウィンが昼食をとってくると二人の横を通り抜ける。なまえがシグウィンに同行を申し出たが、それをやんわりと断ってシグウィンは執務室から出て行った。シグウィンが出て行ってなまえはリオセスリと二人きりになった。
「……そうだな。看護師長の言う通りお説教はこれぐらいにしておこう。なまえ、上に行こう。午前中は生産エリアで労働していたんだろう? 看護師長が帰ってくるまで休憩するといい」
階段を昇りながらリオセスリはなまえにそう提案した。なまえをソファーに導いてから紅茶を淹れてくれた。そしてソファーに腰かけたなまえがカップに口をつけるのを見てから彼は何枚かの書類を手にする。そして、なまえに話しかける。
「さて、俺も少し出てくる。すぐに帰ってくるつもりだがそれまで少し休憩していてくれ」
階段を降りる手前でリオセスリは一旦立ち止まった
「なまえ、その机の物は見ても問題ないものだから好きに見てもいいからな」
その声に頷いたなまえはリオセスリが淹れてくれた紅茶を飲みながら2人を待った。それからしばらくして、シグウィンが3人分の昼食を抱えて戻ってきた。なまえの前にあるテーブルの上に置いている途中にリオセスリも戻ってきて、三人で昼食を開始した。昼食の中身はなんともおいしそうな物だった。監獄という印象からは想像できない豪華な物で密かにリオセスリの食事の心配をしていたなまえは安心した。それを知っていたから、リオセスリはこの食事がくじによって決まることを黙ったまま食事を終えた。どうせ彼女が特別許可食堂でくじをひくことなんてないのだから。おいしかったと笑顔で食事の感想をいうなまえにシグウィンが思い出したように声をあげた。
「あ、そうだ。なまえちゃんにウチの栄養満点特製ミルクセーキを飲んでもらおうと思ってたのに忘れてた」
そう言って立ち上がったシグウィン。彼女が用意をし始める前に正面に座っていたリオセスリが止める。
「シグウィン看護師長、俺の妻の体調を気遣ってくれるのは嬉しいが、なまえは普段水の上で日光を浴びて健康的な生活を送っている。それに俺となまえだって久しぶりの対面だ。せっかくここまで来てくれたんだから俺もなまえに最近新しく手に入れた紅茶をふるまいたいと思っているんだがな」
それはミルクセーキは不要だと言うリオセスリの牽制だった。そんなリオセスリの言葉にシグウィンは不満そうであったが口元に指を当てて少しだけ考え込むとなまえのことを何かを探るようにしばらくじっと見つめた。それから納得したようにまたソファーに座りなおした。
「そうね……、公爵の言う通り、なまえちゃんは健康には問題ないみたい……。それに公爵の淹れた紅茶ならなまえちゃんにとっては元気が出るものになるはずよね」
「ああ、その通りだ。悪いな看護師長」
「いいのよ。ウチはなまえちゃんが元気でいてくれるのが一番だもの」
そうやってリオセスリはさりげなくなまえをシグウィンのミルクセーキから遠ざけたのだった。