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望舒旅館の最上階は絶景スポットだと思う。天気の良い日ならここから孤雲閣まで見える。夜だって星空が綺麗でいつまでだって見ていたくなる。欄干に腰掛けて足をぶらぶらと動かしながら夜の空を眺めて気を紛らわせる。皆が寝静まったこの時間は昼間の騒がしさとは打って変わって静寂ばかりが広がっていた。
「魈は、まだかな……」
なまえの声がぽつりと静寂の中に吸い込まれていく。周りに誰もいないのだから返事が返ってくるはずもない。月明かりに照らされた荻花が遠くの方で揺れているのが見える。かつて行われた魔神戦争の影響は璃月全土に爪痕を残していた。この荻花州だって、もともとは違う地形だった。そんなふうに地形を変えるほどの力を持った魔神達の多くは岩王帝君の力によってこの土地の下で眠っている。
「今日はどこまで行ったんだろう……」
魔神は璃月の様々な地でその生涯を終えている。だから、ひと処に集まっているわけではない。魔神の怨嗟によっての異常は様々な場所で起こる。夜叉である魈は璃月全土に目を光らせるためにこの望舒旅館にいることが多い。彼はそういう異常の気配に敏感だった。それは帝君との契約によってそうなったのか、もともとそうであったのかなまえにはわからない。
「……魈」
――
なまえと魈はずっと昔から一緒にいる。それこそ魈が魈になる前から彼のことを知っている。彼が無理矢理殺生をさせられ、悪夢を食わされ感情を捨てていくときもそばにいた。でも何もできなかった。
しかしある日、2人を使役していた魔神が死んだ。岩王帝君の手によって、かの魔神は土に還った。その事を喜ぶ心さえもなくすほどに憔悴しきっていたなまえのもとに魈になった「彼」が再びあらわれた。もう彼らは以前の2人には戻れなかった。無邪気に笑っていた「彼」はどこにもいない。「彼」は魈となり、恩人である岩の魔神に忠誠を誓ったのだった。
それでも、変わらないものは存在する。なまえが忘れていない魈になる前の「彼」との思い出は不滅だし、迷うなまえの手を引くのもあの頃と何一つ変わらない。なぜなら「彼」はもう「彼」ではないけれど、魈は「彼」なのだから。
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