いつか陽だまりの下で笑いたい
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―――彼は岩の魔神に救われた。彼を助けた岩の魔神は彼の安全のために新しく彼に名をつけることにした。この時から彼は以前の名を捨て魈となった。
魈となった彼が最初に行った行動は以前の彼がいた陣営に戻ることだった。自分を使役していた魔神の最期をこの目で確かめるため。そしてあの魔神の陣営に残った彼の大切な彼女の安否を確認するためだった。多くの骸が転がる地に魈は足をつけた。陣営に戻る前にかつての仲間だった者が魈に言った。
――戻らないほうがいい、と。
あの魔神は陣営内で死んだらしくその余波が陣営の内部で渦巻いたと教えてくれた。陣営にいた者共はおそらく皆魔神の影響によって命はないだろうと。もともと力の強い魔神でもあったし、度重なる魔神の使役によって傷つき、疲労の残る体であれば仙人でさえもおそらくその命を散らしているはずだと話していた。
魔神の死という現象はその場に多大なる影響を及ぼす。それを魈は幾度も見てきた。この場に転がる無数の骸もそれを物語っている。骸を踏まぬように気をつけながらも魈はなまえを探していく。魔神の影響で気配が読みにくい。それでも彼はなまえが死んでいるとは思えなかった。思いたくなかった。
魈が今まで生きてきたのはなまえがそばにいてくれたからだ。夜に泣いてくれたなまえがいたから彼は生き延びて魈になることができた。慎重に歩いて辿り着いたのは一際魔神の気配が濃い空間だった。最後まで避けていたけれど今までなまえは見つからなかった。やはりあの魔神は最期になまえの元へ行ったのだ。彼女の強力な治癒の力を求めたのだろう。
彼女の力はこの時代では逸脱した力だと魈は思っている。武力以外で望まれる力。あの魔神が魈を捕らえたのはなまえに対する
そして先の見えない悪夢を歩ませて力を奮わせる。狡猾老獪な魔神であった。2人を体よく利用するにはこれ以上ない最高の待遇であったと今ならわかる。だがそれも岩の魔神の手により終わった。あの魔神はもういない。それは魔神の気配が色濃く残るこの場所に、かの魔神がいないことで証明された。そこにはおびただしい血とその中に血に塗れた少女が倒れるばかりで後は何もなかった。
どろり、とした血の中に沈む少女を見つけた。彼女に駆け寄って自身が汚れるのも厭わず魈は抱き上げる。魔神の残滓が残るそこは魈にとって様々な悪夢が思い出されて決して気分の良いところではない。2人を引き止めるかのようにどろどろと纏わり付くそれを掻き分けて眠る少女を抱えた魈はその場を離れた。
――
どれぐらい時が経ったのだろうか。誰かの温もりを感じて私は次第に意識を取り戻した。
「――なまえ」
名前を呼ばれた。その声は彼のような気がして私は目を開ける。彼の顔が近くにあって、私は彼の腕の中にいることに気づいた。いつもと逆だなとまだ覚醒しきっていない頭でぼんやりと考えた。それから彼の顔に傷がついているのを見て手を伸ばす。いつものように傷を治そうとして、やめた。
かの魔神が私に施した呪いが私の中を蝕んでいる。私はもうだれも助けられない。そのことに気づいたから。下げかけた手を彼が掴んだ。そして、私がしようとしたように彼はその手を自らの傷のある頬へと導いてくれた。でも、私はもうあなたの傷を癒すことはできない。
「ごめんなさい。もう、たすけられない……」
「……かまわぬ。なまえ、もう十分助けてもらった」
そんなことない。私はいつだってあなたの枷になっていた。私こそがあなたの最大の障害だったのだ。あの魔神はそれを知っていたからこそ私を戦場に出さなかった。
――本当はもっとはやく死ぬべきだった。
あなたの枷にならないようにするのが最善だったのだ。だけど、私はあなたと一緒に生きたかった。だからあの魔神の命令に従ったのだ。
「なまえ、あの魔神はいなくなった。お前はもう自由なんだ」
「……じゆう?」
あなたも自由なの? と彼にそう尋ねると彼は重なった私の手を握って頷いた。その手は力強くて、彼のいうことが本当なのだとわかった。
「ああ。岩の魔神が倒した。我は彼に従うことにした。なまえ、共に行こう」
「……でも、私はまた……あなたの枷になるかもしれない」
魔神の呪いはきっと私を蝕み続けるだろう。私はもう二度とだれも治すことができない。魔神の残滓は彼にも感じるはずだ。これはいつか彼の辛い記憶を思い起こさせる物になる。
「大丈夫だ。もう二度とそんなことにはならない」
彼が私を慮るように私も彼には幸せになってほしい。私がいることで辛い記憶が蘇るのなら彼から離れたい。
「一緒には行けない。あなたにはもう辛い思いをして欲しくないから……」
今の私は魔神の呪いという異物が入り込んだせいでうまく体が動かせない。できることならこのまま置いていって欲しい。
「かまわない。我と行こうなまえ」
足手まといになる。それなのにそれでもいいと彼は言ってくれた。
「我はもうなまえを守れなかった我ではない。……今の我は魈という。これからは必ずお前を守る」
「魈……」
その名前を聞いて、彼はもう彼ではないのだと悟った。だからこそ彼のころの思い出も何かも捨てるべきだと私は思う。だから私のことなんて過去の思い出として捨て去って欲しい。
「あのね、魈……あなたはもう彼じゃない。だからこそ、……」
捨て去って欲しいのに、私は望んでしまった。かまわないと言ってくれた彼に期待してしまった。守るという彼と共にいたいと願ってしまった。そうなったらもうダメだ。私は私の欲を優先しそうになる。私はこの先もずっと一緒にいたい。彼が彼じゃなくなったとしても、魈は彼なのだから。
しばらくして私はようやくある言葉を口にした。それまで彼は辛抱強く私の言葉を待ち続けていてくれた。結局、私の中で最後に勝ったのは私の欲だった。
「――魈は、私とずっと一緒にいてくれますか?」
彼の返事を聞く前に彼に引き寄せられていた。魔神の残滓が渦巻くこの体でも魈は以前の彼のように私を抱きしめてくれた。それが魈の答えなのだと私もぎこちない動きで彼を抱きしめた。
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なまえ
かつて治癒の能力を持つためにとある魔神に捕まった。魈と呼ばれる以前の彼と一緒に囚われたために自分が枷になっていると思っていた。魔神の最期に治癒を断ったために呪われた。いまは治癒の力を失った呪われているだけの仙人。なまえは力を失ったと思っているが実は願いのために無意識で呪いに対抗するために自分に使っているために使えないだけかもしれない。
魈
かつてとある魔神に捕まってあらゆる悪行をさせられ悪夢を飲み込んだ少年仙人。なまえは自分のせいで捕まったと思っているが実際はお互いがお互いの人質だった。彼が降魔大聖と呼ばれるのはずっと後のことである。
とある魔神
なまえとかつての魈を捕らえて縛り付けた魔神。被害者は他にもいっぱいいるはず。死ぬ前になまえを殺したかったが岩の魔神が強すぎて本当に限界だったのでなまえを直接殺すことができなかった。
最後になまえに裏切られたので怨みを岩の魔神ではなくなまえにぶつけることにした。