君の祈りは知っている
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――
「もうすぐ天領奉行の役人が来よう。拙者はなまえに会ってはおらぬ。なにも知らぬと申せば良い」
彼はそう言って私の前から立ち去った。
目狩り令は稲妻にある全ての神の目を取り尽くすまで止まらないのだろうか。
それは将軍様以外誰にもわからない。
あの後、彼が教えてくれた通り私のもとには天領奉行の配下の方が訪れた。
その方は兄の形見であると折れた刀を私に差し出した。
そして兄の友であると調べがついていたのか万葉様の行方を尋ねられた。
彼は今や神の目の所有者というばかりではなく、将軍様の目の前で神の目を持ち去った重罪を犯したお尋ね者となってしまった。
そんな彼を匿っているのではないかという嫌疑が私に向けられていた。
将軍様に不敬を働くとはあの楓原家も落ちたものだなと嘲笑う声が聞こえた。
私は何もいえなかった。
反抗して万が一私まで捕まったら、この子猫の世話をする人間がいなくなる。
それに万葉様が知ったらきっと迷惑がかかる。
だから私は耐えた。
万葉様のもとで思いっきり泣けたおかげで私の頭は冷静だった。
しかし、兄の死と万葉様への暴言。
私の心は修復される間もなく深く傷ついていた。
その後しばらく天領奉行の方は私を見張っていたが時が経つに連れてそれもなくなった。
それから私が万葉様と再会するまでは長い月日を兄の形見の子猫と共に生きることになる。
それでもこの子猫の存在が私の心を癒してくれた。
――
あれからどれぐらいの月日が経ったのだろう。
お尋ね者の楓原万葉は未だに捕まっていない。
烏有亭を訪れたときは店主夫妻と少しだけ万葉様の話をした。
あの方はおそらく稲妻を出たのだろう。
風の噂で海祓島にいるとか聞いたこともあったが今は何の音沙汰もない。
そのほうがいい。
たとえ会えなくとも生きていてくれるのなら、私もそれだけで生きていける。
そして彼のことを想う。
それだけが私の日々の安らぎである。
万葉様に会うことはできなくても、あの方の無事を祈ることは欠かさない。
月に何度かは鳴神大社まで行って、行方知れずの彼の無事をただただ祈る。
彼が無事でいられるように祈り続けた。
日ごとに天領奉行の目狩り令も厳しくなる一方だ。
鎖国も伴い人々は閉塞感に苛まれ、将軍様に対する疑問も出始めている。
海祇島では神の目を失った者やまだ天領奉行に捕まっていない神の目の所有者が集まっているらしい。
彼らが珊瑚宮のもとで抵抗軍と名乗り、幕府との戦が続いている。
鎖国と内戦によって稲妻は疲弊している。
今はまだ稲妻城までは戦火は届いておらず鎖国のために不便はあれど一応平和である。
兄を亡くした私は万葉様にも会えないまま稲妻城の城下に住まいを移した。
もともと兄はなかなか帰ってこない人だったけれど定期的に私を心配して帰ってきてくれたから将軍様のお膝元ではない場所でひっそりと暮らしていけていた。
だが今は女の独り身なのだ。
それを心配した友人に居を移すようにと説得されたのだった。
そんなこともあり、私は今稲妻城の近くにある借家に住んでいる。
それでも兄や万葉様との思い出が残っている生家を人に貸すことも売ることもできずに定期的に空気の入れ替えなどを行なっている。
そんな暮らしにも慣れはじめたころ、私の稲妻城下暮らしに変化が訪れることとなる。
転機というものはいつも突然訪れる。
もしかしたらそれはずっと燻っていて私が知らないだけだったかもしれない。
けれど、私にとってそれは突然だったのだ。
稲妻城の周辺は将軍様のお膝元という場所の性質上、抵抗軍の話はあまり聞くことはない。
幕府軍の噂はよく耳にする。
そこで聞いたのが目狩り令に対しての新たな噂であった。
その噂こそが転機のはじまりであった。
それは目狩り令の百人目の対象者が捕まったという話からだった。
公開処刑を行うそうだ。
そんな噂を聞いた。
噂は事実であったようで先ほどその旨の御触れが出されていた。
噂が事実だと知った人々が次々と千手百目神像のもとへと集まりだす。
神の目を持たざるものにとって目狩り令は対岸の火事だ。
だからこそ、人々は他人事のように観客気分で集まるのだろう。
鎖国によって娯楽が少なくなってしまったことも原因のひとつかもしれない。
私はとてもその輪に入ろうとは思えなかった。
――
処刑を行われた後のはずなのになぜか外が騒がしい。
それは処刑後の雰囲気とは全く異なるものだった。
処刑を見に行っていたという友人が私の家に飛び込んできて話したのは百人目の対象者がなんと将軍様の元から逃げおおせたということだった。
それで役人が走り回っているのかと納得した。
国外の人間が手引きしたと彼らを探す御触れが出て、天領奉行の役人たちが走り回っている。
その様子が兄を亡くした時と同じように思えて見知らぬ外国人に同情した。
その後、しばらくして何の前触れもなく抵抗軍が稲妻城まで攻め寄せた。
幕府軍がずっと数的有利だと聞いていたし、戦況も悪いものではないと発表されていたので稲妻城下の住民たちは混乱した。
幕府軍はいったいどうなったのだろうか。
それは前線に出ていない天領奉行の役人たちも同じようだった。
あくまでも一般人に手を出そうとしない抵抗軍の軍勢であったが、彼らの歩みを止めようとする天領奉行の役人たちには容赦がなかった。
あっという間に抵抗軍は稲妻城にたどり着くことになった。
しかし、その出来事に驚くよりも私にはもっと重要な事実が目の前に現実として訪れた。
抵抗軍の中に彼がいた。
変わりない彼の姿を認めて私は思わず名前を呼んだ。
「――万葉様!」
抵抗軍の兵たちの鬨の声が響き渡るけれど、私の声はきっとあの方に届いていた。
万葉様は確かに私を見てくれたから。
それでも彼は歩みを止めない。
目狩り令をやめさせるために抵抗軍と歩みを共にしていた。
稲妻を出たと思っていたが戻ってこられていたのだろうか。
そんなことを考える間も無く、天守閣へと向かう抵抗軍の軍勢を私は追いかけた。
ただあの方の無事を確かめるためだけに。
遠目から様子を伺っていた人々を押しのけて私がそこにたどり着いた時、万葉様は将軍様と刀をあわせられていた。
将軍様は強い方だ。
それは皆知っている。
私はその様子が目に入って信じられない気持ちになった。
「――あ、兄上……?」
そこにいたのはたしかに万葉様なのに私はなぜか兄の姿を見た気がした。
雷光の気配が残る中、自らの神の目の力により万葉様は見慣れぬ外国の方を守るように将軍様の刀を防ぎ、はじき返した。
まさか将軍様も刀が弾き返されるなどとは夢にも思っていなかったのだろう。
驚いた顔を見せた。
しかしそれも一瞬のことですぐさま表情を引き締めて万葉様に再度切りかかった。
二度目はなかった。
将軍様の剣に耐えられずに弾き飛ばされた。
吹き飛ばされる万葉様。
その拍子に万葉様のもとから離れた神の目は兄のものだった。
抵抗軍の方々が万葉様を受け止めていた。
そして、万葉様に代わって他の抵抗軍の方が将軍様と対峙するべく立ち向かう。
しかし、それよりも将軍様の近くにいた先程の見慣れぬ外国の方が万葉様と同じように雷光を巡らせて将軍様に一太刀奮った。
そして――、
……――
――――――
私は今、兄の墓に手を合わせている。
盛り土に刺さる兄の遺品である刀だけがその場所が墓だということを示している。
あの後、どのような心境の変化があったのか将軍様は目狩り令を取り下げられた。
しかし稲妻が以前のように戻るには今少し時間がかかるだろう。
内戦により失ったものは少なくない。
「――拙者は所有者を失った神の目がもう一度輝く様を見たかった」
私の隣には同じように手を合わせる万葉様がいらっしゃる。
あの後、私達は久しぶりに会話を交わすことができた。
「なまえの兄君、……拙者の亡き友の神の目を再度輝かせることで拙者は神の目がなんたるかを知りたかったのやもしれぬ」
「万葉様……」
「――しかし、まさか拙者の手で輝かせることになろうとは思わなかったでござる。なまえ、この神の目は彼に返そうと思う。ここであやつと一緒に眠るほうがきっと良いのだろう」
万葉様はそうおっしゃって、彼が預かっていた兄の神の目を墓の前にそっと供えた。
「あの時……万葉様が将軍様と対峙して雷光をまとわれた時、私は貴方様に兄上のお姿を拝見した気がします。兄上はきっとその神の目を通じて万葉様と一緒に旅をしていたのでしょうね」
兄の神の目は万葉様と旅をした。
そして、兄がかわいがった白い子猫は私のそばにいた。
猫は気まぐれだと人々は話していたが、この子は片時も離れず私を守ってくれていた。
兄の大切なものがそれぞれ私と万葉様のそばにあった。
兄は死してなお私達を見守っていてくれたのだ。
そう思いたい。
「万葉様、兄上のことをずっと覚えてくださってありがとうございます。兄上はずっと幸せだったと思います。私も……、再び万葉様と再会することができて嬉しいです。きっとこれも兄上が巡り会わせてくれたのでしょう」
万葉様は兄の神の目を供えてもう一度手を合わせた。
私も彼に倣ってもう一度手を合わせて兄に祈った。
そうしていると万葉様は私にある提案をされた。
「なまえ、共に行こう。姉君……拙者が世話になっている船の船長にはすでに了承は得ている。拙者と共に旅をせぬか?」
突然の万葉様の提案に私は閉じていた目を開いて彼を見た。
万葉様はまだ兄の墓に目を閉じて手を合わせたままだった。
「でも、私は……」
旅なんてしたことがない。
私は兄や万葉様のように旅などしたこともなければ戦う術もないに等しい。
そう話す私に万葉様はようやく閉じていた目を開けて私を見た。
「大丈夫でござるよ。これからは拙者がなまえのそばにいる。あやつも安心してここで眠っていられるように拙者がなまえを守っていくでござる」
その言葉を理解した時、私は胸がいっぱいになって言葉がうまく紡げない。
万葉様の言葉にはそれほどの効力があった。
彼の言葉が偽りのない真実であることはわかっている。
でも、その言葉はどう考えても……。
「か、万葉様、それはまるで……私を、よ、嫁にしたいと、言っているようなものでは……」
私は自分の考えを恥ずかしく思いながらも確かめるために口にした。
口に出して言葉にして、なおさら自意識過剰に思えて恥ずかしくなり最後までちゃんと言葉が紡げない。
そんな私に追い打ちをかけるように立ちあがった万葉様は言い放った。
「……そうだと言ったら、なまえは……如何する?」
万葉様の言葉に恥ずかしくなって何も言えなかった。
黙りこむ私に万葉様は立ち上がるように手を差し伸べてこられた。
そんな万葉様がずるいと思った。
私だけが万葉様にふりまわされているように感じながら万葉様に差し出された手をとって立ち上がる。
余裕ぶっているように見える万葉様のその表情を崩したくなった私。
だから油断しているであろう万葉様に先程の返事の代わりに、勇気を出して抱きついた。
兄の墓前であることはすっかり忘れていた。
私の突然の行動に少しよろめかれたが倒れることなく私の腰に手をまわして抱き留めてくれた。
「突然、どうしたでござるか?」
「万葉様はずるいです! だから、今度はずっとおそばに置いてください」
それは、これからは万葉様と共に行くという私の答えだった。
抱き着いたまま話す私の言葉に万葉様は嬉しそうに笑ってくれた。
私も嬉しくなって笑顔になる。
こんな日が訪れると良いと思っていたけれど、実際に起こると思っていた以上の嬉しさだった。
私はもう一度ぎゅっと力を込めて万葉様に抱き着いた。
そんな私たちを見ていた白い猫が呆れたようにニャーと鳴いた。
設定とあとがき
「もうすぐ天領奉行の役人が来よう。拙者はなまえに会ってはおらぬ。なにも知らぬと申せば良い」
彼はそう言って私の前から立ち去った。
目狩り令は稲妻にある全ての神の目を取り尽くすまで止まらないのだろうか。
それは将軍様以外誰にもわからない。
あの後、彼が教えてくれた通り私のもとには天領奉行の配下の方が訪れた。
その方は兄の形見であると折れた刀を私に差し出した。
そして兄の友であると調べがついていたのか万葉様の行方を尋ねられた。
彼は今や神の目の所有者というばかりではなく、将軍様の目の前で神の目を持ち去った重罪を犯したお尋ね者となってしまった。
そんな彼を匿っているのではないかという嫌疑が私に向けられていた。
将軍様に不敬を働くとはあの楓原家も落ちたものだなと嘲笑う声が聞こえた。
私は何もいえなかった。
反抗して万が一私まで捕まったら、この子猫の世話をする人間がいなくなる。
それに万葉様が知ったらきっと迷惑がかかる。
だから私は耐えた。
万葉様のもとで思いっきり泣けたおかげで私の頭は冷静だった。
しかし、兄の死と万葉様への暴言。
私の心は修復される間もなく深く傷ついていた。
その後しばらく天領奉行の方は私を見張っていたが時が経つに連れてそれもなくなった。
それから私が万葉様と再会するまでは長い月日を兄の形見の子猫と共に生きることになる。
それでもこの子猫の存在が私の心を癒してくれた。
――
あれからどれぐらいの月日が経ったのだろう。
お尋ね者の楓原万葉は未だに捕まっていない。
烏有亭を訪れたときは店主夫妻と少しだけ万葉様の話をした。
あの方はおそらく稲妻を出たのだろう。
風の噂で海祓島にいるとか聞いたこともあったが今は何の音沙汰もない。
そのほうがいい。
たとえ会えなくとも生きていてくれるのなら、私もそれだけで生きていける。
そして彼のことを想う。
それだけが私の日々の安らぎである。
万葉様に会うことはできなくても、あの方の無事を祈ることは欠かさない。
月に何度かは鳴神大社まで行って、行方知れずの彼の無事をただただ祈る。
彼が無事でいられるように祈り続けた。
日ごとに天領奉行の目狩り令も厳しくなる一方だ。
鎖国も伴い人々は閉塞感に苛まれ、将軍様に対する疑問も出始めている。
海祇島では神の目を失った者やまだ天領奉行に捕まっていない神の目の所有者が集まっているらしい。
彼らが珊瑚宮のもとで抵抗軍と名乗り、幕府との戦が続いている。
鎖国と内戦によって稲妻は疲弊している。
今はまだ稲妻城までは戦火は届いておらず鎖国のために不便はあれど一応平和である。
兄を亡くした私は万葉様にも会えないまま稲妻城の城下に住まいを移した。
もともと兄はなかなか帰ってこない人だったけれど定期的に私を心配して帰ってきてくれたから将軍様のお膝元ではない場所でひっそりと暮らしていけていた。
だが今は女の独り身なのだ。
それを心配した友人に居を移すようにと説得されたのだった。
そんなこともあり、私は今稲妻城の近くにある借家に住んでいる。
それでも兄や万葉様との思い出が残っている生家を人に貸すことも売ることもできずに定期的に空気の入れ替えなどを行なっている。
そんな暮らしにも慣れはじめたころ、私の稲妻城下暮らしに変化が訪れることとなる。
転機というものはいつも突然訪れる。
もしかしたらそれはずっと燻っていて私が知らないだけだったかもしれない。
けれど、私にとってそれは突然だったのだ。
稲妻城の周辺は将軍様のお膝元という場所の性質上、抵抗軍の話はあまり聞くことはない。
幕府軍の噂はよく耳にする。
そこで聞いたのが目狩り令に対しての新たな噂であった。
その噂こそが転機のはじまりであった。
それは目狩り令の百人目の対象者が捕まったという話からだった。
公開処刑を行うそうだ。
そんな噂を聞いた。
噂は事実であったようで先ほどその旨の御触れが出されていた。
噂が事実だと知った人々が次々と千手百目神像のもとへと集まりだす。
神の目を持たざるものにとって目狩り令は対岸の火事だ。
だからこそ、人々は他人事のように観客気分で集まるのだろう。
鎖国によって娯楽が少なくなってしまったことも原因のひとつかもしれない。
私はとてもその輪に入ろうとは思えなかった。
――
処刑を行われた後のはずなのになぜか外が騒がしい。
それは処刑後の雰囲気とは全く異なるものだった。
処刑を見に行っていたという友人が私の家に飛び込んできて話したのは百人目の対象者がなんと将軍様の元から逃げおおせたということだった。
それで役人が走り回っているのかと納得した。
国外の人間が手引きしたと彼らを探す御触れが出て、天領奉行の役人たちが走り回っている。
その様子が兄を亡くした時と同じように思えて見知らぬ外国人に同情した。
その後、しばらくして何の前触れもなく抵抗軍が稲妻城まで攻め寄せた。
幕府軍がずっと数的有利だと聞いていたし、戦況も悪いものではないと発表されていたので稲妻城下の住民たちは混乱した。
幕府軍はいったいどうなったのだろうか。
それは前線に出ていない天領奉行の役人たちも同じようだった。
あくまでも一般人に手を出そうとしない抵抗軍の軍勢であったが、彼らの歩みを止めようとする天領奉行の役人たちには容赦がなかった。
あっという間に抵抗軍は稲妻城にたどり着くことになった。
しかし、その出来事に驚くよりも私にはもっと重要な事実が目の前に現実として訪れた。
抵抗軍の中に彼がいた。
変わりない彼の姿を認めて私は思わず名前を呼んだ。
「――万葉様!」
抵抗軍の兵たちの鬨の声が響き渡るけれど、私の声はきっとあの方に届いていた。
万葉様は確かに私を見てくれたから。
それでも彼は歩みを止めない。
目狩り令をやめさせるために抵抗軍と歩みを共にしていた。
稲妻を出たと思っていたが戻ってこられていたのだろうか。
そんなことを考える間も無く、天守閣へと向かう抵抗軍の軍勢を私は追いかけた。
ただあの方の無事を確かめるためだけに。
遠目から様子を伺っていた人々を押しのけて私がそこにたどり着いた時、万葉様は将軍様と刀をあわせられていた。
将軍様は強い方だ。
それは皆知っている。
私はその様子が目に入って信じられない気持ちになった。
「――あ、兄上……?」
そこにいたのはたしかに万葉様なのに私はなぜか兄の姿を見た気がした。
雷光の気配が残る中、自らの神の目の力により万葉様は見慣れぬ外国の方を守るように将軍様の刀を防ぎ、はじき返した。
まさか将軍様も刀が弾き返されるなどとは夢にも思っていなかったのだろう。
驚いた顔を見せた。
しかしそれも一瞬のことですぐさま表情を引き締めて万葉様に再度切りかかった。
二度目はなかった。
将軍様の剣に耐えられずに弾き飛ばされた。
吹き飛ばされる万葉様。
その拍子に万葉様のもとから離れた神の目は兄のものだった。
抵抗軍の方々が万葉様を受け止めていた。
そして、万葉様に代わって他の抵抗軍の方が将軍様と対峙するべく立ち向かう。
しかし、それよりも将軍様の近くにいた先程の見慣れぬ外国の方が万葉様と同じように雷光を巡らせて将軍様に一太刀奮った。
そして――、
……――
――――――
私は今、兄の墓に手を合わせている。
盛り土に刺さる兄の遺品である刀だけがその場所が墓だということを示している。
あの後、どのような心境の変化があったのか将軍様は目狩り令を取り下げられた。
しかし稲妻が以前のように戻るには今少し時間がかかるだろう。
内戦により失ったものは少なくない。
「――拙者は所有者を失った神の目がもう一度輝く様を見たかった」
私の隣には同じように手を合わせる万葉様がいらっしゃる。
あの後、私達は久しぶりに会話を交わすことができた。
「なまえの兄君、……拙者の亡き友の神の目を再度輝かせることで拙者は神の目がなんたるかを知りたかったのやもしれぬ」
「万葉様……」
「――しかし、まさか拙者の手で輝かせることになろうとは思わなかったでござる。なまえ、この神の目は彼に返そうと思う。ここであやつと一緒に眠るほうがきっと良いのだろう」
万葉様はそうおっしゃって、彼が預かっていた兄の神の目を墓の前にそっと供えた。
「あの時……万葉様が将軍様と対峙して雷光をまとわれた時、私は貴方様に兄上のお姿を拝見した気がします。兄上はきっとその神の目を通じて万葉様と一緒に旅をしていたのでしょうね」
兄の神の目は万葉様と旅をした。
そして、兄がかわいがった白い子猫は私のそばにいた。
猫は気まぐれだと人々は話していたが、この子は片時も離れず私を守ってくれていた。
兄の大切なものがそれぞれ私と万葉様のそばにあった。
兄は死してなお私達を見守っていてくれたのだ。
そう思いたい。
「万葉様、兄上のことをずっと覚えてくださってありがとうございます。兄上はずっと幸せだったと思います。私も……、再び万葉様と再会することができて嬉しいです。きっとこれも兄上が巡り会わせてくれたのでしょう」
万葉様は兄の神の目を供えてもう一度手を合わせた。
私も彼に倣ってもう一度手を合わせて兄に祈った。
そうしていると万葉様は私にある提案をされた。
「なまえ、共に行こう。姉君……拙者が世話になっている船の船長にはすでに了承は得ている。拙者と共に旅をせぬか?」
突然の万葉様の提案に私は閉じていた目を開いて彼を見た。
万葉様はまだ兄の墓に目を閉じて手を合わせたままだった。
「でも、私は……」
旅なんてしたことがない。
私は兄や万葉様のように旅などしたこともなければ戦う術もないに等しい。
そう話す私に万葉様はようやく閉じていた目を開けて私を見た。
「大丈夫でござるよ。これからは拙者がなまえのそばにいる。あやつも安心してここで眠っていられるように拙者がなまえを守っていくでござる」
その言葉を理解した時、私は胸がいっぱいになって言葉がうまく紡げない。
万葉様の言葉にはそれほどの効力があった。
彼の言葉が偽りのない真実であることはわかっている。
でも、その言葉はどう考えても……。
「か、万葉様、それはまるで……私を、よ、嫁にしたいと、言っているようなものでは……」
私は自分の考えを恥ずかしく思いながらも確かめるために口にした。
口に出して言葉にして、なおさら自意識過剰に思えて恥ずかしくなり最後までちゃんと言葉が紡げない。
そんな私に追い打ちをかけるように立ちあがった万葉様は言い放った。
「……そうだと言ったら、なまえは……如何する?」
万葉様の言葉に恥ずかしくなって何も言えなかった。
黙りこむ私に万葉様は立ち上がるように手を差し伸べてこられた。
そんな万葉様がずるいと思った。
私だけが万葉様にふりまわされているように感じながら万葉様に差し出された手をとって立ち上がる。
余裕ぶっているように見える万葉様のその表情を崩したくなった私。
だから油断しているであろう万葉様に先程の返事の代わりに、勇気を出して抱きついた。
兄の墓前であることはすっかり忘れていた。
私の突然の行動に少しよろめかれたが倒れることなく私の腰に手をまわして抱き留めてくれた。
「突然、どうしたでござるか?」
「万葉様はずるいです! だから、今度はずっとおそばに置いてください」
それは、これからは万葉様と共に行くという私の答えだった。
抱き着いたまま話す私の言葉に万葉様は嬉しそうに笑ってくれた。
私も嬉しくなって笑顔になる。
こんな日が訪れると良いと思っていたけれど、実際に起こると思っていた以上の嬉しさだった。
私はもう一度ぎゅっと力を込めて万葉様に抱き着いた。
そんな私たちを見ていた白い猫が呆れたようにニャーと鳴いた。
設定とあとがき