豊潤な香りこそが真髄である
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蓋の閉められた茶壺の上からさらに熱湯が注がれるのは外からも温めるためである。自分ではあまりお茶を入れないなまえは慣れた手つきでお茶を淹れる鍾離の姿をうっとりと眺めている。
「お前は相変わらず茶を淹れるのを見るのが好きだな」
自分の手つきをじっと見ているなまえの様子に鍾離は苦笑しながら茶器の横に置かれた砂時計をひっくり返す。
「いつ見ても楽しいです。それに旦那様のお茶は本当においしいから勉強にもなります。……私が同じように淹れても旦那様の味とは全然違うから」
「俺はお前の淹れる味も好きだぞ」
「でも、私は旦那様のお味に近づけたいです。だから淹れ方を参考にさせてもらっておりますがなかなか難しいですね」
璃月が岩王帝君の手から離れて幾日か経った。以前よりもずっと時間のできた2人がお茶を飲む機会は増えていた。
「お前は俺の味に近づけたいというが、そんなに気にしなくても良いと思う」
「そう、でしょうか。やっぱり飲むならよりおいしいほうがいいと思いませんか?」
自分のお茶が鍾離と比べて劣ると思っているなまえは彼の言葉に首を傾げた。
「料理でも、茶でも……人柄というのは出るものなんだ」
それだけ言うと鍾離は落ちきった砂時計を横目に茶壺を手にとり、温めておいた茶海に中身を移す。
「こういう動きひとつでも、茶の味は変わる」
茶海を少し混ぜて二杯の聞香杯に淹れてゆく。ふわりと茶葉の香りがなまえの鼻腔をくすぐった。そして茶の入った聞香杯と温まった空の茶杯をひとつずつなまえの前に置いた。
「おいしさよりも俺はお前の個性が出る茶を飲めるほうが嬉しいんだが」
「そういうもの、でしょうか? ……うーん、やはり旦那様にうまく言いくるめられているような気がします」
鍾離が置いた聞香杯を持ち上げ、中身を茶杯に移す。聞香杯に残った香りを確かめる。
「旦那様のお茶は素晴らしいです。私の淹れるものとは茶葉から違いがあるような気さえしてきます。……一体何が違うのでしょう…?」
香りひとつとっても鍾離の茶とはちがう気がする。同じ茶葉を使っているはずなのに、鍾離が淹れると茶の香りが何重にも深みを増しているように思える。なまえは先日自分の淹れた茶の香りを思い出しながら顔を顰めた。そんななまえの様子に彼女がなぜ茶をうまく淹れることができないのか。その最大の要因を知っている鍾離は思わず笑ってしまう。
「ははっ、お前と俺は年季が違うからな。だってなまえは俺が神だった頃には全く茶を淹れてなかったじゃないか」
「うっ! ……だ、旦那様! それじゃあ私が大変な仕事をなさる旦那様にお茶のひとつも淹れないただの怠けた嫁になっているではありませんか!」
鍾離の指摘になまえは思わず声を上げた。そう。なまえはずっと鍾離の淹れた茶を飲むばかりで自分で淹れたことがなかった。数千年も生きているのに、ずっと鍾離や友が淹れた茶を飲んでいたのだ。実はこっそりと何度か挑戦したことはあったが彼らが淹れたものとは程遠かった。だから美味しい茶を淹れることよりも料理や鍾離の手伝いなど他のことに時間を割くようになった。それもすべて鍾離達の淹れた茶が美味しすぎたせいである。声を上げて反論したなまえは少し困ったような鍾離の表情に少し言いすぎたかもしれないと思った。
「(思わず声をあげてしまったけれど、旦那様が悪いわけではないよね。……謝るべきかな)」
謝るべきか迷っているとその前に鍾離が口を開いた。
「そういうわけではないんだが……。お前は俺の助けになっているし料理も上手い。それはこれからも変わらないさ。俺はずっと自慢の嫁だと思っているぞ」
「~~~っ」
鍾離の言葉に今度は何も返せず卓上に突っ伏した。行儀の良いことではないが、いまは鍾離と2人きりだ。彼も許してくれるだろう。
「……旦那様はずるいです。……そんなこと言うなんて、ずるい」
どちらにせよ褒められる流れではなかったために不意打ちの言葉にかなり動揺することになったなまえ。鍾離の言動に彼女は恥ずかしくなって顔を隠すしかなかった。2人きりとはいえ、真っ赤な顔を見られるのは恥ずかしい。顔を突っ伏したまま話すなまえに鍾離は何も言わずに静かに彼女の頭を撫でた。長い間共にいるのだから顔が見えずとも鍾離にはなまえの表情が手に取るようにわかった。落ち着かせるように触れる手はどこまでも優しかった。少なくともなまえはそう思った。
「……そういうところですよ、だんなさま」
突っ伏して表情の見えないなまえの小さな声が静かな部屋に響いた。しばらくそうしていたら鍾離の淹れた茶はすっかり冷めてしまった。
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なまえ
お茶はもっぱら飲む専門。旦那様のお茶美味しいし、淹れてる旦那様かっこいいしで二重で楽しい。最近ときどき自分で淹れたりするがやっぱり旦那様のお茶飲みたい。冷めたお茶は後で旦那様と一緒に飲んでから暖かい二杯目をいれてもらった。
鍾離
もっぱらなまえのお茶汲み係。目をキラキラさせて見てくるなまえに満更じゃない。だけど、たまには妻のお茶も飲みたい。やっぱり嫁は可愛いと思っている自称凡人。