千金は正体を表さず
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――
突然だが愚人衆はその活動資金を北国銀行から支給される。
北国銀行はスネージナヤの銀行だ。
そしてスネージナヤが豊かな国であることは有名でタルタリヤはそのスネージナヤの国としての組織である愚人衆の執行官である。
つまり、タルタリヤはお金持ちである。
そして彼はなかなか気前が良い。
その2つが合わさるということは、早い話が今日の会計もタルタリヤ持ちだということである。
そういうわけで見開きのタイプの伝票を受け取ったタルタリヤが会計を終わらせる前に幼女もアイスを完食したらしい。
とても満足そうな顔で鍾離に笑いかけている。
領収書を受けとったタルタリヤにも幼女がにっこりと笑いかけた。
会った時よりもずっと柔らかい笑顔にすっかり幼女はタルタリヤになついたようだ。
それから少しだけ話をしたが、夜も遅くなるために早々に琉璃亭を後にすることとなった。
琉璃亭から外に出て少しざわつく中、タルタリヤは幼女に手を振った。
「じゃあ、お嬢さん。また会おうね」
「うん! こーしどの、またね!」
すっかりタルタリヤに慣れた幼女は鍾離に抱えながら彼に手を振りかえす。
そうして、別れるはずだった。
しかし、ひとつの声が割って入ったことにより、その別れはしばし延長されることになった。
「――旦那様?」
鈴の転がすような美しい声の呼びかけに耳が反応した。
条件反射のようにそちらの方へ目をやると滅多にお目にかかれないほどの美女がこちらを見ていた。
夜でも目をやってしまうほどの白い肌と赤い唇。
そして吸い込まれそうな黒い瞳と目元の縁に彩られた赤いアイラインは彼女の色気を存分に表しているようでそれだけでも充分目を引いた。
白、赤、黒と美しいコントラストに彩られたその女。
これほどの美しさなら噂になろうものだというのに、周囲の人々……それこそ老若男女問わず初めて見たような面持ちでその女から視線を離すことができないようであった。
美しい等といった特異的な容姿は衆人の注目を浴びる。
見たこともなければなおさらである。
先程からざわついていたのはこの女のせいだったのかと、周囲の状況を意にも介さないその女を見て納得した。
彼女にとってこの状況は慣れたものなのだろう。
これ程の美しさであるならば当然である。
周りの視線を気にすることなくただこちらを見つめていた。
それにしても美しいというのは何をしても様になる。
思いがけない出来事だったのだろうか、2、3度瞬きをしているがそれだけで演劇のワンシーンのような錯覚に陥りそうだ。
ふわりとしなやかに揺れるスカートは見るものを釘づけにするような魅惑的な雰囲気を持っていた。
この女はまさしくそこに立っているだけで見るものを魅了するようなそんな存在であった。
だが近づき難い。
完成された美しさとはそのような人々を近寄らせようとしない何かがある。
しかし、その誰もが近づくことを躊躇われるそんな雰囲気を壊したのは幼子特有の舌ったらずな可愛らしい高い声だった。
「おかーしゃま!」
ぴょんと、鍾離の腕から飛び降りてその女のもとへ幼女はとてとてと走って行った。
近づく幼女にしゃがみ込んだ彼女は何なく抱き上げる。
幼女を前にして見るものを虜にするような魅惑的な雰囲気は霧散した。
優しい母親の顔に変わったことで今度は花が咲いたような優しく美しい笑顔を見せる。
それに周囲の人がデレっとした雰囲気に変わった。
けれどその後で抱き上げた幼女の容姿を見て周りにいた男たちは子持ちだと気付いて残念そうに肩を落としていた。
幼女が近づいたことで、見惚れていた周囲の人々は我に返った。
幼女の姿を微笑ましく見る人や何処かへ足早にかけていく人等に別れて次第にいつもの喧騒に戻っていった。
「あら。お父様と一緒にお出かけしていたのね」
「うん! おとーしゃまといっしょ! ごはんおいしかったー!」
良い子にしていたのかしら?と会話は続くがタルタリヤにはそんな会話は耳に入らない。
それよりも幼女の声だけしか聞こえなかった。
その声だけがタルタリヤの耳に伝えられた。
数秒をかけてゆっくりとその言葉は脳内で正しく処理された後、彼の中で衝撃が広がった。
「……おとうさま?? ……え、父親!?」
正しく伝わった情報は彼にとって思いもよらぬ選択肢の答えであった。
今までまったく父親と呼ぼうともしなかったあの幼女があっさりと呼び名を変えたのだ。
思わず声を上げるタルタリヤは鍾離の答えを待ちながらも幼女と鍾離を交互に見つめた。
そんな視線をものともせずに手持ち無沙汰になった鍾離は黙って腕を組む。
だがタルタリヤのその視線に鬱陶しさを感じたのか、それとも埒が明かないと悟ったのかは定かではないが鍾離が頑なに答えようとしなかった関係性について、ついに答えを示した。
「……娘だ」
「えっ!? ほ、本物の?!」
「……、当たり前だろう」
鍾離が仕方なく答えを口にした。
タルタリヤはその発言を疑って嘘ではないかと思い鍾離の顔を見た。
けれども彼がそんな態度を表に出すはずもないし、嘘をつくメリットもないということで信じるしかない。
鍾離の正体を知っているからこその驚きである。
そんなタルタリヤの気持ちも気にした様子もなく、鍾離はただ母子を見ているばかりでそれ以上答える気はないようだ。
その間に件の女が幼女を抱えて近づいてくる。
鍾離の目の前までやってきたその女。
向き合うように立った彼女から極めて自然な動作で娘を託されて抱え直した鍾離。
その姿に彼の言うことが嘘ではないと見せつけられたようで何とも言葉が出ない。
その間に夫婦が並んでタルタリヤの方へと体を向けた。
近くで見ると遠目で見た時よりもずっと美しい女だと思った。
けれど、同僚の淑女みたいな魔性の美しさではないなと直感した。
この間淑女に一杯食わされたタルタリヤだからこその感想である。
「旦那様、こちらのお方は?」
「おかーしゃま! こーしどのだよ」
「こーし、どの……?」
「前に話しただろう。愚人衆の執行官だ」
「……ああ。この方が、あの、……オセルの……」
鍾離の言葉に女の目が曰くありげにタルタリヤを見たように彼には感じた。
渦の魔神オセル。
あまり掘り返されたくない話だ。
あれのせいでタルタリヤは散々な目にあった。
「はじめまして、公子殿。いつも主人がお世話になっております」
女が美しいのはその身なりだけではなかった。
流麗なその所作は璃月のものではあるが、あまり詳しくないタルタリヤでさえ、その所作が美しいものだと理解した。
タルタリヤはいつものように人当たりの良い笑顔で鍾離先生の奥さんに挨拶を返した。
そんなふうに余裕を見せていたタルタリヤだったが内心は混乱していた。
「……鍾離先生。俺、話についていけないんだけど」
「別についてこれなくとも問題はない。公子殿に話すことなどないからな」
正直に話すタルタリヤに鍾離はとても冷たかった。
結局、最後までタルタリヤが幼女の名を知ることはできなかった。
設定とあとがき
突然だが愚人衆はその活動資金を北国銀行から支給される。
北国銀行はスネージナヤの銀行だ。
そしてスネージナヤが豊かな国であることは有名でタルタリヤはそのスネージナヤの国としての組織である愚人衆の執行官である。
つまり、タルタリヤはお金持ちである。
そして彼はなかなか気前が良い。
その2つが合わさるということは、早い話が今日の会計もタルタリヤ持ちだということである。
そういうわけで見開きのタイプの伝票を受け取ったタルタリヤが会計を終わらせる前に幼女もアイスを完食したらしい。
とても満足そうな顔で鍾離に笑いかけている。
領収書を受けとったタルタリヤにも幼女がにっこりと笑いかけた。
会った時よりもずっと柔らかい笑顔にすっかり幼女はタルタリヤになついたようだ。
それから少しだけ話をしたが、夜も遅くなるために早々に琉璃亭を後にすることとなった。
琉璃亭から外に出て少しざわつく中、タルタリヤは幼女に手を振った。
「じゃあ、お嬢さん。また会おうね」
「うん! こーしどの、またね!」
すっかりタルタリヤに慣れた幼女は鍾離に抱えながら彼に手を振りかえす。
そうして、別れるはずだった。
しかし、ひとつの声が割って入ったことにより、その別れはしばし延長されることになった。
「――旦那様?」
鈴の転がすような美しい声の呼びかけに耳が反応した。
条件反射のようにそちらの方へ目をやると滅多にお目にかかれないほどの美女がこちらを見ていた。
夜でも目をやってしまうほどの白い肌と赤い唇。
そして吸い込まれそうな黒い瞳と目元の縁に彩られた赤いアイラインは彼女の色気を存分に表しているようでそれだけでも充分目を引いた。
白、赤、黒と美しいコントラストに彩られたその女。
これほどの美しさなら噂になろうものだというのに、周囲の人々……それこそ老若男女問わず初めて見たような面持ちでその女から視線を離すことができないようであった。
美しい等といった特異的な容姿は衆人の注目を浴びる。
見たこともなければなおさらである。
先程からざわついていたのはこの女のせいだったのかと、周囲の状況を意にも介さないその女を見て納得した。
彼女にとってこの状況は慣れたものなのだろう。
これ程の美しさであるならば当然である。
周りの視線を気にすることなくただこちらを見つめていた。
それにしても美しいというのは何をしても様になる。
思いがけない出来事だったのだろうか、2、3度瞬きをしているがそれだけで演劇のワンシーンのような錯覚に陥りそうだ。
ふわりとしなやかに揺れるスカートは見るものを釘づけにするような魅惑的な雰囲気を持っていた。
この女はまさしくそこに立っているだけで見るものを魅了するようなそんな存在であった。
だが近づき難い。
完成された美しさとはそのような人々を近寄らせようとしない何かがある。
しかし、その誰もが近づくことを躊躇われるそんな雰囲気を壊したのは幼子特有の舌ったらずな可愛らしい高い声だった。
「おかーしゃま!」
ぴょんと、鍾離の腕から飛び降りてその女のもとへ幼女はとてとてと走って行った。
近づく幼女にしゃがみ込んだ彼女は何なく抱き上げる。
幼女を前にして見るものを虜にするような魅惑的な雰囲気は霧散した。
優しい母親の顔に変わったことで今度は花が咲いたような優しく美しい笑顔を見せる。
それに周囲の人がデレっとした雰囲気に変わった。
けれどその後で抱き上げた幼女の容姿を見て周りにいた男たちは子持ちだと気付いて残念そうに肩を落としていた。
幼女が近づいたことで、見惚れていた周囲の人々は我に返った。
幼女の姿を微笑ましく見る人や何処かへ足早にかけていく人等に別れて次第にいつもの喧騒に戻っていった。
「あら。お父様と一緒にお出かけしていたのね」
「うん! おとーしゃまといっしょ! ごはんおいしかったー!」
良い子にしていたのかしら?と会話は続くがタルタリヤにはそんな会話は耳に入らない。
それよりも幼女の声だけしか聞こえなかった。
その声だけがタルタリヤの耳に伝えられた。
数秒をかけてゆっくりとその言葉は脳内で正しく処理された後、彼の中で衝撃が広がった。
「……おとうさま?? ……え、父親!?」
正しく伝わった情報は彼にとって思いもよらぬ選択肢の答えであった。
今までまったく父親と呼ぼうともしなかったあの幼女があっさりと呼び名を変えたのだ。
思わず声を上げるタルタリヤは鍾離の答えを待ちながらも幼女と鍾離を交互に見つめた。
そんな視線をものともせずに手持ち無沙汰になった鍾離は黙って腕を組む。
だがタルタリヤのその視線に鬱陶しさを感じたのか、それとも埒が明かないと悟ったのかは定かではないが鍾離が頑なに答えようとしなかった関係性について、ついに答えを示した。
「……娘だ」
「えっ!? ほ、本物の?!」
「……、当たり前だろう」
鍾離が仕方なく答えを口にした。
タルタリヤはその発言を疑って嘘ではないかと思い鍾離の顔を見た。
けれども彼がそんな態度を表に出すはずもないし、嘘をつくメリットもないということで信じるしかない。
鍾離の正体を知っているからこその驚きである。
そんなタルタリヤの気持ちも気にした様子もなく、鍾離はただ母子を見ているばかりでそれ以上答える気はないようだ。
その間に件の女が幼女を抱えて近づいてくる。
鍾離の目の前までやってきたその女。
向き合うように立った彼女から極めて自然な動作で娘を託されて抱え直した鍾離。
その姿に彼の言うことが嘘ではないと見せつけられたようで何とも言葉が出ない。
その間に夫婦が並んでタルタリヤの方へと体を向けた。
近くで見ると遠目で見た時よりもずっと美しい女だと思った。
けれど、同僚の淑女みたいな魔性の美しさではないなと直感した。
この間淑女に一杯食わされたタルタリヤだからこその感想である。
「旦那様、こちらのお方は?」
「おかーしゃま! こーしどのだよ」
「こーし、どの……?」
「前に話しただろう。愚人衆の執行官だ」
「……ああ。この方が、あの、……オセルの……」
鍾離の言葉に女の目が曰くありげにタルタリヤを見たように彼には感じた。
渦の魔神オセル。
あまり掘り返されたくない話だ。
あれのせいでタルタリヤは散々な目にあった。
「はじめまして、公子殿。いつも主人がお世話になっております」
女が美しいのはその身なりだけではなかった。
流麗なその所作は璃月のものではあるが、あまり詳しくないタルタリヤでさえ、その所作が美しいものだと理解した。
タルタリヤはいつものように人当たりの良い笑顔で鍾離先生の奥さんに挨拶を返した。
そんなふうに余裕を見せていたタルタリヤだったが内心は混乱していた。
「……鍾離先生。俺、話についていけないんだけど」
「別についてこれなくとも問題はない。公子殿に話すことなどないからな」
正直に話すタルタリヤに鍾離はとても冷たかった。
結局、最後までタルタリヤが幼女の名を知ることはできなかった。
設定とあとがき