悪夢の底で、きみを待つ
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――まったくひどい男だわ
呆れたような声が辺りに響いた。その声を聞いた途端、これが現実ではないと鍾離は理解した。もう聞くはずがない友の声が辺りに響き渡る。姿は見えない。だけどそれが友の声だということは間違いない。なぜ彼女がそのように鍾離を責めるのか彼は理解していた。そう言われるのも当然だと思った。
――あなたが縛りさえしなければあの子はこんなにも長い間悪夢を見ずに済んだのに
彼が何かを言う前に彼女は言葉を続けた。その声色は少し恨めしそうに聞こえた。それは彼自身が彼女に対して後ろめたく思っているからそう聞こえたのかもしれない。先ほどよりも直接的ではある。だが、まったく無関係の者が聞いたら何のことだと首を傾げるだろう。そんな彼女の言葉に鍾離は小さく息を吐き出した。
「……わざわざ俺の夢に入りこんでまでそんなことを言いにきたのか?」
いままで姿すら表さなかった彼女がいまさらそんな恨み言を言うために現れたなんてことはあり得ない。それは鍾離と彼女の親交の深さからわかっていた。たとえそれが気の遠くなるほどの過去の話であっても。彼の相変わらずの態度に彼女はくすりと笑った。
――ようやく暇ができたようだったから発破をかけに来たの
冗談まじりの言葉は昔彼女と交わした言葉の数々を否が応でも思い出された。それでも背中を押してくれる彼女はいつだって鍾離達2人の良き理解者であった。
――いい加減、あの子を迎えに行ってあげて
「だが、」
――あなたがあの子を生かすためにかけた契約は知っているわ
言い淀む鍾離に彼女は優しく答えた。契約の神だったからこそ守らねばならない矜持がある。それでも自分本位の考えでひとりの運命をねじ曲げた。その時はそれしかないと思った。だが凡人になってみて、それがどれほどの歪みを生むのか少しずつではあるが理解してきた。だからこそ合わせる顔がない。昔は純粋に忙しかったことと機が熟していなかった。だけど今は、今ならもうそれもない。岩神としてのすべての契約は終わったのだから。2人の間を妨げるものはなにもないのだ。ただひとつを除けば。その残されたたったひとつの壁が何よりも高く、越えがたいものになっている。そのことが鍾離を躊躇させていることも彼は理解している。だがそれを理由にして良いわけではないことも知っていた。
そこまで考えると鍾離の脳裏にひとつの笑顔がよぎった。その笑顔を彼はどれほど望んでいたのだろうか。最後にみたあの姿からは想像できなかった。だから鍾離は再び会えるその日まで、あたたかい思い出のひとつだけを手にして全てを忘れようとした。そんなことができるはずがなかったのに。知っていてもそう思わずにはいられなかった。かつて彼は守るために精霊と契約した。そしてその契約は履行中だ。なぜならその時の彼はまだ神ではなかった。神になる前の契約の不履行は未だ為されていない。それならばいまもきっと……
――あの子は待ってる
――悪夢の底であなたのことを、ずっと、待ってるわ
鍾離の考えを読んだかのように続いたその言葉を最後に彼女の気配は消えた。その後鍾離に彼女の気配を感じることはできなかった。どうやら別れも告げずに彼女は出て行ったらしい。相変わらず勝手な女だなと夢の中で鍾離は静かに別れを告げた。
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なまえ
あの子。魔神戦争以前よりの鍾離の嫁だがいろいろあって鍾離が岩神になる前からある場所で寝てる。自身の力と約束の代償により目覚めるまでずっと悪夢にとらわれている。なので彼女はあの子と呼んでいるけど年齢的には……。
××
彼女。鍾離となまえの良き理解者だったが魔神戦争らへんで死亡。今はもう土にかえっているはずだが、彼女との約束が三者三様の呪いをかけたために鍾離の夢に現れたのかもしれない。
鍾離
彼。今は凡人になった。なまえを助けてまた手元に置きたいと思っている。でも自身に課した契約のせいでそれもできない。しかも凡人になって自身の傲慢さに気づいたせいで尚更会いに行きにくい。でも××に背中を押されたから思い切って目が覚めたら旅人に頼んで助け出す算段を立てるつもり。