ハレの日には晴れが良い
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いつものように騎士団に出仕するとなぜか団員達が微笑ましい顔や苦笑いで見てきた。不思議に思いながらもその理由を解明することもなく自分にあてがわれた部屋に到着する。そして中を見たときその理由を理解した。
「おはよう、ジン」
「……なぜ、ここにいるんだ」
いつも自分が座る椅子に当然のように腰掛けるなまえの姿を見てジンは脱力しかけた。本当はそうしたかったが、騎士としてのジンの矜持がそれを許さなかった。
「おはよう!! ジン!」
「……おはよう」
再び挨拶してくるなまえに気持ちを持ち直してなんとか挨拶を返す。なまえという人間は挨拶を返さないといつまでも挨拶をしてくるという妙なところで真面目な性格であった。
「おはよう。今日の私は代理団長代理よ!」
「……」
なまえは返ってきた挨拶に満足そうな顔をした。一方でジンは突然すぎるなまえの発言に言葉を失った。なまえが突拍子もないことを言い出すのは今に始まった事ではない。ジンは彼女と友人になってから散々振り回されてきたのだ。
「今日の私は代理団長代理よ!」
「……………いや。なまえはそもそも騎士団ではないだろう……」
繰り返された言葉にジンはどう反応すればいいのか迷った。言葉の通りだとすれば団長の代理である自分の代理という意味らしいが、もはやなんなのか意味がわからない。そもそもそんな役職はない。そして自分の代理だという彼女は騎士団の所属ですらない。そんなジンがやっと出した言葉に覇気など全く感じられるはずもなく、思わず頭を抱えるしかなかった。朝から頭が痛い。目の前の友人がジンに会いに来ると予定通りに事が運んだことは一度もない。朝から変更を余儀なくされる予定にジンは分刻みで書いた予定表を頭の中でビリビリに破いた。
「あら~? おはようジン」
通りがかったリサが騒がしさに気づいて開いたままの扉から顔をのぞかせた。ジンが扉を閉めていなかったせいで中の様子は筒抜けだったのだ。
「リサ……。なまえをなんとかしてくれ……」
「だめよ。だって、今日はジンの仕事はお休みだもの」
「そうそう。今日は代理団長代理サマに付き合ってもらわなきゃいけないからね!」
「ええ。そうね! 今日は代理団長代理サマがいるんですもの! 代理団長であるジンの仕事はなしよ!」
「代理が多すぎて何を言ってるのかわからない……」
わいわいと盛り上がるなまえとリサの2人をよそにまったく話題についていけないジン。代理団長代理などという聞いたこともない役職を当たり前のように受け入れているところを見る限りリサも共犯らしい。
「もう! 察しが悪いわねー。仕方ないからお姉さんが教えてあげるわ!」
「リサ……。教えてくれるのはありがたいが子供扱いはやめてくれ」
「ジン、あなた今日誕生日でしょう?」
「ああ。そうだが……それがどうしたんだ?」
「「……」」
ジンの不思議そうな表情をみて2人は顔を見合わせた。なまえは座ったままリサに手招きをした。そして、形だけはこそこそと2人は会話を始める。
「リサ……あの人、あんなこと言ってるけど」
「ええ。でも仕方ないわ。だってジンは仕事第一の仕事人間だもの……」
「……2人とも全部聞こえているぞ」
ジンの方を見つめて2人は顔を寄せながら口元に手を当てて、こそこそと話している。だがそれは形だけのもので声量はまったく落としておらず、ジンには筒抜けだった。もちろんわざとである。
「とにかく、せっかくの誕生日なのよ? 仕事はわたくしたちが請け負うからジンは休んでちょうだい」
「そんないきなり休みと言われても……」
「そのための私だよ! ジン、今日は私に付き合ってもらうから!」
戸惑うジンにようやく立ち上がったなまえが任せてというように自分の胸に手を置いた。「アフタヌーンティーまでには帰ってきてちょうだいね」というリサの言葉に見送られて2人は騎士団の本部を後にした。