好きも嫌いも知らぬまま
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「―――あ、」
その声を聞いた直後、陶器の割れる音がして煙緋はやってしまったと頭を抱えたくなった。
――なまえに壺は持たせるな。それはお使いを頼まれた煙緋が友であるなまえに会う前にピンばあやから言われたことである。
「煙緋や。あの子はそそっかしいところがあってね……」
「うんうん、わかったよ。ばあや」
そう返事をした煙緋だったが、いつもより難しくてややこしい案件ばかりを抱えていたせいで疲れが溜まっていたのも相まってピンばあやに言われたことをすっかり忘れていた。それでも、なまえに壺を持たせてはいけないと言われたことをすぐさま思い出した。私が持つよと言おうと思ったところで煙緋は陶器の割れる音を聞いた。
「……あーあ、やっちゃった……」
「なまえ……!」
「あ、煙緋。……ごめん。落としちゃった」
なまえに陶器を持たせるな。それを初めて言ったのは帝君になる前の岩の魔神であった。
「――あ、」
その声と共に落として割った陶器は数知れず。大袈裟に言えばなまえの通った道に割れた陶器が落ちているといってもいいほどだ。一体何をすればこれほど陶器がなまえを避けるように割れていくのか。理由はよくわからないがとにかく陶器はなまえの手を離れていった。けれどもなまえは妙にチャレンジ精神に溢れていて何度も陶器を手にして、そして割った。割れた陶器の残骸を見て帝君をはじめとして仲間の仙人達もため息をついた。そしてなまえに陶器を持たせるなと皆一様に決意し、実行した。そのおかげで陶器を割ることはなくなった。なまえが陶器を手にすることも無くなったが……。
煙緋は帝君と契約していない仙獣である。だから、なまえのこの“困った特技”のことは知らなかった。
「うーん、久しぶりだったから大丈夫だと思ったんだけどなあ」
「……」
呑気に割れた陶器の残骸を見つめるなまえに煙緋はピンばあやに言われたことが頭を駆け巡る。そして、法律家としての職業病か責任の所在を考えだした。まず、なまえは自分が陶器との相性が最悪であることを知っている。そして煙緋もピンばあやに壺を持たせるなと言われていた。それなのに、壺を持たせてしまったのは完全に煙緋の落ち度だ。しかし、煙緋がなまえに壺を持たせてから1分も経ってない。そんな短い時間に故意ではなく過失で壺を破るなんて思いもしなかった。過失でいけるか……と思ったがピンばあやは依頼人でも何でもない。そして、怒ったピンばあやはこわい。
「……ばあやに怒られる……」
責任の所在を追及したとしても結局、煙緋はピンばあやの言いつけを守れずになまえは壺を割った。怒られる覚悟はしなければならない。
「……とりあえず、一度ばあやのところに戻ろうか」
「……うん。破片も拾ったし、とりあえず謝らないと」
煙緋となまえは割れた陶器の破片を拾って玉京台へと向かった。これ以上小さくならないように壺の残骸が入った袋は煙緋が持つことになった。
――
「「ごめんなさい」」
ピンばあやのもとに帰った2人は気まずそうに目を合わせて紙袋に入れた割れた破片を差し出した。おつかいを頼んだ壺が割れたことを知ったピンばあやはため息をひとつ。
「……こうなるんじゃないかとは思ってたんじゃが、まさか本当になるとはのう……」
「ばあや、私がばあやの言いつけを忘れていたのが悪いんだ」
「煙緋は悪くない! 私が久しぶりだったし大丈夫だと思ったから……!」
2人は責任は自分にあると主張したがピンばあやは反省さえしてくれれば別に構わないと思っていた。
「まあ……反省しているのなら、ばあやは怒らないよ。けれどもう一度壺を取りに行ってくれるかい?」
ピンばあやの言葉に2人は頷いた。それからピンばあやは2人にお使いを追加した。いくつかの材料を取ってきて欲しいと2人に言った。
「……爍金の泥、……翠珏石? 先に調べてみよう」
「なんか久しぶりに聞くものが多いね。それって……もしかして塵歌壺でもつくるの?」
なまえの横で煙緋が手にしていた分厚い本をめくり始めた。煙緋の様子を見ながらなまえはピンばあやに問いかけた。
「そうじゃよ。璃月を救ってくれた旅人に何かお礼を伝えたくての。前に野宿をしていると聞いたから贈り物をしようと思ったんじゃ」
「旅人?」
「おや、なまえは知らなかったのかい? この間の渦の魔神の件じゃよ。その時に活躍したのが旅人なんじゃ」
「ああ、あの時の……この間絶雲の間に行った時に聞いたよ」
なまえは璃月郊外にいたせいで渦の魔神の復活を見ていなかった。久々に懐かしい気配がするなと思っていたが魔神の復活だとは思わなかったのだ。後でそれを知って、教えてくれた仙人の友は平和ボケしてるのかとなまえに喝を入れてきたことは記憶に新しい。
「……ああ、これか。なるほど……ふむふむ。なまえ、早速行こう。私となまえがいれば材料なんてすぐに集まるだろう」
本に夢中になっている煙緋があらかた調べ終わったようで顔を上げた。
「頼もしいねえ。頼んだよ2人とも」
本を閉じた煙緋はなまえを促した。ニコニコと笑うピンばあやが2人を見送ろうとした時に煙緋は少し難しい顔をした。
「だが翠珏石は少し難しいかもしれないな」
「とりあえず探しに行こうよ煙緋。見つからなくとも手がかりは得られるかもしれないんだから」
翠珏石の在り処を考えれば当然かもしれない。かつて誰でも自由にできた採掘は今はできない。それでも誰か持っている人がいるかもしれない。探してみる価値はあるはずだとなまえは思った。
「そうだな。とりあえず、壺は最後にしよう」
もう割りたくないと言外に含ませた煙緋に割った張本人も同意した。ピンばあやに見送られて2人は再び玉京台を後にした。
設定
なまえ
旅人の活躍を知らなかった仙人。帝君が驚くほどの陶器との親和性の低さ。外景の力も使えるけど陶器から嫌われている(と思っている)ために自分のためには使えない。別に過去に陶器をわざと割りまくったわけではないし、恨みを一身に買っているわけでもない。
煙緋
法律家。なまえとはばあやのところに来てから出会った。当然なまえの方が年上である。前から知り合いで友達であるが陶器との相性が悪すぎるということは知らなかった。
ピンばあや
みんな大好き衝撃波付与仙人。旅人にお礼がしたくて塵歌壺を作ろうと思いついた。材料集めは同居人と友人に丸投げした。
壺をはじめとした陶器達
多くの仲間達をなまえに割られた(もちろん全て過失)。それは陶器達がなまえを嫌いすぎる故なのか、はたまた逆になまえのことが好きすぎる故なのかは誰も知らない。これからもずっとわからない。ちなみに塵歌壺はまだ割られたことがない。所有している仙人達は自分の壺は自分で皆死守した。壺の精霊たちはなまえの名を聞くだけで震え上がるほどである。