呪われた夜を超えて
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・八十の灯だけが知っている(Xiao)の続き
海灯祭当日。今日はついに明霄の灯に火が灯される。当日までになんやかんやで多くの人たちの手助けをした空とパイモン。そのおかげか2人はこの祭りに対しての璃月の人々の思いに触れることができた。そして海灯祭への思い入れを強くした2人は明霄の灯への期待も高まっている。しかし、その前に2人にはやるべきことがある。
「ようやく海灯祭本番だな!」
「そうだね。夜になるまでに望舒旅館に行こうか」
2人はかねてより計画していた魈と共に海灯祭を見に行こうと誘うために望舒旅館へ向かう。なまえから頼まれたこともあり、気合も十分だ。ワープポイントから目的の望舒旅館まで飛んで彼がいるであろう旅館の最上階へ向かう。
「あら、あなたたち早いのね。おはよう」
その途中受付カウンターにいたヴェル・ゴレットと挨拶を交わし、階段を昇る。最上階には普段と変わらない様子で魈はそこにいた。
「魈!」
「……なんだお前たちか」
望舒旅館の最上階でいつものように外を見ている魈は空の呼びかけに振り返った。彼の隣にはやはりなまえの姿はなかった。
「どうだ、事は解決したか?」
「解決したよ。だけど……」
「それならいい」
魈の言葉に空は頷いた。言葉を続けようとしたが少し言い淀んだ空の言動を歯牙にもかけず魈は返事をした。ここで話を終わらすわけにはいかない空はもう単刀直入に言うことにした。遠回しに言ってもおそらく聞いてもらえないだろう。
「魈、明霄の灯を見に行かない?」
「行かぬ。人が多い所は好きではないと言ったはずだ、この時期は特に」
少し不機嫌そうに答える魈の姿を気にしないようにして、空は誘うことをやめない。とりあえず今年の明霄の灯に採用された仙人の名前を教えた。
「すごく神々しい鹿なんだ、一緒に観に行かないか?」
パイモンも空を援護するために璃月港で見た明霄の灯を思い出しながら笑顔で魈を誘う。移霄導天真君の名前を聞いて何やら考えている様子の魈。
「……所詮ただの霄灯だ。人が作った光るゴミに興味は無い」
だがやはり返事は変わらなかった。それにしても光るゴミとは散々な言いようである。たしかに霄灯が落ちたりして回収する千岩軍の人は大変そうではあった。それを手伝うのも大変な作業ではあった。「お前たちだけで行ってくれ」と言う魈の意思は固そうだ。そんな時パイモンがぽつりと呟いた。
「でも、なまえが……」
「なまえ……? 彼女に会ったのか?」
「会ったぞ! なまえも誘ったけど用事があるって断られた……」
「……」
一貫して頑なな態度を崩さなかった魈がこの日はじめて空達を興味深そうに見つめた。変わった彼の態度に驚きながらもパイモンは返事をする。パイモンの言葉になまえのことについて何か考えることがあるようで魈は黙りこんだ。パイモンはなまえが魈に明霄の灯を見て欲しいと言っていたことを話す。心が動くのではないか、そんな期待を寄せながら。
「なまえがお前を誘ってほしいって頼んだんだ」
「せめて、明霄の灯だけでも見てほしいって言ってた」
なまえのことを聞いてすっかり黙ってしまった魈に対してパイモンと空が順に声をかける。2人は海灯祭に触れて、その意味を知った。彼らもなまえの願う通り、魈に明霄の灯を見て欲しくなったのだ。暫しの沈黙の後、空とパイモンが固唾をのんで見守る中、魈がようやく答えを出した。
「いや。いくらなまえがお前達に頼んだとしても我は行かぬ。我は海灯祭に興味はない。それに我がひとりで行ったとしても……」
残念ながら、彼の決断は変わらない。だが魈にしては珍しく歯切れの悪い言葉であった。その後彼がもう何も話そうとはしないことを悟った空達は一度オーナーに相談してみようと話をして魈の前から立ち去った。
――
再び1人になった魈はなまえのことを考えていた。
――ありがとう、魈。
以前、数多くの霄灯が浮かぶなかでそう言って笑ったなまえの顔が魈の脳裏に浮かぶ。思えば不憫な女である。かつて、なまえは自分のせいで魈が囚われたとずっと信じていた。そうして彼女は魔神を殺し、そして呪われた。彼女は誰かのためだなんて恩着せがましい事は一度も言ったことはないし、思ってすらいない。むしろ、自分の意思で魔神を屠ったのだとそう言った。それが彼女の中の真実である。
だが魈はなまえがずっとあの時共に戦った全てのものに負い目を感じていたことを知っていた。彼女は優しすぎたのだ。だから、負わなくていいものを背負って、その身に呪いを宿した。彼女でなければ死んでいただろうと言われるその呪い。彼女を呪った魔神もなまえが今生きていることに驚くだろう。何にせよ、なまえは未来永劫解けない呪いを受け入れ、ひとりで生きることを選ぼうとした。無理矢理、彼女を自分の元に引き寄せたのは魈になった彼のはじめての利己心だった。なまえが空に託した唯一の願いが魈に明霄の灯を見せたいというものだったとはさすがの彼も思わなかった。そして空たちがなまえを探し、会っていたことにも驚いた。
「……なまえ」
いま魈の目に写る景色は晴れた青空で、海灯祭を祝福しているようだった。それがやけに眩しく思えた。
海灯祭当日。今日はついに明霄の灯に火が灯される。当日までになんやかんやで多くの人たちの手助けをした空とパイモン。そのおかげか2人はこの祭りに対しての璃月の人々の思いに触れることができた。そして海灯祭への思い入れを強くした2人は明霄の灯への期待も高まっている。しかし、その前に2人にはやるべきことがある。
「ようやく海灯祭本番だな!」
「そうだね。夜になるまでに望舒旅館に行こうか」
2人はかねてより計画していた魈と共に海灯祭を見に行こうと誘うために望舒旅館へ向かう。なまえから頼まれたこともあり、気合も十分だ。ワープポイントから目的の望舒旅館まで飛んで彼がいるであろう旅館の最上階へ向かう。
「あら、あなたたち早いのね。おはよう」
その途中受付カウンターにいたヴェル・ゴレットと挨拶を交わし、階段を昇る。最上階には普段と変わらない様子で魈はそこにいた。
「魈!」
「……なんだお前たちか」
望舒旅館の最上階でいつものように外を見ている魈は空の呼びかけに振り返った。彼の隣にはやはりなまえの姿はなかった。
「どうだ、事は解決したか?」
「解決したよ。だけど……」
「それならいい」
魈の言葉に空は頷いた。言葉を続けようとしたが少し言い淀んだ空の言動を歯牙にもかけず魈は返事をした。ここで話を終わらすわけにはいかない空はもう単刀直入に言うことにした。遠回しに言ってもおそらく聞いてもらえないだろう。
「魈、明霄の灯を見に行かない?」
「行かぬ。人が多い所は好きではないと言ったはずだ、この時期は特に」
少し不機嫌そうに答える魈の姿を気にしないようにして、空は誘うことをやめない。とりあえず今年の明霄の灯に採用された仙人の名前を教えた。
「すごく神々しい鹿なんだ、一緒に観に行かないか?」
パイモンも空を援護するために璃月港で見た明霄の灯を思い出しながら笑顔で魈を誘う。移霄導天真君の名前を聞いて何やら考えている様子の魈。
「……所詮ただの霄灯だ。人が作った光るゴミに興味は無い」
だがやはり返事は変わらなかった。それにしても光るゴミとは散々な言いようである。たしかに霄灯が落ちたりして回収する千岩軍の人は大変そうではあった。それを手伝うのも大変な作業ではあった。「お前たちだけで行ってくれ」と言う魈の意思は固そうだ。そんな時パイモンがぽつりと呟いた。
「でも、なまえが……」
「なまえ……? 彼女に会ったのか?」
「会ったぞ! なまえも誘ったけど用事があるって断られた……」
「……」
一貫して頑なな態度を崩さなかった魈がこの日はじめて空達を興味深そうに見つめた。変わった彼の態度に驚きながらもパイモンは返事をする。パイモンの言葉になまえのことについて何か考えることがあるようで魈は黙りこんだ。パイモンはなまえが魈に明霄の灯を見て欲しいと言っていたことを話す。心が動くのではないか、そんな期待を寄せながら。
「なまえがお前を誘ってほしいって頼んだんだ」
「せめて、明霄の灯だけでも見てほしいって言ってた」
なまえのことを聞いてすっかり黙ってしまった魈に対してパイモンと空が順に声をかける。2人は海灯祭に触れて、その意味を知った。彼らもなまえの願う通り、魈に明霄の灯を見て欲しくなったのだ。暫しの沈黙の後、空とパイモンが固唾をのんで見守る中、魈がようやく答えを出した。
「いや。いくらなまえがお前達に頼んだとしても我は行かぬ。我は海灯祭に興味はない。それに我がひとりで行ったとしても……」
残念ながら、彼の決断は変わらない。だが魈にしては珍しく歯切れの悪い言葉であった。その後彼がもう何も話そうとはしないことを悟った空達は一度オーナーに相談してみようと話をして魈の前から立ち去った。
――
再び1人になった魈はなまえのことを考えていた。
――ありがとう、魈。
以前、数多くの霄灯が浮かぶなかでそう言って笑ったなまえの顔が魈の脳裏に浮かぶ。思えば不憫な女である。かつて、なまえは自分のせいで魈が囚われたとずっと信じていた。そうして彼女は魔神を殺し、そして呪われた。彼女は誰かのためだなんて恩着せがましい事は一度も言ったことはないし、思ってすらいない。むしろ、自分の意思で魔神を屠ったのだとそう言った。それが彼女の中の真実である。
だが魈はなまえがずっとあの時共に戦った全てのものに負い目を感じていたことを知っていた。彼女は優しすぎたのだ。だから、負わなくていいものを背負って、その身に呪いを宿した。彼女でなければ死んでいただろうと言われるその呪い。彼女を呪った魔神もなまえが今生きていることに驚くだろう。何にせよ、なまえは未来永劫解けない呪いを受け入れ、ひとりで生きることを選ぼうとした。無理矢理、彼女を自分の元に引き寄せたのは魈になった彼のはじめての利己心だった。なまえが空に託した唯一の願いが魈に明霄の灯を見せたいというものだったとはさすがの彼も思わなかった。そして空たちがなまえを探し、会っていたことにも驚いた。
「……なまえ」
いま魈の目に写る景色は晴れた青空で、海灯祭を祝福しているようだった。それがやけに眩しく思えた。