未来で会えるあなたのために
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ある日アンバーは友人であるなまえに風の翼をつくりたいと相談した。
なまえの家は風の翼の制作を行っている。
なまえも幼い頃からその手伝いをしており、そのために彼女に相談した。
かつてアンバーの祖父は偵察騎士であった。
だからアンバーも尊敬する大好きな祖父の背中を追いかけて偵察騎士になった。
偵察騎士はその名の通り、主な役目は斥候である。
高低差の激しい地形であるモンドを自由に行き来するためには風の翼を扱えることは重要である。
アンバーの祖父が西風騎士団に入団するまで、騎士団に偵察騎士という役目を担う者はいなかった。
璃月からの流れ者であったアンバーの祖父が自らの経験を伝えたためにできたものだ。
彼は素晴らしい偵察騎士であったが、ある日突然職を辞しモンドから消えた。
その理由は孫であるアンバーにさえも話さなかった。
騎士団を退団しただけではなく、モンドから姿さえも眩ませた祖父を怪しむ人々があらわれた。
更に悪いことにモンドの人間ではなかったために彼がスパイではないかという噂までたってしまった。
それが原因かはわからないがリーダーであった祖父を失った偵察小隊は一気に瓦解した。
まだ新米だったアンバーにはどうしようもできなかった。
そして今ではアンバーが最後にして唯一の偵察騎士である。
そんなアンバーがいつか来るであろう未来の偵察騎士のために風の翼を用意しておこうと思った。
未来の仲間がこの偵察騎士の仕事を少しでも好きになってもらえるように考えた案のひとつだった。
アンバーから風の翼をつくりたいと話をされた時、なまえには本当はそんなことを許可できる権限はなかった。
なんせ手伝いと言っても仕方なくやっていることだし、なまえ自身は風の翼にこれっぽっちも興味など無かったのだから。
でも、アンバーの祖父が失踪したことは知っていた。
アンバーが落ち込んでいたことも。
だから友達として彼女のために何かしてあげたかった。
しかしなにをしてあげられるのか、すればいいのかなまえにはわからなかった。
そんな時にアンバー自身から持ちかけられた今回の話。
なまえは両親に確認することなく了承した。
幸い、両親はなまえと娘の友人であるアンバーの気持ちを理解していて反対することはなかった。
2人は早速、風の翼を作るべく、そのデザインを考えることにした。
なまえの両親が2人のためにあらかじめ用意しておいてくれたのは家にある膨大な量の風の翼のデザインの資料だった。
2人は資料を見る前に自分たちで考えることにした。
まず風の翼の使い手については未来のことだから男か女かもわからなければその年齢もわからない。
しかもその人にとって最初の風の翼になるかもしれない。
それを考慮して考えるのは大変だったので、まず大まかにどんなデザインにするべきかという案を出し合うことにした。
「騎士だから派手なデザインは避けたほうがいいよね……」
「はっ! そ、そうだね……」
「?」
なまえが呟いた言葉に可愛らしいウサギ伯爵の絵を描いていたアンバーはそのデザインに大きくバッテン印をつけた。
「色はどうする? どんな人でも使える色じゃないといけないから……白……、うーん、黒?」
「黒っぽいほうが使いやすいかな~!」
「慣れてない人だと色が白だと汚れるって気になるかもしれないよね」
アンバーと話しながらなまえは風の翼のデザイン案のためのキーワードを書いていく。
黒系、シンプルで飽きがこない。
老若男女に好まれる、派手じゃない。初めて使う?……などなど。
その隅にはアンバーが落書きしたウサギ伯爵が楽しそうに踊っている。
それを見てなまえはアンバーが元気を取り戻してくれたような気がして提案にのってよかったと思った。
そしてある程度見た目のイメージを膨らませてから、なまえの両親が用意してくれた資料に手をつけた。
「わあ……! 風の翼ってこんなに種類があるんだ〜!」
「こんなにあるなんて……」
資料を開いたアンバーは思わず感嘆の声をあげた。
丁寧にファイリングされたデザイン達は見ているだけでも楽しい。
風の翼に興味のなかったなまえも様々なデザインがあってあまりの楽しさにワクワクした。
「「……」」
気づけば2人は夢中でその資料を見つめていた。
なまえの母親が2人におやつを持っていくまで、そのデザインと形の多様さ、そして鮮やかな色使いに夢中になって読みこんでいた。
それから、なまえの母のアドバイスで既存のデザインを少し改変する形でアンバーが納得のいくデザインとなり、なまえとアンバーはなまえの両親の多大な助力を経て風の翼を完成させる事ができた。
「――できた!! よしっ、じゃあ行こう!」
なまえは完成したばかりの風の翼を持って立ち上がった。
アンバーはこれで終わりではないのかと不思議そうな顔をする。
「形にはなったけど、ちゃんと飛べるか試してみないと! 」
アンバーは出来上がったばかりの風の翼を見るのはこれが初めてだった。
風の翼を持ったなまえの後にアンバーは続く。
2人がやってきたのはなまえの家の裏にある丘だった。
「なまえ、ここは?」
「風の翼がちゃんと飛ぶか試す場所だよ。落ちても大丈夫なようになってるでしょ?」
アンバーが尋ねるとなまえは下を指差した。
言われて下を見ると、落ちても痛くないように頑丈なネットが張られていた。
これなら落ちたとしてもネットが地面から体を守ってくれるだろう。
アンバーが今まで使ってきた風の翼が世に出るためにはこんな見えない努力があったのだ。
風の翼をつけるために調整しているなまえをみたアンバーはなんだかワクワクした。
「ねえ! わたしが試してみてもいい?」
「えっ、うん。もちろんいいよ。というかその方が助かる」
アンバーの申し出になまえは驚いたが安心した。
なまえは風の翼のような空を飛ぶ感覚が苦手であった。
地面に足がついていないという感覚がどうも怖いのだ。
だからアンバーの申し出はすごくありがたかった。
「よしっ! ……うまく飛ぶといいな~!」
アンバーは出来上がったばかりの風の翼を広げた。
――
「うまくいったー!」
風の翼は問題なく空を飛ぶことができた。
飛び終えた後アンバーはなんだかいつもとは違う気分だった。
制作に関わったからだろうか。
いつも飛ぶよりも低い高さなのに風をよく感じられたような気がした。
後ろから追いかけてきたなまえの喜ぶ声が聞こえたけれど、アンバーは何も答えられなかった。
「やったね! アンバー!!」
嬉しさのあまりなまえが正面から抱きついてきた。
でもアンバーは何も言えなかった。
そんなアンバーの様子にようやく気付いたなまえ。
抱きついた腕を緩めてアンバーを見た。
「どうかした? も、もしかして、何か問題があった?」
体をぶつけたのではないかと焦りだすなまえにアンバーはなんとか言葉を口にした。
「ねえ、なまえ……空を飛ぶって……風の翼ってすごいね」
「えっ……うん、そうだね……?」
体調の心配をしていたなまえはアンバーの答えが予想と違ったもので戸惑った。
けれどもアンバーの話し方がいつもの元気いっぱいという感じではなく、言葉をかみしめるように話していたのでなまえは相槌を打つことしかできなかった。
「――わたし、風の翼つくってみて良かった。ありがとう、なまえ。おじいちゃんはいないけど……わたし、がんばるね。いつか後輩ができたときに胸を張って偵察騎士の仕事を教えられるように……」
しばらくして風の翼を腕に持ったアンバーが風の翼を見つめながらなまえに話しかけた。
祖父の率いる偵察騎士小隊を見てきたアンバーにとって、偵察騎士の現状はつらいものだ。
小隊とは名ばかりのものとなって、偵察騎士が彼女ひとりしかいないという事実は本人が思うよりもずっと重荷になっていたようだ。
少しでも偵察騎士になってくれる人を増やしたい。
後輩のために風の翼をつくろうと思ったのもそのためだったのかもしれない。
「アンバー。私は騎士団に入ってないからよくわからないけど、アンバーならアンバーのおじいちゃんみたいな立派な偵察騎士になれるよ」
「なまえ……」
アンバーは風の翼をつくりはじめる前よりもずっと明るい顔をしていた。
風の翼をつくって、その翼で空を飛んで何か得ることがあったのかもしれない。
祖父のことも、偵察騎士のことも解決したわけではない。
けれど前を向いていかなければならない。
「大丈夫だよ。この風の翼だってちゃんと渡せる人が騎士団にきてくれるよ」
「うん。……そうだ、そうだよね……!」
アンバーは期待をこめるように風の翼を抱きしめた。
――
それから何年か後、アンバーはようやくなまえに吉報を届けることができた。
それは2人が思っていたものとは違うものだったが吉報なのは間違いない。
アンバーは風魔龍の災害が落ち着いてからなまえに会った時、彼女に風の翼を手放したことを伝えた。
「……えっ! とうとうプレゼントできたの? ということは、ついに後輩が……?」
話を聞いたなまえの期待が込められた眼差しを受けてアンバーは少し申し訳ない気持ちになった。
「あー、それなんだけど……違うの。この間、風魔龍からモンドを守った旅人がいたのは知ってるよね? ……その人にあげたの」
「それって、栄誉騎士になったっていう……?」
「うん。そう……その栄誉騎士にあげたんだ」
今は栄誉騎士となった旅人のものとなった翼。
それは彼女がずっと後輩ができたらあげようと思って大切にとっておいた物だった。
けれど、アンバーの勘はまだ栄誉騎士ではなかったあの旅人にあげるべきだといった。
彼は後輩にはならなかったけれどアンバーの中に後悔はない。
「そうだったの。ごめんね、勘違いしちゃって」
「いいの。なまえが悪いわけじゃないよ! わたしがそう言ったんだから! でも、話したのはずいぶん前なのに覚えててくれたんだ。嬉しいよ!」
「当たり前だよ! あの時すごく大変だったけど、とても楽しかったもの!」
本当に楽しそうに笑うなまえの姿にアンバーはかつてなまえと2人であの翼を作り上げたときの気持ちがよみがえってきた。
アンバーが風の翼を作ったのはあれが最初で最後である。
デザインから考えるのはとても楽しく、夢中でできるその作業は祖父がいなくなったばかりのアンバーにとって気持ちを切り替えるきっかけになった。
あの時つくった風の翼はアンバーがなまえに話した通りの偵察騎士になる後輩にあげることはなかった。
けれどあの旅人ならきっと大切にしてくれるはずだ。
その予感は栄誉騎士となった旅人が飛行試験を受けたときに確信に変わった。
アンバーが前を向くきっかけになったその翼は今や異邦の旅人の背中をそっと押すかのように彼の背中でその翼を広げていた。
旅人のテイワット大陸での旅の始まりを祝福するかのように。
設定とあとがき