可愛い子には何でも食べさせろ
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「か、かわいい……!!」
まん丸の大きな瞳を不思議そうにこちらに向ける愛くるしい女の子を見てなまえは思わず声を上げた。
「小さい子ってやっぱりかわいい……! 抱っこしていい?」
キラキラした目でお願いをしてくるなまえ。
そんな彼女の様子に女の子の保護者たる留雲借風真君はなまえの勢いに押され気味になりながらも、なんとか頷いた。
「まんまる……ころころしてる……かわいい……」
モチモチしたほっぺに、ぷにぷにと柔らかい体。
一度手にすればずっと触れていたくなるような柔らかい抱き心地。
幼子とは得てしてそのような愛くるしさを備えている。
「かわいい!!」
語彙力が低下しているなまえが頭までバカになったのかぎゅっと抱きしめて離そうとしない。
初めは戸惑って為すがままだった女の子であったが気に入ったのか次第に自分からなまえにくっついていた。
そうなるとなまえのテンションは上り調子でさらにかわいいを連発することになる。
そして上がりきった後は下がるだけである。
そうなると一気に正気に戻ることがある。
「………あれ? そういえば、この子は何という名前なの??」
そう、なまえはまだ腕の中にいるこの女の子の名前を知らなかった。
「そういうことは初めに聞くものだぞ」
「ごめん。かわいくて、つい……」
「はあ……。まあ良い。その子は甘雨という」
「甘雨ちゃん……!」
留雲借風真君はなまえの今更ながらの発言にため息を吐きながらも答えてくれる。
呆れたように教えてくれたが今のなまえには名前を呼んだらこちらを見てくる甘雨しか見えていない。
「こっち見てくれた! かわいい……好き! かわいい!!」
「……」
またしてもギューっと抱きしめて、甘雨を猫可愛がりしている。
そんななまえの様子に留雲借風真君はただ呆れるばかりである。
「髪もふわふわしててかわいい!!」
なまえが弾むような声でずっとはしゃいでいる。
今のこの晴れた空の色のような髪の色。
ふわふわしていて触り心地も気持ちが良い。
頭を撫でるついでに半獣の象徴ともいえる角に触れると甘雨も気持ちよさそうに頬を緩ませた。
――
甘雨の愛らしさにすっかりまいってしまったなまえは連日留雲借風真君のもとに通った。
もちろん、甘雨に会うためである。
彼女が好きだという清心やその他に美味しそうな物を持ってなまえはやってきた。
甘雨も連日訪れるなまえにすっかり懐いて彼女の来訪を楽しみにするようになった。
そんな日が幾日も続き、なまえに様々なおいしいものを食べさせてもらった甘雨は順調に成長していった。
そう、順調に。
「なまえさまー!」
「甘雨ちゃん!!」
なまえの姿を見つけて駆け寄ってくる甘雨に相変わらずデレデレしながらなまえは甘雨を抱き上げた。
なまえから順調に餌付けされた甘雨。
当然見た目にも変化はあるわけで、なまえが抱き上げる影は丸かった。
影が示すのは甘雨の体形である。
その姿はまん丸でまるで鞠のようだった。
しばらくそんな甘雨と遊んでいたなまえだったが今は留雲借風真君と並んで話していた。
「甘雨ちゃん、まるまるしたねー」
「そうだな。だが子というものははたくさん食べて大きくなるものらしい」
「あ! それ私も聞いたことある! 私たち2人とも聞いたことがあるなら本当なんだろうね!」
以前よりもずっと全体的にまるまるころころという形容詞が似合うようになった半仙の甘雨をなまえと留雲借風真君は見ていた。
今も甘雨はスイートフラワーをもぐもぐと満足そうに口に含んでその甘さに酔いしれている。
先程までは清心の花弁を食していたのに食べる速度もなかなか早いようだ。
それは人間たちから見れば太りすぎと呼べるのだが、生憎2人は子育ての経験もなければ、子はいっぱい食べて大きくなるものだと思っていた。
だから、まるまるでころころな甘雨が散歩中にころころと麓まで転がっていってもそういうこともあるものだと気にしていなかった。
それは甘雨自身も転がった方が動くのが楽だなぐらいの認識であった。
はじめて麓まで転がった時は流石に泣いてしまったけれど。
ある時、不手際で弓手であったはずの甘雨が前線に行ってしまい、とある巨獣の口の中に入ってしまうまでは……3人とも気にする素振りすらなかった。
――
「う、うええええん!!」
「甘雨!」
「甘雨ちゃん!!」
降伏した巨獣に飲み込まれそうになっていた甘雨が口の中から助け出されたのは比較的早かった。
そのために双方とも被害はなかったが、お互いに強烈なトラウマを植え付ける結果となった。
驚きと恐怖でわんわんと辺りに響くことも厭わず泣く甘雨を留雲借風真君となまえは一生懸命宥めた。
「大丈夫か?」
「あ、……。すみません。甘雨ちゃん、驚いたみたいで……すぐに落ちつくと思います」
そんななまえに声をかけてきたのは岩の魔神モラクスだった。
彼こそが璃月を治める魔神である。
謝るなまえに表情ひとつ変えない彼であったが特に怒っているわけではないことをなまえは知っている。
「そうか。今回の論功は必要なさそうだな」
降伏した巨獣を一瞥して彼はそれだけを言った。
論功とは所謂武勲である。
今回の巨獣との戦いで活躍したものに与えられる名誉。
「帝君のお言葉、甘雨ちゃんに伝えておきますね」
「……、なまえ」
「はい。どうかされましたか?」
「……いや。なんでもない」
何か言いたげになまえを呼んだモラクス。
だが結局、彼がそれを言葉にすることはなかった。
なまえはもう一度尋ねるために彼に声をかけようとするが後ろから小さな手がお腹にまわされて背中にも小さな衝撃を受けた。
その間に他の者に呼ばれたモラクスが立ち去ってしまい、彼を引き止めることができなかった。
「……甘雨ちゃん?」
「……ぐす」
グズグズと鼻をすすりながら甘雨はなまえに抱きついた。
背中に抱きついていた甘雨が正面に来るようになまえは甘雨の手を少しだけ緩めて後ろを向いた。
なまえのお腹に顔を押し当てる甘雨の髪を以前のようになでつけた。
「なまえさま、」
未だに泣き止まない甘雨はなまえを呼ぶ。
「……痩せる」
目を真っ赤に腫らして泣きべそをかいた甘雨は小さく呟いた。
今までずっと自分を可愛がってくれていたなまえに抱きついて甘雨はそう言った。
「もう、食べられるのはいやです……」
「……甘雨ちゃん」
甘雨がなまえに頭を押し付けてぐすぐすと泣いている。
やはり余程怖かったらしい。
「なまえさま……」
甘雨の頭を撫でて慰めながらなまえも甘雨のまるまるとした体を抱きしめた。
「……わかった、甘雨ちゃんが痩せたいと思うなら全力でサポートするから」
かくして、甘雨のダイエットははじまった。
ちなみになまえの後ろで留雲借風真君をはじめとしたそのやりとりを見ていたほぼ全ての仙獣達に動揺が広がり、巨獣のことも忘れて皆ざわついていた。
それはなぜか。
その理由はすぐにわかった。
なまえの甘雨のダイエット計画は驚くほど厳しいものだった。
甘雨はなまえのあまりの厳しさに泣いた。
これならまだあの口の中にまた食べられた方がましではないかと思えるほどに恐ろしい経験だった。
例えば、朝早くから叩き起こされて璃月内を走らされる。
物珍しそうに見ている仲間の仙人達や領民達を横目に息を切らせて走る甘雨。
疲れて立ち止まろうにも隣で走るなまえは止まることを許さない。
その後は少しの休憩を挟んでトレーニング。
時間厳守、甘え厳禁、厳しい食事管理。
逃げ出したくなるほど甘雨には厳しいものだった。
けれどなぜ甘雨は逃げ出さなかったのか。
それはもちろん厳しい鞭の後には甘い飴があるからだ。
トレーニング後にはなまえの笑顔とご褒美のなまえの美味しい手料理。
昔からなまえの料理はたらふく食べてきた甘雨だったからもちろんおいしいのは見るだけでわかる。
なまえだって甘雨の好みは把握済みだから、甘雨は厳しくつらいと思いながらもなまえから言われる課題をこなしていった。
鬼コーチであったが飴と鞭の絶妙な使い方に泣きながらもなんとかトレーニングを続けて甘雨の鞠の様な体は少しずつ鞠ではなくなっていった。
脂肪が筋肉に置き換わり、体も動かしやすくなった。
まるまるころころしていた甘雨はもうどこにもいない。
それに一番悲しんだのはコーチをしていたなまえだった。
けれど、まるまるしていようがいまいが甘雨は甘雨なのでなまえは変わらず甘雨を可愛がった。
その後、璃月を岩の魔神が平定し、彼が岩神として七国のひとつとして璃月を管轄下に置いた。
そして甘雨が彼との契約に従い、後の璃月七星に仕えるまではずっとなまえと甘雨の交流は続いた。
七星の手助けをし帝君と交わした契約を守るために奮闘する間になまえは甘雨の前から姿を消した。
それから現在に至るまで甘雨はなまえの姿を見ることは一度もなかった。
設定とあとがき