幸せな夢をみることも悪くないわ
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「――断罪の皇女?」
「ああ、フィッシュルっつーんだけど俺の友達だから会ったらよろしくな!」
モンドにきてから最初に出会った友人であるベネットがなまえにそう言ったのはいつのことだったか。モンドに到着してお財布がさみしくなったなまえはベネットの勧めによって冒険者協会に入会した。そして冒険者協会に慣れてきた頃、彼が言っていた少女が今目の前に立っていた。
「わたくしは断罪の皇女。名をフィッシュル。あなたが今日わたくしと組む新しい従者ね」
「……え?」
「『はじめまして、よろしくお願いします』と申しております」
「え?」
喋るカラスに女の子。かわいいのにすごいのが来た。それがなまえが抱いたフィッシュル達への正直な感想だった。
「ああ、ごめんなさいねなまえさん。彼女はフィッシュル。そして一緒にいる鴉は彼女の相棒のオズよ」
戸惑うなまえを見越してか、キャサリンが間に入ってくれた。冒険者協会の前で待ち合わせて良かったとなまえは密かに思った。
「今日の調査は少し規模が大きいものだから2人でやってもらいたいの」
今日は一人でするのは少し大変な依頼だった。しかし、冒険者協会は万年人手不足である。チームを組んでいる冒険者も手が空いておらずこうしてソロで活動する冒険者が臨時で組むことになったのだ。
「ふふん。皇女と組むことができるなんて光栄に思いなさい」
「お嬢様は『よろしく』と言っております」
「ええと、よろしく。フィッシュルさんに、オズさん。なまえって呼んでね」
フィッシュルと初対面になるなまえはまだ彼女の不思議な言動に慣れていないようでオズから翻訳される言葉をありがたく思った。
「ええ。ではなまえ。これからこの皇女の偉大なる知恵でこの世の罪を断ち切り、共に真実を明らかにしましょう」
「う、うん??」
「『一緒に頑張りましょう』と言っています」
「あ、ありがとうオズさん」
こうして二人と一匹の短い冒険は始まった。早速、冒険者協会を離れ、モンド城を出た2人は依頼書の再確認をしていた。
「えーっと、明冠山地でヒルチャールの集落と狂風のコアの退治?」
「なるほど。邪悪な魔物達の動向を探すなら我が眷属の得意なことよ。……オズ!」
「しばしお待ちくださいませ」
調査書を読み上げたなまえにフィッシュルが不敵な笑みを浮かべた。大雑把な場所しか書かれてない為に詳細な調査が必要である。だからフィッシュルはオズを呼んだ。名を呼ぶとオズは理解したかのようにその漆黒の翼を広げて明冠山地の方へと飛んでいった。
「うわあ! あっという間に見えなくなっちゃった。すごいね! オズさんって」
「オズが優秀なのは当然のこと! なぜなら彼はこの断罪の皇女の眷属。これぐらい簡単なことよ。オズは三つの宇宙の星海と夜空の主なのだから」
「ええ! す、すごい…!」
オズの消えた方向を見上げる感心するなまえにフィッシュルは気分が上がる。自分の眷属を褒められてよほど嬉しいようだ。2人は明冠山地へと足を進めながら話をしていた。
「そういえばフィッシュルさんのことは前にベネットから聞いてたよ」
「ベネット、……あの運に見放された少年ね」
「(う、運に見放された少年……)」
「あの少年はわたくしの大切な従者のひとり……。きっと今日もまた邪悪から偉大なる宝を得るために運命に抗っているのだわ……」
「……うん。そうだね」
正直に言うとフィッシュルの言葉はなまえにはほとんど理解できなかった。それは当然だろう。そうでなければ冒険者達にフィッシュル辞書が流行るはずがない。だけどフィッシュルがベネットの運の悪さを知っていて、それをとても心配して気にかけていることだけは伝わってきた。ベネットがかつてなまえに話したフィッシュルという彼のすごい友達。何がすごいのか、彼がなまえに言った「すごい」の本当の意味をなまえはわかりはじめてきたような気がした。
オズの報告を待つ間にも少し食い違いながらも二人は話をした。お互いのこと、オズのこと。様々なことを話して明冠山地へ向かう。途中でヒルチャールやスライムを倒しながらお互いの連携について確かめながら話もする。そうして連携もうまくいくようになってきた頃オズが戻ってきた。
「お帰りなさい。早速だけどオズ。あなたのその幽夜浄土を見渡す瞳は全てを見通せたのかしら?」
「もちろんです。お嬢様」
そう言ってオズは自分の目で見た今回の討伐対象について語り出した。オズ曰く、すべての討伐対象はなぜか一ヶ所に集まっているらしい。オズの情報をもとに3人は休憩を兼ねて作戦会議を開く。オズの話によると、狂風のコアとヒルチャールとは距離が少しあるらしい。だが騒ぎがあれば気づかれるような微妙な距離だという。ヒルチャールはヒルチャールでスライム爆弾作りに夢中になっているようだ。そのために狂風のコアが近くにいることも気付いていないのでは?と言う話だった。
「うーん、歩き回らなくて好都合なのは好都合だけど……。オズさんの言ったままの距離が変わらないのなら、ヒルチャールに気づかれたらきっと狂風のコアにも気づかれるよね」
「ええ。でもすべての邪悪がわたくしたちの道を邪魔するのならば、断罪の皇女の力を持って振り払わなければならないわ」
「その通りです。お嬢様」
「狂風のコアの動きはだいたいパターンがあるから先にヒルチャールとスライムを倒す方がいいかもしれない」
なまえの言葉に二人は同意した。狂風のコアの攻撃は予備動作が大きいために注意していたら避けられる。数が多ければそれだけ不利になる。そのために先に数を減らすことを優先することにした。弱い敵から叩くのは戦闘の基本であるからだ。そう作戦を決めて二人はオズの先導で依頼の地へと足を進めた。
――ヒルチャールとスライム、そして狂風のコア。なぜ同じところに集まっていたのか。その理由はわからなかったが、二人と一匹は協力することによってなんとか全てを倒すことができた。討伐が今回のクエスト目的だ。原因調査については他の冒険者に任せることにしよう。すべての脅威が完全に去ったと判断したとき、ようやくなまえは息を吐いた。脱力した体は一気に疲れが襲いかかってきて思わず座り込んだ。
「……ふう、やっと倒せたね……」
「ええ。さすがの邪悪なる魔物達もわたくし達の前では
草原に座り込むなまえとは違い、石の上に座ったフィッシュル。彼女の側でオズが静かに羽を動かし浮遊している。近距離のアタッカーだったなまえと中距離のオズ、そして遠距離武器を使うフィッシュルのトリオ。初めてにしてはうまく連携ができたとフィッシュルは思った。
今にも寝転びそうななまえを見つめる。まだ肩で息をする彼女の様子に近距離武器と遠距離の運動量は全く異なるためにそれも仕方ないことだ。それにしても彼女の動きは新人の動きではないようにフィッシュルには思えた。おそらく戦闘に慣れているのだろう。しかも連携するチームでの戦いに慣れていたようにフィッシュルは感じた。しばらくして、ようやく息を整えたなまえが立ち上がった。
「……お疲れさま~。フィッシュルさんにオズさん」
「なまえ様もお疲れ様です」
そんな感じでやりとりをしている二人をフィッシュルは何かを言いたげにじっと見つめていた。それから少し休憩をとってから明冠山地を後にした。行きと同じ道を通っているために魔物に
「今回は一緒に旅できてよかった。ありがとう二人とも!」
「お礼を言うのはこちらの方です。なまえ様お疲れさまでした」
「オズさんの索敵でだいぶ助かっちゃったよ。本当にありがとう」
あらためて礼を言うなまえの姿にフィッシュルは冒険の終わりを実感した。初対面であったがなまえとの旅は楽しかった。だから、フィッシュルは言いたいことがあった。なかなか言い出せずにいたけれど、それを告げようとフィッシュルはなまえを呼んだ。
「あ、あの……なまえ! わ、我が眷属のことはオズで構わないわ。そしてこのわたくしのこともフィッシュルと。……あ、あなたとわたくし達は共に邪悪な魔物達の罪を断ち切り、苦難を……乗り越えたのだから」
フィッシュルはまだ短い時間であったがなまえのことを好ましく思っていた。ベネットの友人であるということも、彼女がフィッシュルの言葉を理解しようと努力していたことも嬉しかった。一方のなまえはフィッシュルの言葉に少し驚いた後にっこりと笑った。そしてフィッシュルに近づいてその手を握った。
「ありがとう。改めましてフィッシュルとオズ。今日はほんとうにお疲れさま! また機会があれば一緒に冒険しようね!」
なまえの瞳があまりにも真っ直ぐすぎてフィッシュルは思わず顔をそむけた。
「れ、礼などいらないわ。従者の命を守るのも皇女の務めだもの!」
「『わたくしも楽しみにしている』と言ってます。なまえ様、本日はありがとうございました。また機会があればお嬢様のこと、どうぞよろしくお願いします」
なまえから視線を逸らしながらもギュッと手を握り返したフィッシュルもまたなまえに感謝を告げ、手を離した。そして一歩下がるとわざとらしく咳をひとつ。
「コ、コホン……! では、従者よ。その働きに免じて本日はわたくし自らの手でこの漆黒の予言書に記された話を彼方にいる従者キャサリンに語ることにするわ」
「……?」
「『わたくしが任務完了報告をするのでなまえは先に帰ってゆっくり休んでほしい』と言っています」
「えっ! でも悪いよ……二人だって疲れているのに……」
突然の提案に戸惑うなまえにフィッシュルは笑みを浮かべた。
「過酷な使命を果たした従者を
「……本当にいいの? わかった。じゃあ今度の依頼があったら私が完了報告するから! 今日はほんとうにありがとうね!」
フィッシュルの言葉に一度は断ったものの、やはり甘えることにしたなまえは二人に丁寧に礼を言った。こうして二人と一匹の短い冒険は幕を閉じた。それから幾度か共に依頼をこなしたフィッシュルとなまえはオズが間に入らずとも会話ができるようになることも、依頼以外で会うほどに仲良くなることはそう遠い未来ではないのかもしれない。
設定
なまえ
まだまだ新米の冒険者。モンドの外からやってきた。冒険者協会に入ったのは最近のため新米冒険者と名乗るが、それまで色々歩き回っていたために戦闘能力は高い。ベネットからフィッシュルのことはすごいやつだと聞いていたが、どうすごいのかは聞いてなかった。そのため初めはキャラが強烈という意味かと思ったが、依頼達成後はとにかくすごいというベネットと同じ認識に変わった。
フィッシュル
断罪の皇女。まだまだ新人の域を出ないが一目置かれている冒険者のひとり。はじめて会うなまえに受け入れてもらえるか内心ドキドキしていた。なまえという新しいお友達ができて気分が良いので今日はいい夢が見られると思う。
オズ
皇女の眷属。人語を操る烏。フィッシュル語を完璧に訳せる。はじめて会う人や久々にフィッシュルと会う人からはその翻訳能力とその気遣いにかなりの熱い視線を注がれている。フィッシュル辞書を持つ人々の憧れの的。