新参者の光来
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「誘われた? では、後ろにいるそちらの方が、た……が……」
誘ってくれたのか、と空達の背後にいるであろう人影に目を向けた。その時、その人の姿をはじめてちゃんと確認した。そして、問いかけようとしたが最後まで言葉を口にすることができなかった。空たちの後ろからやってきた人の姿を見て、なまえが言葉を詰まらせたからだ。驚きのあまり、立ち上がり、その人をずっと見つめている彼女の様子に、助け舟を出すように鍾離は口を挟む。
「なまえ、こちらは閑雲殿とその弟子の漱玉嬢だ」
「……」
「か、……かんうん、……さ、ん?」
鍾離の言葉になまえは閑雲の名前を繰り返した。それは呼びかけるようなものではなく、自分に言い聞かせているようであった。鍾離の妻であるなまえは当然、閑雲と呼ばれた女の正体を知っている。閑雲と聞いたことのない名を見知ったはずの友人の姿で名乗られてもなまえが何の説明もなく理解できるはずもない。本人か、それとも他人の空似なのか判断がつかずに戸惑う。
「……コホン。……う、うむ……久しいな、なまえ。息災だったか?」
「えっ、……。うん、私は……うん、元気だよ……?」
少し気まずそうな閑雲自身の言葉によって、別人かもしれないと困惑していたなまえの疑問は払拭された。だが新たな疑問が湧き上がってくることは当然であった。漱玉以外のこの場にいる者達は、その理由を各々の想像の範疇ではあるがなんとなく察した。
「えと、その、……か、閑雲、さんは……どうして璃月港に……って、弟子?」
長年ずっと人の姿で現れなかった閑雲になまえはその理由を問いながらも混乱していた。幼い時分から閑雲に師事して、最近まで共に生活していた申鶴が仙鳥の姿しか見たことないのだから、その驚きはもっともな物と言えるだろう。
「閑雲殿はチ虎岩に新居を買い、そこで新しい弟子となったこちらの漱玉嬢と生活をするそうだ」
「りゅう、……か、閑、雲ちゃ……さんが、ですか?」
鍾離の告げた言葉を聞いて、なまえがまた閑雲を見つめる。思いがけない出会いに驚いてばかりのなまえに見つめられっぱなしの閑雲は、少しばかり気まずそうに目を伏せて両腕を組む。閑雲、こと留雲借風真君に奥蔵山で転居について事前に聞いた空とパイモンにとっても「衝撃的な発表」だったものはなまえにとってもそうだったらしい。ぐちゃぐちゃになった閑雲の呼び方になまえの動揺が見てとれる。明らかにおかしいその呼び方を耳にして、皆が動揺するなまえに心底同情する。
そして話題の張本人である閑雲はそんな彼女の態度に見かねて、呆れたようにため息を吐きながらも「いつもの呼び方で良い」と一言だけ告げた。その声色はため息をついたその仕草とは全く異なるもので、なまえを落ち着かせるような優しいものだった。それに加えて鍾離も混乱するなまえの手をとって優しく握り、さらに落ち着かせるように背中を撫でた。
「なまえ、彼女もそのように言ってるから従うと良い」
「え、でも……留雲ちゃん、……じゃなくて閑雲、さんはお弟子さんの前ですから……」
閑雲と鍾離によって少しだけ落ち着きを取り戻したらしいなまえだが、まだ戸惑いは隠せないようだ。閑雲と鍾離を順番に見つめて眉尻を下げた。そんななまえのしどろもどろな言葉の中に含まれた聞き慣れぬ呼び名は、パイモンに驚きと違和感を与えた。
「留雲、……
「パイモン、静かに」
「あ、ご、ごめん!……オ、オイラのことは気にせずに、その……は、話を続けてくれ」
思わず聞き返すように口に出してしまったパイモンを、空は話の腰を折る行為だと判断して静かに咎める。空のおかげで、自らの失言に気がついたパイモンは口を抑えて謝るとそれっきり静かになった。その様子を黙って目にした閑雲はパイモンに何も言うことなく、戸惑ったままのなまえへと視線を戻す。
「甘雨や申鶴の前では普通に呼んでおるではないか。先程、鍾離殿が伝えられたように妾はこの街の住人となった。これからは前よりも会う機会が増えるのだから、いつもの呼び方で問題なかろう」
「留雲ちゃん……」
「呼び方などは妾にとっては些細なこと。しかし此度の妾はこれから“人間”として、この街の一員となる。だから、閑雲と呼んでくれるほうが有難いかもしれぬな」
「うん、わかった。えっと、閑雲、……ちゃん?」
「うむ、それで良い」
こうしてなまえの前に現れた璃月港の新入りの呼び名は定まった。