しあわせを願って
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貴族のお茶会(Eula & Jean)
旧貴族の末裔であるエウルア・ローレンスが西風騎士団に入団時の騎士団のトップがファルカであったことは彼女にとって幸運だった。彼はエウルアが旧貴族だからといって態度を変えることのない実に公平な人物であったからだ。だからエウルアが騎士団に加入した時、反対の意を示すためにおしかけたモンドの住民たちからエウルアを守った。それはエウルアを西風騎士団に誘ったジン・グンヒルドも同じであった。
ジンは自分にも他人にも真摯に向き合う至って生真面目な性格をしていた。真面目という言葉は彼女のためにあると言ったような人物であった。けれども決して融通の効かない頑固な人物ではない。彼女はその人自身を見て公平に評価できる人間である。だからこそ、彼女はエウルア・ローレンスを騎士団に誘った。
「なまえが結婚すると聞いた」
「……ええ。相手があのラグヴィンドの坊ちゃんというのが本当は気に入らないのだけれど……、仕方ないわね」
ティーセットを用意したジンはジン・グンヒルド様と書かれた封筒をエウルアに見せてからそう話を切り出した。そんな彼女の言葉にエウルアはため息を吐きながらそれに答えた。ジンとエウルアは定期的に茶会を開いている。はじめはローレンス出身のエウルアが騎士団で不都合がないかと心配したジンの優しさだったのだが、今ではただの世間話をすることも多くなっている。時々どこから聞きつけたのか図書司書であるリサも加わったりもする楽しいものである。周りの騎士達はなぜか2人が訓練をしていると思っているようだが。
「ふっ、エウルア。でも君が先輩に発破をかけたのだろう?」
「……まさか。敵に塩を送る真似はしないわ」
エウルアはそう言ったが、ジンの指摘は当たっていた。いつかの夜にわざわざ待ち伏せしてまでローレンス家の敵であるディルック・ラグヴィンドに会ったのはエウルアの愛するなまえの幸せのためだ。
「あの子には幸せになってもらわないといけないから」
ローレンス家というのは内部にいなければわからないが様々な面で厳しいところがある。だからこそ娘という存在は有用で大切にされる。自由の国というだけあってモンドは比較的制限というか、各々が好き勝手していることも多い。だからだろうか、見えないところでかなり薄暗いものもある。それはあの不真面目なシスターロサリアの存在がそれを証明しているだろう。
エウルアはなまえを幸せにしたい。たとえローレンスに生まれたとしてもなまえには最大限の幸福を得てほしい。ローレンスとしてではなく、なまえとして。そのためにでき得る限りを行った。そのひとつがあの夜ディルックに会うことだったというだけだ。
「もしかして、なまえに剣を教えてほしいと言ったのも」
「……さあ。私はただあの子がヒルチャールを前にして逃げ回るのが見苦しいと思っただけよ。曲がりなりにもローレンス家の者が逃げ回るなんて格好悪いじゃない」
「そうか。……うん、そうだな」
「……ええ、そうよ」
ジンは知っている。エウルア・ローレンスという人間の本質を理解している。そして、なまえに剣を教えるようにいった彼女の優しさも。だからこそ何も言わずに頷いた。
「でも、礼を言うわ。……ありがとう。おかげでなまえは幸せになれる」
ジンのおかげでなまえはひとりで立ち回れるほど強くなれた。それはエウルアやジンの剣術の足元にはとても及ばないけれど、なまえにとっては大きな進歩だ。ジンの助力はエウルアにとっても大きな助けとなった。それはなまえにとっても同じである。その助力があったからこそ、なまえは無事にディルックと再会することができたのだとエウルアとなまえはそう確信している。
あとがき
お読みくださりありがとうございます。書いた私が言うのもなんですが一滴もお茶を飲まないお茶会でしたね。