ほどけない結び目
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・『事前計画は単純でかまわない』の旅行編
・他関連→『先の見えない長い長い階段の向こうに』、『夢のような夢の外』
それは私が旦那様と絶雲の間へと至る道を歩いている時のことだった。玉京台に向かうまでの階段すら満足に登れない私が、絶雲の間にたどり着くまでのとても厳しい道をすらすらと進めるはずもなく、幾度もへろへろと情けない姿を見せていた。必ずしも安全な道じゃないから極端に体力を消耗した状態は良くないので絶妙なタイミングで旦那様は休憩を提案してくださっている。
今も、もう何度目かわからない休憩の最中である。誰かが設置した椅子まで旦那様に導かれて素直にそこに腰掛けていた。この辺りは薬童や修行者、それに参拝者等が訪れる事もあり、このような休憩のための屋根のついた場所が確保されているみたい。ちなみにこの長椅子に腰掛けているのは私だけ。旦那様は私から手を離して体調を気遣って下さってから全然疲れてないご様子で周囲を警戒して見渡している。この辺りは通る人も少ないせいか魔物が多い。少しして周辺の安全を確認すると旦那様は私のそばまで帰ってこられた。
「玉京台の時よりも体力がついたな」
「旦那様もそう思われますか? 私も実はちょっと思っていたんです。ですが……、まだまだ旦那様にはご迷惑をおかけしていますね」
「そのようなことを思う必要はない。この道は凡人にとっても険しい道だというからな」
何度目かわからない休憩を提案してもらった身でそういうお褒めの言葉は耳に痛いけれど、旦那様に褒められるのは少しだけ嬉しい。それに私自身でももっと休憩が必要だと思っていたので、思ったよりも体力がついていたことに自分でも驚いていた。璃月港からここに入るまでの道のりは緩やかなものであったけど距離は結構ある。だからそのおかげで体力がついていたのかなと思った。
「仙人に会うための行程は厳しいものなのですね」
「そうだな。それに今は仙人たちがいる場所は禁足地になっているからな」
「禁足地、ですか」
禁足地、つまり足を踏み入れてはいけない場所。仙人が住むという絶雲の間。明らかな境界が引かれているのには理由がある。
「ああ、なまえも知っている通り、仙人と凡人の体は異なるものだ。お前ほどの特異性はなくとも、その体も魂も頑強で力強い。降魔大聖が望舒旅館にいながら人と関わり合いを持とうとしないのもそのためといえるだろう」
「……彼は、……いえ、この場所は仙人達のための場所なのですね」
降魔大聖は仙衆夜叉の1人で唯一残った者だ。だから特に彼にとって人と関わるのは大変なことだろう。そう思ってあの少年仙人のことを考えたが、今は口に出すことではないと思った。
眼下に太山府が見える。今はもう使われていないそこはかつて仙人になるための修業がおこなわれていた場所だった。モンドへと至る石門や軽策荘までの道として利用されている交通の要所と呼ばれる荻花州の道とは違い、ここには私たち以外は見えない。これまですれ違った者も片手で足りるほどであった。
この道があまり整備されていないのはそもそも仙人に歩きやすい道なんていらないからだ。それなら、ここはまだ誰でも通れる場所だけど、既に仙人の領域という認識なのも間違っていないのかも、と先程出会った私の知らない仙名を名乗る方の言葉を思い出した。
獣道ではなく、ちゃんと道になっているのは少ないけれど必ず仙人に対して敬意を払う誰かがいるからなんだろうな、と。だから、この椅子も木が腐っていることもなく、安全に座っていられる。時折見えた仙人への供物が供えられた祭壇も殊の外綺麗だから尚更そう思う。仙人を敬う人々の中には仙人に教えを乞いたいと思う人もいるらしい。そんな人たちもまた絶雲の間に入るらしい。天地籠命試練も既に行われていないために太山府も封鎖されてしまったからそれしか仙縁を結ぶ方法がないのだと考えられているみたいだけど……。
「……」
でもこの間、旦那様が会わせてくださった通りピンこと歌塵ちゃんは璃月港にいるし、半仙の甘雨も秘書をしている関係で璃月港にいるらしいから案外簡単に仙縁は結べるような気もする。それに仙祖と名高い旦那様も今は璃月港にお住まいだから仙縁を結ぶというのみの目的であるならばここに来る必要はない……のかもしれない。でも、もし仙人を目指すならば太山府で行っていたような厳しい修行は必要だからやっぱり厳しい環境は必要だってことなのかな。
「……」
「どうした? 何か考え事をしているようだな」
「はい……、仙人と凡人の縁について考えておりました」
「仙縁か」
「太山府も雲中仙居も、今は……使われていないのですよね? ですから少し考えていました。現在の凡人達にとって仙縁は遠いものなのかと……」
今は仙人の存在を知っている者は少なくなったらしい。少し前に群玉閣という雲中仙居のような浮生の石が使われた浮遊建築物を落とすことになるまでは仙人達が長期間、公に姿を表すことはなかったと聞いた。だから、仙縁はより一層貴重なものという認識になってしまったのかもしれない。
・他関連→『先の見えない長い長い階段の向こうに』、『夢のような夢の外』
それは私が旦那様と絶雲の間へと至る道を歩いている時のことだった。玉京台に向かうまでの階段すら満足に登れない私が、絶雲の間にたどり着くまでのとても厳しい道をすらすらと進めるはずもなく、幾度もへろへろと情けない姿を見せていた。必ずしも安全な道じゃないから極端に体力を消耗した状態は良くないので絶妙なタイミングで旦那様は休憩を提案してくださっている。
今も、もう何度目かわからない休憩の最中である。誰かが設置した椅子まで旦那様に導かれて素直にそこに腰掛けていた。この辺りは薬童や修行者、それに参拝者等が訪れる事もあり、このような休憩のための屋根のついた場所が確保されているみたい。ちなみにこの長椅子に腰掛けているのは私だけ。旦那様は私から手を離して体調を気遣って下さってから全然疲れてないご様子で周囲を警戒して見渡している。この辺りは通る人も少ないせいか魔物が多い。少しして周辺の安全を確認すると旦那様は私のそばまで帰ってこられた。
「玉京台の時よりも体力がついたな」
「旦那様もそう思われますか? 私も実はちょっと思っていたんです。ですが……、まだまだ旦那様にはご迷惑をおかけしていますね」
「そのようなことを思う必要はない。この道は凡人にとっても険しい道だというからな」
何度目かわからない休憩を提案してもらった身でそういうお褒めの言葉は耳に痛いけれど、旦那様に褒められるのは少しだけ嬉しい。それに私自身でももっと休憩が必要だと思っていたので、思ったよりも体力がついていたことに自分でも驚いていた。璃月港からここに入るまでの道のりは緩やかなものであったけど距離は結構ある。だからそのおかげで体力がついていたのかなと思った。
「仙人に会うための行程は厳しいものなのですね」
「そうだな。それに今は仙人たちがいる場所は禁足地になっているからな」
「禁足地、ですか」
禁足地、つまり足を踏み入れてはいけない場所。仙人が住むという絶雲の間。明らかな境界が引かれているのには理由がある。
「ああ、なまえも知っている通り、仙人と凡人の体は異なるものだ。お前ほどの特異性はなくとも、その体も魂も頑強で力強い。降魔大聖が望舒旅館にいながら人と関わり合いを持とうとしないのもそのためといえるだろう」
「……彼は、……いえ、この場所は仙人達のための場所なのですね」
降魔大聖は仙衆夜叉の1人で唯一残った者だ。だから特に彼にとって人と関わるのは大変なことだろう。そう思ってあの少年仙人のことを考えたが、今は口に出すことではないと思った。
眼下に太山府が見える。今はもう使われていないそこはかつて仙人になるための修業がおこなわれていた場所だった。モンドへと至る石門や軽策荘までの道として利用されている交通の要所と呼ばれる荻花州の道とは違い、ここには私たち以外は見えない。これまですれ違った者も片手で足りるほどであった。
この道があまり整備されていないのはそもそも仙人に歩きやすい道なんていらないからだ。それなら、ここはまだ誰でも通れる場所だけど、既に仙人の領域という認識なのも間違っていないのかも、と先程出会った私の知らない仙名を名乗る方の言葉を思い出した。
獣道ではなく、ちゃんと道になっているのは少ないけれど必ず仙人に対して敬意を払う誰かがいるからなんだろうな、と。だから、この椅子も木が腐っていることもなく、安全に座っていられる。時折見えた仙人への供物が供えられた祭壇も殊の外綺麗だから尚更そう思う。仙人を敬う人々の中には仙人に教えを乞いたいと思う人もいるらしい。そんな人たちもまた絶雲の間に入るらしい。天地籠命試練も既に行われていないために太山府も封鎖されてしまったからそれしか仙縁を結ぶ方法がないのだと考えられているみたいだけど……。
「……」
でもこの間、旦那様が会わせてくださった通りピンこと歌塵ちゃんは璃月港にいるし、半仙の甘雨も秘書をしている関係で璃月港にいるらしいから案外簡単に仙縁は結べるような気もする。それに仙祖と名高い旦那様も今は璃月港にお住まいだから仙縁を結ぶというのみの目的であるならばここに来る必要はない……のかもしれない。でも、もし仙人を目指すならば太山府で行っていたような厳しい修行は必要だからやっぱり厳しい環境は必要だってことなのかな。
「……」
「どうした? 何か考え事をしているようだな」
「はい……、仙人と凡人の縁について考えておりました」
「仙縁か」
「太山府も雲中仙居も、今は……使われていないのですよね? ですから少し考えていました。現在の凡人達にとって仙縁は遠いものなのかと……」
今は仙人の存在を知っている者は少なくなったらしい。少し前に群玉閣という雲中仙居のような浮生の石が使われた浮遊建築物を落とすことになるまでは仙人達が長期間、公に姿を表すことはなかったと聞いた。だから、仙縁はより一層貴重なものという認識になってしまったのかもしれない。