希望の枝葉
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――マハールッカデヴァータ様は……?
大丈夫。大丈夫……。ずっとそう言い聞かせてきた。何も問題ない。ここが時間の変化もわからないほどの暗闇でも、ここに何者さえも訪れなくとも大丈夫。希望はいつだってあるのだとあの時握りしめたそれが無事に芽吹いているのだと知っているから。大丈夫。なんともない。暗闇にだって慣れる。今が何時かわからなくたって大丈夫。だって、あの子が笑ってくれたから。
「……」
暗い空間には何の気配もない。今まで見ていたのはあの子の夢。元々彼女と同じ力だから入れた空間だった。彼女が昔、私に話してくれたことを思い出しながらようやく行けた世界。姿は違えども力の源は同じ。あの子は枝葉。間違いなく世界の知恵と繋がっている。現にあの子は夢を見ることができる。
――夢のみが意識の最も深い暗闇から呼び覚ませるの
だから大丈夫。夢で世界を救える。彼女が願って実行したように夢の力は無限だ。だから、あの子のことは心配ない。あの子は立派な草神になれる。だからお願い。スメールの民たちを、すべての苦しむ人々を救って。いつかきっと、あなたなら彼女ができなかったことができるはず。大丈夫、あなたはきっと世界を救える。
――残念です。神の眷属であり、マハールッカデヴァータ様に一番近しいあなたさまが神の所在もわからぬとは……
神の所在なんて本当はわかっているくせに。彼女もあの子も神なんだから。目の前のあの子を無視するなんて、なんて傲慢な人間なんだろう。でも、そんな彼らも彼女は守るのだ。だから、私も彼女のように人間たちにこれ以上悲しい思いをさせてはならないし、絶望を与えてもいけない。
隠さなければ、かつて砂漠で起こったことはもう誰も知らないのだから。どんな目にあっても、彼らを守るために隠さなければ……。あれを急速に伝播させないためにも。彼女の心も隠さないと。真実を隠して、隠して……。隠して、隠し通した結果、私は死ぬのね。最低な眷属として。スメールの民が愛した草神を殺した私として死ぬの。……。
……こわい、なんて言っても誰も助けてくれないよね。私、……わたしが、×××を殺したのだと思われている。
――殺してないのに。希望を託しただけなのに。
希望はつながった。でも彼女は死んだ。死んで、私は生き残った。やっぱり私が×××を殺したのかもしれない。一人で死なせてしまったんだから私の責任だよね。
――お前が死ねば良かったのに
私もそう思う。私が死んで世界が救われるなら、彼女が死なずにすめば良かったのに。……なんて。そんなこと言えないね。誰にも、誰にも言えない。私たちだけの秘密は私が墓場に持っていく。この暗く冷たい場所で私は今日死ぬ。力を失くしてこんな無様な姿を人にさらさなくて良かった。人々はきっと私を恨んでいる。誰も会いに来ないのが証拠だもの。恨んでいいよ。それであなたたちの気がおさまるのなら。私はあなたたちの愛する神すら守れなかった最低で最悪の草神の眷属だって。呪いの言葉は残さないから安心して。誰も恨まない。だって、あの子がいるから。枝葉は生きている。それだけで私は、草神の眷属は最低限の役割は果たせた。
……。………。でも×××、あなたならどうしたのかなって思うの。私はあなたの意見を聞きたかった。最期まであなたに頼ろうとするなんて、あなたに頼りっぱなしだったって実感させられた。眷属だっていいながら、私はずっとあなたを支えていなかったんだって思い知らされた。私があの子に対してできることがほとんどなかったのも当然だよね。
……もうすぐあの子の誕生日だ。遠い昔に花神が彼女を祝った時のように、あの子にも何かプレゼントをあげられれば良かった。祝福の言葉だけではなく、……。……無理なことはわかっている。私も、あの子も、囚われの身。夢の中でしか会えなかった。物を贈るなんて無理な話。
――なまえ、……お願いね
……ごめんね。約束したのに私は守れそうにない。あなたとの約束だけじゃなくて、あの子に祝福さえも贈ることができなかった。私は自分の限界も見誤っていた。もう夢には入れない。せめて、……せめて心の中で呟いた祝福があの子に届いていますようにと願うことしかできない。
……、…………。
……本当にごめんなさい。
本当はわかっていたの、あなたは私に生きてほしかったって。それなのに私は守れなかった。いつかまたあなたに会えたら私を叱って。望むことを成し遂げられなかった最低な従者ねって呆れたように笑ってね。そしたら私もあなたにちゃんと謝るから。
みっともなく、そして眷属らしさもなくただの友達のように言い訳を連ねてから、心の底からあなたに謝るわ。だからそれまであなたは私を許さないで。ごめんね、約束を守れなかった私を許さないで――……