希望の枝葉
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「マハールッカデヴァータはもう……いないよ」
「……」
そう。なまえの言う通り、彼女はもういない。
「この前教えたようにこの国……スメールに神はもうあなたしかいない」
「ええ、そう……聞いたわ」
なまえによれば私が生まれる前のスメールには三柱の神がいたという。
「花神も砂漠の王も、……そしてマハールッカデヴァータだって……もう皆いない」
砂漠の王キングデシェレト、花神ナブ・マリカッタ、そして草神マハールッカデヴァータ。
「だから、あなたが神としてこのテイワット大陸の七国ひとつスメールの草の神としてスメールの民達の助けになって」
草の神はこの地の神の称号。この大陸の七神だという証。その役割は人類を導くこと。
「でも、私は何もできないわ……。賢者達は私に失望した。だから私はずっとここにいるのよ」
最初に私の聞いた言葉。ずっと忘れられない。その時はわからなかった言葉の意味ももう知っている。
「なまえに教えてもらったこの国の歴史、草神の……マハールッカデヴァータの成し遂げたことを、私ができるなんて思えないの」
「……話がそれちゃったけど、さっきのパティサラはね、もう現実には咲いていないの」
「え?」
咲いていない? どうして? だって、なまえはそれをこの夢の中で再現しているのに……。
「この花を私が花神の象徴と言ったのは彼女がいなくなった後、この花も姿を消したからなの」
「姿を……」
前になまえが教えてくれたわ。花神は突然姿を消したこと。そして、草の神と砂漠の王は袂を別つことになったと。
「マハールッカデヴァータはその花を再現しようとしたけど結局できなかった」
「できなかった?」
私にとって先代はとっても優秀で有能。なんでもできると思っていた。できないことがあるなんて考えたこともなかった。
「本当に……マハールッカデヴァータができなかったの?」
私の声は自分でもわかるほどに震えていた。動揺が隠せない。なぜなら私にとってマハールッカデヴァータは偉大な神で、それはスメールの民にとっても同じことで……。不可能があったなんて考えたこともなかったわ。
「マハールッカデヴァータが作り出したパティサラはこれ」
そう言ってなまえがまた私に見せてくれたのは同じ形の花。
「色が、……違うわ」
今度のパティサラは薄い紫色。形は同じように見えるけれど、色が違うだけで受ける印象も異なる。二つの花を見て私はなんとなく私とマハールッカデヴァータ……草神のことを重ねてしまった。
「赤紫のパティサラはもう咲かない」
「……」
「……だからね。マハールッカデヴァータも全能じゃないの。あなたはこれからきっとそのアーカーシャを通じていろんなことを知ることができる」
花神のパティサラを再現しようとしたマハールッカデヴァータ。彼女の知恵の結晶であるアーカーシャを使う私。
「知識を蓄えて、あなたが知恵の神になるの。それで……スメールの民を助けて」
私が、知恵の神に……。
「……なれるのかしら……。私が神として、みんなを……」
これは私の本音。私は神としてありたいと願っていたのかもしれない。偉大なマハールッカデヴァータのような神になりたいと。でもなまえの期待にこたえられるか自信がない。弱気な気持ちはついつい態度に出てしまって私はうつむいた。そんな私の手をしゃがんだなまえがつかんだ。
「なれるよ」
「……!」
触れた手にぬくもりなんてない。視覚だけがその現状を伝えてくれる。感触だって、何もないのに。私はやっぱり彼女のその手が暖かく、感じる……。気のせいだわ。だってこれは夢だもの。目を覚ました時になまえの姿を見たことなんてない。現実の私はいつも独り。何があっても、何も変わらない。
「でも……」
「マハールッカデヴァータを一番近くで見ていた私がいうから間違いない! あなたは神だよ。当代の草神はあなた。あなたなんだよ」
「なまえ……、わたくしは……」
どうして私はこの時、なまえにはっきりと答えられなかったのかしら。中途半端に黙りこくって、彼女の励ましを素直に受け止められなかったのかしら。嘘でもいいから、私は胸を張ってなまえの期待に応えるべきだった。……答えたかった。
もしも……この時、これがなまえと私の最後の会話だったってわかっていたら絶対にそうしたわ。でも、私は未来が見えるわけではない。それになまえの不調にも気づけなかった。
もっとアーカーシャをうまく活用できていれば気づけていたのかもしれない。彼女の精一杯の強がりを私は鵜呑みにしてしまったの。
それ以来、なまえが私の夢に現れることはなくなった。もちろん私は彼女を探した。アーカーシャを使って外も探した。夢の中も探した。でもなまえを見つけることはできなかった。だって、誰も彼女を知らなかったから。草神に眷属なんて存在しないとそう言われたわ。それなら、なまえは、私を励ましてくれたあの彼女は私が作り出した何かだったの……?
――赤紫の花は花神の象徴
そんなはずないわ。だって、花神のことを私は知らなかったもの。
――マハールッカデヴァータは花神と砂漠の王と共に……
かつてのスメールで三人の王が神として存在していたなんて知らなかったもの。
――でもね、最初に花神が……
花神がどうしていなくなったのかも、砂漠の王がなぜ禁忌に染まったのかも私は知らなかった。だから、だからなまえは私が作り出した「何か」であったはずがない。そう私は信じている。いつかまたなまえと再会できることをずっと願っているの。
いいえ、なまえが会いに来られないなら私が会いに行けばいいんだわ。いつか私が彼女を見つけ出す。アーカーシャを使い、キャサリンの体を借りてなまえに会うわ。何年かかっても必ず私がなまえを見つけ出すから。そうしたらきっとまたなまえに会えるはずだわ。そうよね……。そのはずだわ。