希望の枝葉
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どこまでも続く草原に青い空。それは私の今の心を表しているかのよう。目に映るのはそこに立つなまえの姿。目を閉じて、深呼吸をした彼女。何かに集中するようになまえは深呼吸を繰り返す。それからしばらくして目を開けたなまえの纏う雰囲気がどこか変化したような気がした。なまえは体を横に向けて片腕をあげた。そして、こちらに視線を向けたと思えば風が吹いた。赤紫の花びらが舞う。なまえがステップを踏むたび、足が地に着くたびに花が咲く。そして、花が揺れる。
……――これが、これが花神の舞……?
わたくしの……私のための舞……。
なまえが私のために見せてくれるその踊り。こんな光景をマハールッカデヴァータも見ていたのかしら……。とても綺麗……。なまえが私の為だけに踊っていてくれる。嬉しい。誰かが私のために何かをしてくれることに対しての喜びをはじめて認識した瞬間だった。青い空に舞う赤紫。そういえばあの花はなまえの髪にあるのと同じものだわ。あれも同じ花だったのね。彼女によく似合っているわ。
そんなことを考えていたせいなのかしら。
「……わっ!」
突如なまえが倒れて花が霧散した。なまえが転んでしまったのは私が彼女の踊りに集中していてなかったせいなのかもしれないわ。私のために踊ってくれていたのに余計なことを考えてなまえの踊りに集中していなかったせいね。座り込む彼女のもとへと駆け寄った。
「いたた……! なんで夢の中なのにうまくステップ踏めないんだろ……」
「なまえ、大丈夫? 私が無茶なことを言ったせいね……」
「違うよ。私が現実と変わらずにどんくさいせいだよ」
「どんくさい?」
「あー……、こうやって転んじゃうことだよ。花神ならこんなことはないんだけど……ごめんね」
私の疑問になまえは起き上がりながら答えてくれた。そういえば初めて会った時もなまえは転んでいたわ。……なるほど、つまりよく転ぶような人を「どんくさい」と評するのね。でも、その「どんくさい」というのは魅力だと思う。だって、私がなまえを怖くないと思ったのはその彼女の「どんくさい」ところを見たからだもの。
「いいのよ、なまえ。花神の舞なんて私は一生見られないと思っていたの。だからその一端に触れることができて私はとても嬉しいわ」
私の言葉になまえはもう一度謝ってくれた。本当に謝る必要なんていらないのに。途中までとはいえ先ほどの踊りはとても素晴らしいものに思えたの。と言っても私が踊りを見たのは初めてだったから基準というものはないのだけれど。
「そんなことないよ。マハールッカデヴァータがいなくなっても花神誕祭は続いている。あなたはいつか大きな花車にのってスメールの民達と一緒に花神誕祭に参加することができるよ。……それでこんなまやかしじゃなくて本当の花神の舞だって見ることができる」
それがなまえの慰めだってことは外をほとんど知らない私でもわかった。一度も自らの体で外に出ていない私がこの先、人々に望まれて外に出られるなんて想像もできない。そう、マハールッカデヴァータではない草神が祝われるなんてとても想像ができないわ。だからなまえの言葉に素直に頷くことができなかった。だけど私はなまえの優しさを踏みにじるような真似もしたくなかった。そしてさきほどのような沈黙に陥るのも嫌だったから、その代わりに先ほど生じた疑問を彼女にぶつけることにした。
「……なまえの髪にあるその花と同じものなのね」
「えっ……?」
わざとらしく話をそらした私の疑問を素直に受け止めて、でも突然の質問に驚いたようにその花が挿してある頭に手をあてたなまえ。それから何かを思い出したかのようにふっと笑う。その笑顔がとても嬉しそうで、私は言葉を失ってしまった。
「これはパティサラという花だよ」
「パティサラ……」
「そう。赤紫のパティサラは花神……ナブ・マリカッタの象徴。彼女が踊った時に足元に咲いた花。だからさっき踊った時に再現してみたんだけど……でも彼女のように踊るのは難しいね」
赤紫のパティサラを私の目の前で手の中に出したなまえ。それよりも私は彼女の言葉が気になった。なまえは「彼女のように」と口にした。それはつまりなまえは花神の舞を見たことがあるということ。
「もしかして……あの、なまえは花神を知っているの?」
「……うん、知ってるよ。さっき踊ったのは彼女に教えてもらったものなの」
「!」
じゃあ、先ほどなまえが私に踊ってくれたのは本当に花神が草神に踊っていたものだったのね。本当に、私はマハールッカデヴァータが見たような花神の舞を見ていたのね。なんだか不思議な気持ち。言葉にできない言いようのない気持ちがあふれてくる。こんな気持ち……初めてだわ。同時に湧き上がってきたのは純粋な疑問。
「それじゃあ、なまえはマハールッカデヴァータと会ったことがあるのかしら……」
そう呟いて、私はなまえをちらりと見つめた。それは問いかけでもあったけれど本当は答えを聞くのが少し怖かった。彼女の反応は少しの沈黙だった。それから静かに答えをくれた。
「……うん、私はね、マハールッカデヴァータの眷属なの」
「!!」
「私は先代草神の眷属。だからここに来ることができたんだ」
「……そう、だったのね」
マハールッカデヴァータの眷属なら私の夢の中に入ってこられるはずね。だって、彼女は偉大な神だもの。私とは違って、眷属だっているのね……。そうよね。だって彼女は皆に慕われる素晴らしい神だもの。
「なまえは、……私を恨んでいないの?」
「……どうして?」
「だって、スメールの民たちは皆、私を見て悲しんでいたわ。賢者たちだって……」
「……」
「わかっているわ。私は名ばかりの神で……ううん、神ですらない。皆にとってマハールッカデヴァータこそ本当の草神なのよ」
今でも思い出すのは自身のこの目で見た光景。私は人々が涙して悲しみを背負う中、この場所に連れてこられた。その時は人々の感情の意味を理解できなかったけど、今ならわかる。誰にも望まれていないのだということを私はもう知っている。
スメールの民たちはクラクサナリデビを必要としていない。必要とされていない神なんて意味があるのかしら? 殺されるわけでもなく、幽閉されているのは彼らに私を殺す理由がないからなのかしら? それとも、生かす理由があるからなのかしら?
……だめね。この答えを持つのは私ではない。考えたって答えの出ない問いだわ。私には得られる情報がまだ足りない。人々は草神を知恵の神と呼んでいる。それだけでマハールッカデヴァータの偉大さに気づかされるわ。