希望の枝葉
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「……花車が揺らぎ、ナヒーダは目を開ける」
かつて花神が草神の誕生を祝ったことから草神の誕生した日は花神誕日とよばれている。
「そして言う、夢を見ていたと……」
花車にのった草神を人々が笑顔で出迎えて、草神の誕生を祝う祭り、花神誕祭がはじまる。私の誕生日は花神誕日と呼ばれているらしい。花神がかつて草神を祝うための踊りを踊ったことから呼ばれるその名称。そう教えてくれたのはなまえだった。そして、その日にかけられる祝いの言葉を最初に告げてくれたのもまたなまえだった。どうして草神である私の誕生日なのにその由来を他人から聞いたのか。
……その理由は簡単よ。花神が祝った草神とは私の事ではないから。花神が祝福の踊りを踊った相手はマハールッカデヴァータと呼ばれる先代。私をここに連れてきた人間……賢者たちによると私の誕生と彼女の死は同日のことであったと聞いたわ。マハールッカデヴァータは人々が敬愛し、尊敬する偉大なる神のこと。私はその後継。後継と言うけれどマハールッカデヴァータとは面識はない。
だから私は彼女の知恵を受け継いだわけではないから多くの物事を知らない。それが賢者たちに落胆と失望をもたらした。だからは囚われている。偉大なるマハールッカデヴァータ……彼女が作ったこの装置の中に、外側から鍵をかけられて、私はずっと、この場所にいる。
そんなふうに閉じ込められた私ができることは夢の中でしかなかった。そして、マハールッカデヴァータの遺物であるアーカーシャ。この二つが今の私の知識を支えている。アーカーシャもそうだけど夢を見ない賢者たちは私が夢の中で何かをしているなんてことは知らない。考えることもないだろう。彼らがアーカーシャを使い続けているのがその証拠。
それともそれを知っていてなお使い続けているのかしら? どちらにせよ私は先代の遺物と夢の中で少しずつ知識を得て、蓄えている。そんな夢の中で私はなまえと出会った。
「こんにちは」
「……!」
なまえとの出会いは突然のこと。私の夢に突然現れた。それはようやく鳥の飛び方を知った頃のことだった。見たこともない彼女が突然目の前に現れて私は混乱した。その頃はまだ賢者達への恐怖や誰も私を見てくれないと言うことを思い出して潜在的な恐怖から私の夢には私以外のヒトの形をしたものはなかった。それなのに彼女は私の夢の中に現れた。私の、私だけのものだったはずの世界に彼女は現れた。
「……っ」
その姿に私は何か言葉を出そうとしたけれど開いた口からは何も音が出なかった。驚きとフラッシュバックする記憶に私は無意識のうちに震えてしまう。私の精神はもちろんこの夢の世界にも影響を及ぼす。だってここは私の夢なのだから。遊んでいたはずの動物たちも姿を消している。ただこの世界が維持されているだけの冷静さだけはどこかで持ち合わせていたらしい。でも隠れる場所なんてことも考える余裕もなくて、ただただその人の挙動を見つめている私はさぞかし滑稽に見えたに違いない。
「あっ、ごめんね。いきなりだったよね……!」
一方、彼女は私の態度を見て驚かせてごめんねなどと言いながら、わたわたと慌てていた。よほど慌てていたのか夢にあるはずのない何かにつまずいて彼女は転んだ。……転んだ?「いたた」と痛みなんて感じないはずなのにそんな声をあげている。そんな行動を見て私は恐怖を忘れてしまって気が付けば笑ってしまっていた。
「ふふ……」
「!」
「ふふっ、ここは夢なのに『痛い』なんて変わった人ね」
「……しゃ、しゃべった……!」
笑う私になまえは嬉しそうな笑顔で私に飛びついてきた。……え? と、飛びついて……?
「はじめまして……っ! わ、私はなまえ! あなたに会いに来たの!!」
「!!??」
目の前が真っ暗になった。それは私の視界の話であって私の意識がなくなったということではない。でも今の私の視界は暗い。近づいてきたなまえ。つまり私はなまえに抱きしめられていたのだ。夢の中だから体温も感覚も何もない。何も、ない……はずなのだけれど。不思議だわ。一体これは何なのかしら……?どこか懐かしくて、でもすこしさみしい。
……どうしてなのかしら? 自身に問いかけても答えは出なかった。けれどこれだけは確か。体温も感覚も何もない。視界だけが暗いのに、近くにあるそれの温もりを私は……知っている……?
「……」
どう、して。どうしてなのかしら。抱きしめられたことなんて一度もないはずなのに。誰かの温もりなんて私が知るはずがない。私が知っているのは……、知っているのは、
――我らの主マハールッカデヴァータ様はどこに行ってしまったのですか?
あの時、私を強引に引っ張った賢者の冷たい手だけ。そのはず、よね。
――本当に?
本当に……そうなのかしら。私の知らない何かがそこにあるの?
「あっ、ごめんね……。私、思わず興奮しちゃって……! いきなりびっくりしたよね?」
わからない。慌てたように私から離れた彼女はそれからようやく名乗ってくれた。自身の考えに没頭していたから私に抱き着いていた彼女が震えていたことに気がつかなかった。