ハレの日には晴れが良い
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――
「じゃあ、ジン! これからモンド城を出ます!」
「城内を出るのか?」
「うん。だって、城内にいたらいろんな人に声かけられるでしょ?」
当たり前のように言われた言葉にジンは首を傾げた。
「あ、ジン団長ー!」
「ほら、こんなふうにさ」
近づいてくるモンド住民の姿を2人は見つめる。
「ジン団長! ちょっとご相談があるんですが…」
「ああ、かまわ「ごめんなさいねー! 今日ジン代理団長の誕生日なの! 私と遊びに行くから相談は他の人に聞いてもらってね!」
いつものように悩み相談を受けようとしたジンをなまえは遮った。そのことに驚いていた悩めるモンド民だったが、なまえの言葉を理解すると笑顔に変わった。
「えっ! ジン団長お誕生日だったんですか?! おめでとうございます!!」
「えっ、あ、ああ……。……ありがとう」
笑顔でおめでとうといわれて戸惑いながらもジンは礼を言った。
「本当にごめんなさいね!」
「いえ、こちらこそ知らなかったとはいえ、すみません! 良い誕生日にしてくださいね!」
なまえが再度謝ると気にしないで欲しいと笑うモンド民に手を振ってジンの腕を掴んだ。
「ありがとう! ……さ、ジン行こう」
「えっ、ちょっ……」
そのままなまえに腕を掴まれ、引っ張られるように走らされるジンであった。ニコニコと手を振るモンド民が遠くに見えた。
――騎士団員たるもの休日であれどモンドの民の模範となるべし
ジンは自分で選定した騎士団ガイドの中身が頭をよぎった。
「(これは……模範的と、よべるのだろうか…)」
なまえの勢いに押されっぱなしのジンはそのまま走るしかなかった。そのまま走って2人は小門から外へ出た。途中で声をかけられたがなまえが走りながら返事をして止まる気配など全くなかった。門を出たら走るのはやめて手を離したなまえはジンと共に歩きだした。もう走る理由などなかったからだ。モンド城外へ出るためには正門前の橋を渡るしかないため、小門の使用率は極端に低い。だがそれが今の2人には良かった。
「ところでなぜ代理団長代理なんて話になったんだ?」
「あー……。あれ? なかなか良い考えじゃなかった?」
「代理が多すぎて、ややこしいだだろう」
眉を顰めるジンになまえは笑った。
「それも狙いだったり? ……リサから手紙をもらってね。ジンが仕事ばっかりしてるから誕生日くらい休憩がてらに連れ出してくれって」
「リサが……」
「うん。リサ達騎士団の皆はジンの仕事を代わりに片付ける係で、私はジンの誕生日ツアーのツアーガイド」
「なんだそのツアーは」
「名前の通りだよ。今年の誕生日は豪華仕様だからね」
なまえはジンに向けてウインクをひとつ。
「きっと損はさせないから期待しててよ」
そして、自信満々にジンを見た。
「なまえ、お前の『期待してて』はいつも私の思うものとは全く違うからな。人には迷惑かけるなよ」
「かけないよ! そのために外に出たんだから!」
「そのために……?」
なまえの訴えにジンは嫌な予感がした。結局その心配は杞憂だったようで何事もなく2人はモンド周辺ふらふらツアーを敢行中だ。
「どう? ツアーガイドなまえによる何の目的もなく風景を楽しむモンドスペシャルツアーは」
「なんなんだその名前……」
「目的もなくただ景色を楽しむのも悪くないよね?」
変な名前に突っ込もうともなまえはあっさり無視してジンに問いかける。
「まあ悪くないな」
風と牧歌の国といわれるようにモンドでは国の至る所で風を感じられる。これも風神バルバトスの影響なのだろう。少し強い風を感じてジンは髪を抑える。
「たまには散歩をするのも悪くないでしょ? あてのない旅はいつでも予定変更できるのが良いところだね」
そう言うなまえの言葉を分刻みで予定を立てるジンには理解はできるが実行しようとは思わなかった。けれど、行き詰まった時に気分転換をするのも悪くないと思った。
「そうだな。たまにはこんな日も良いかもしれない」
ジンの言葉に驚いたのはなまえだった。まさか、あのジンがそんなことを言うなんて思わなかった。
「え、ちょっ、……えっ? あなた……本当に、ジンなの……?」
「……」
あからさまに戸惑った表情を向けるなまえにジンは何を返せばいいかわからなかった。
「(私はいったいどのように思われているんだろうか……?)」
そうジンが思うのも仕方のないことだった。その後2人は休憩を挟みつつ、ふらふらと当てもなくモンド周辺を歩いた。その間ふたりの間で話題が尽きることはなかった。何せ友人といってもジンは騎士団の代理団長の地位にいて今は遠征に出ている大団長の代わりにモンドを守らなければならない。そして、なまえはこう見えて凄腕の冒険者だからあちこちへ冒険に出ていてジンに会うことも少ないのだ。久々の再会だから話題には事欠かない。なまえが行ってきた不思議な秘境の話や、ジンが出会った機密ではない騎士団の変わった事件、たとえばクレーがまた池の魚を絶滅させたとか話すことは沢山あったのだから。
こうしてなまえとただ話すだけでジンはとても楽しかった。友人との会話は騎士団にいる時の重圧から解放されるような気がする。騎士としてモンドを守ることもジンには重要であったが、たまにこうして友人との何気ない会話もいいかもしれないと笑うなまえを見て思った。