置き去りにされた心
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「それにしても、2人はダインと一緒にいるのね」
「「……え?」」
「……、…………」
姉がダインスレイヴを名指しして、双子は思わず彼を見る。同じ表情をした双子に見つめられてもダインスレイヴは口を閉ざしたままだった。代わりに口を開いたのは双子の姉。
「――ダイン、お願いだからもう邪魔しないで」
「……、俺は……」
「貴方には貴方の思いがあることもわかってる。けれど貴方はもう……、私たちの……アビスの“敵”なの」
「……っなまえ」
ダインスレイヴが口にした単語。それは人名であったがパイモンは聞いた事のないものであった。
「……なまえ?」
「姉さんの、名前……」
思わずパイモンが首を傾げると空が姉を、なまえを見つめたままその名の持ち主を教えた。
「え? ……でも、なんでダインがおまえたちのお姉さんの名前を知っているんだ!?」
双子の旅人はダインスレイヴの前で一度だって姉の名を呼んだことはなかった。それこそパイモンの前でさえも。
「……、……」
空の言葉を受けて2人は知り合いなのかと辺りを見回すパイモン。だがダインスレイヴはおろか空や蛍でさえもパイモンに答えなかった。空も蛍もなまえとダインスレイヴのやりとりを逃さぬようにその一挙手一投足まで見逃さないようにじっと見つめて集中している。なまえとダインスレイヴ。2人のやりとりに視線が集まるなかなまえが口を開く。
「ダイン、貴方の目的は達成されるべきじゃない。貴方が守るべき民達は今も辛酸を舐めさせられている。闇に呑まれ、呪いに身を蝕まれても……、生きている」
「……」
「自国の民を守ることこそ貴方の役割なんじゃないの?」
「…………なまえ」
「そうでしょ? だって貴方はカーンルイアの宮廷親衛隊……末光の剣ダインスレイヴ。そんな貴方が自国の民を見捨てるの?」
なまえの視線はダインスレイヴだけを貫いていた。鋭く感情の込められたもの。それを見て彼女の弟妹達の心はざわついた。今まで姉と共に旅をしていた時は姉を一番知っているのは弟妹であり共に旅をしている自分達だと胸を張って答えられた。でも今は、……違う。なまえとダインスレイヴには弟妹には知らない過去があり、共通する認識を持っている。彼女はダインスレイヴのことを“ダイン”と呼ぶほど親しくて、そして彼の“事情”を把握している。ダインスレイヴだってそうだ。双子の知らない“姉の空白”を彼は知っている。それがどうしようもなく嫌な気分になる。今思うことではないはずなのに、胸がザワザワとして落ち着かない。のどが焼けそうに熱い。
――悔しい
素直にそれだけを思った。その理由は言葉にするのは簡単だ。でも口にはできない。姉の一番の理解者ではなくなってしまったなんて。そんな単純なことが絶望として襲いかかってくるのだ。それはきっと空だけではなく蛍も同じだったのだろう。
「お姉ちゃん……っ!わ、私……ずっとお姉ちゃんのこと探していたんだよ。……お兄ちゃんだって、お姉ちゃんのことすごく心配して……」
だからこそ蛍はこの世界で彼女を見てきた人たちが驚くような冷静さを欠いた姿で姉を呼んだ。妹の必死さがただただ辛い。
「蛍……。そうだよ、姉さん。俺たちと一緒に行こう……! なんでアビスに手助けするのかわからないけど、……ここは危険なんだ。こんな危険なところから早く出よう、……姉さん!」
「蛍……、空……」
蛍と空の必死の説得になまえは彼らに視線を向けた。視線のあった2人は見つめてくる姉の瞳がかつてのように優しさを帯びたものだと気づく。なまえは一緒に来てくれるのではないか。2人の胸はそんな期待に溢れる。
「姉さん……!」
「……ごめんね、2人にはいっぱい心配をかけてる。ひどいお姉ちゃんでごめん」
「そんなこと……ないよ! お姉ちゃんはいつだって……」
「でも……あなた達と共に過ごせることは私も望んでる」
「っなら、……なら一緒に「――ごめんね。でも今は行けない」」
けれど、次の瞬間その望みは断たれることとなる。なまえは静かに首を振る。
「お姉ちゃん……?」
「私にはまだしなくてはならないことがある」
「しなくちゃ、いけないことって……?」
「……」
嫌な予感にざわつく心。感情が制御できずに口の中はカラカラに乾いていた。言いづらく話しづらい。そんな環境で冷静になれるはずがなく、蛍はなまえの言葉を鸚鵡返しに告げるしかできない。
「それは、お姉ちゃんの……」
黙りこくってしまった姉に蛍は思わず本音が口からでそうになった。本来ならそれは自分達よりも優先させるべきことなのか。そう問いかけたかった。自分達の一番はいつだって姉だ。なまえだけが彼らの1番になりうる存在であり、大切で大好きな姉なのだ。でも、言えない。中途半端に言い淀んでただ姉を呼ぶだけにとどまった。姉の決意の籠った目を見てしまったから。もしなまえが躊躇うことな蛍の言葉に肯定し、そうだと言ったら……、何もかもなくなってしまうような気がして。それを考えると怖くて言えなかった。
「ごめんね2人とも。でも天理との戦いがまだ残ってるの」
天理。それは何なのか。人? もしかしてあの“神”のことなのか?
「これは他の誰に強制されたわけではなくて私が決めたこと」
この世界のことなんだからこの世界の人間に任せておけばいいじゃないか。
「蛍、お姉ちゃんはね……蛍のことも、空のことも大切よ。……でもね、天理を倒して神座を手に入れるまで、それまで私はあなた達と行けない」
「どう、して……? ……私達のこと大切だっ、て……」
口の中が張り付いたようにうまく声が出せなかった。
「空、蛍。あなたたちは私にとって大事な家族。だから、ずっと平和な場所にいて欲しい。けれど、もし……」
平和を願うならそれは蛍も同じ。兄にも姉にも何事もなく平穏でいてほしい。例え困難が避けられないのなら手を貸したい。それなのに。
「もしも、このままこの大陸を巡るならきっと、2人にもわかるはず……」
姉の後ろでアビスの使徒が力を使う。異空間の歪みのような裂け目が現れる。姉は一人で進もうとする。
「――全てを見て。この地に蔓延る澱みを知ったらあなた達にもわかるわ。だからその時はきっと……――」
そこまで口にしてなまえは用はないとばかりに後ろを向いた。アビスの使徒が作った謎のゲート。そこに入るつもりなのだろう。
――いつだってそう
「空、蛍……そばにいてあげられなくてごめんね」
――お姉ちゃんはいつだってお姉ちゃんだから私たちに自分の辛さを見せなかった
――だからそんなお姉ちゃんを
「(そんなお姉ちゃんを私はずっと……)」
「でも、また会える。天理を倒したら必ずあなたたちの元に戻るから……それまで、」
続くのは別れの言葉だってことはわかっていた。
「――姉さん!!」「お姉ちゃん!!」
なまえが別れの言葉を紡ぐ前に双子の旅人は姉を呼ぶことで遮った。声を張り上げると同時に駆け出した。けれどうまく動かせない。別れるなんてそんなこと嫌だ。別れたくない。ただその一心で姉を引き留めるためになまえへと走り出す。足がもつれる。思うように動かない。行かないで、言いたい言葉さえもうまく紡げない。
「姉さん! 待って……っ!! ……待って、姉さん……っ! ――――なまえっっっ!!!」
「……!」
空が無意識のうちに呼んだ姉以外の呼び名になまえは足を止めた。振り返った彼女の驚いた顔を空は確かに見た。でもそれは一瞬で次の瞬間ゆっくりと瞬きしたなまえはもう色のない瞳を携えて空を、蛍を見ていた。
「――さようなら」
それから一言。別れの言葉だけを残してなまえは消えた。去りゆく姉は今度こそ一度も振り返ることはなく、その事実にどうしようもなく打ちのめされた。そして空間は閉じて、空と蛍、そしてパイモンだけが残される。間に合わなかった空の手は空を切り、走った勢いそのまま地面に倒れ込んだ。地に伏したまま起き上がることもせず責めるように掴めなかった右手を強く握りしめた。
「……ッ」
「お、おねえ……ちゃん……っ」
嗚咽を堪えるような蛍の声が不気味なほど静かな空間に響く。その後ろでオロオロとどうすればいいかわからずに双子を交互に見つめるパイモン。そんなパイモンを気にもせずに蛍は膝をついて崩れ落ちた。
設定
なまえ
双子の旅人達の姉。義姉ではなく実姉。髪の色は彼らと同じで蛍が成長したら姉みたいになりたいと思えるような理想のお姉さんであるがそれほど歳が離れているわけではない。
空
双子の旅人のお兄さんの方。妹の前では結構強がっている。兄なので姉がいないこの旅では結構気を張っている。そのおかげか妹よりも視野が広め。
蛍
双子の旅人の妹さんの方。基本的に落ち着いているように見えるが予想外の出来事には兄よりも弱い。
パイモン
双子の旅仲間。双子が隠していたことを知ったり、双子の姉の名前を知ったり、初めて知る出来事が多すぎて混乱している。取り乱す双子を初めて見たのでどうしていいかわからない。
ダインスレイヴ
かつてなまえと旅をした謎の男。なまえを知っていたからこそ、彼女から聞いた双子の旅人に近づいた。