置き去りにされた心
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「空、蛍……。あなた達だけはどうか何も知らない安全な場所にいて……」
双子の旅人としてテイワットに降り立った空と蛍は最初の国、モンドにて風魔龍を撃退した功績により栄誉騎士という名誉職を得た。それにより双子の旅人はモンドの英雄として風の国の歴史に名を刻まれた。そして次の国、岩の国璃月にてまた歴史書に残るような活躍をした彼らはさらに名を馳せることとなった。
「ねえお兄ちゃん。私たちがこうして活躍したらお姉ちゃん会いにきてくれないかな」
蛍がある夜呟いた一言。それは彼らの願いであった。行方不明になった姉を探すこと。それこそが双子の目的であり、悲願だった。
「なあ、詳しく聞いたことなかったけどお前たちのお姉さんってどんな人なんだ?」
蛍に割って入ったのはパイモンだった。そんなパイモンの問いかけに双子は顔を見合わせた。
「姉さんは……」
「お姉ちゃんは私の知る誰よりも頼りになって、とても優しい人なの!」
空が答えようとしたとき、それを遮るように前のめりになりながら答えた蛍の勢いにパイモンはびっくりした。
「そ、そうなのか。お前たちのお姉さんだからやっぱり強いのか?」
「うん! お姉ちゃんは優しくて強いんだ。パイモンもお姉ちゃんの戦いを見たら綺麗で見惚れちゃうよ!」
「うん、そうだね。姉さんは俺たちとは少し戦い方は違うけど強いよ」
そう話す空の表情に混ざる感情の色に誰も違和を感じなかったのは三人にとって幸いであった。
――――
――
それから幾日か経ったのち、双子は姉と再会することとなる。彼らの想像しなかった薄暗く仄暗い、妖しい逆さの神像の前で。しかも、双子の旅人が敵とみなしているアビスの使徒を庇う姿を見せつけられた。双子の旅人の同行者である謎めいた男ダインスレイヴの剣を受け止め、弾く。アビス教団の者達によって何度も魅せられてきた不思議な力を操って彼らの姉は……いや、姉らしきその人は姿を現した。
「…………」
双子と同じ金髪に彼らよりも年上の大人びた美しい顔には彼らの知らない冷たさを纏っていた。手にあるのは美しい装飾の杖。双子にとって姉といえば優しく強い。彼らにとって太陽のような自慢の姉であった。だが、目の前に佇むその姉らしきその人は薄暗い何かを瞳に宿し、笑顔どころか喜怒哀楽という感情も知らないような機械のような精巧で冷たい印象を受けた。その瞳に射抜かれるだけで何もかも見透かされているような恐ろしさも感じる。この人が姉だとはとても思えない。だけど、双子はわかっていた。心の奥の奥ではこの人が姉だと。この世界で……いや2人の人生で最も大切な人はこの人だと直感が訴えていた。
「ね、姉さん?」「お姉ちゃん……?」
だから2人は意識の外で口を開いていた。冷たさの中にある機械的な彼女だけを見つめていた2人の唇は震えていた。合図もなしに同時に呟いたのは彼らが双子だったからなのだろうか。それとも2人の姉に懸ける並々ならぬ思いがそうさせたのかもしれない。その声は誰も動かぬ空間に漣のように広がった。波紋のようにゆっくりと広がっていくようなそんな気が2人にはしていた。決して目には見えないその波紋が姉に届いた後、彼女の視線が2人に注がれる。
「空、蛍……。久しぶり。元気でよかった」
彼女は笑わなかった。声にも明るさを感じられることはない。普段より物静かな姉の様子に違和感を持たないはずがなかった。いつもなら駆け寄って来てくれるはずの姉がこちらを見つめるだけで動かない。動こうとしない。そんな僅かな違和感の積み重ねが嫌な予感を助長させる。しかしそれでも蛍は姉に向かって足を進めようとした。
「お姉ちゃん……」
「……待って、蛍」
だが、それは叶わなかった。空が蛍を引き止めたから。近づこうとする妹の腕をつかみ引き止めたのは空が兄として蛍を大切に思っていたから。
「姉さん」
妹を引き留めながらも自身の足は姉に向かおうとしていたのは彼自身もまた彼女の弟であったから。そんな空を引き止めたのは彼らのもう1人の仲間パイモンだった。
「待てよ……。お前たちのお姉さんは……アビスの……、」
いつもとは違い歯切れの悪いパイモンの言葉に二人の足が完全に止まったのは姉の違和感を無意識のうちに気づいていたから。言わないで……、そんなふうに双子が心の中で思うと同時にパイモンの口から無情にもその単語は呟かれた。
「――アビスの仲間なんじゃないか」
パイモンは双子の旅人にとって大切な仲間である。この世界にきて初めて釣り上げた不思議な生物。パイモンが一体なんであるかはわからないが、言葉のわからない2人にこのテイワットの言葉を教えてくれた恩人でもある。そんなパイモンが告げた言葉はパイモンなりの双子への心配の気持ちでもあることはわかって気づいていた。双子が各々気づいていながら目を背けようとしていたこと。だからパイモンの言葉を素直に受け入れることはできなかった。
「そん、「そんなわけない!!」」
「え、蛍……?」
「そんなわけない! お姉ちゃんがアビスの仲間なんて、そんなこと……そんな、こと……。そんなこと、ないよ……、おねえ、ちゃんが…………」
「蛍……」
パイモンの言葉を受け入れられずに最初に蛍の口から出たのは否定だった。だから空が口を開きかけた時より大きな声で言葉を放った。どちらかといえば冷静な姿しか見せてこなかった蛍が出した声の力強さに圧倒されてパイモンは戸惑い何も返せない。でも蛍だってバカではない。パイモンの示す言葉こそが正解ではないかと思っている自分もいるから力強く否定したはずの言葉も段々と小さくなって、ついには力なく消えてしまった。そうして俯いてしまった蛍に誰も声をかけられない。彼女が常に頼りにしている兄でさえ、最愛の姉が敵であるなんて信じられないのは同じだった。けれど、2人の姉はパイモンの言う通りアビスの使徒を庇った。それは間違いのない真実だ。2人の胸がざわつく。嫌な予感。いや、事実。現実とは思いたくない。だけど姉は、アビスの使徒から離れない。そしてアビスの使徒もまた……。
「――姫様」
片膝を突き、姉に傅いたアビスの使徒のその姿を見てパイモンの言葉が真実なのだと否応がなく突きつけられた。
「お手を煩わせて申し訳ございません」
「大丈夫。あなたが無事ならそれでいい」
片膝をつくアビスの使徒は今まで空達に対していた時とは別人のように姉に傅いていた。姉は姉でそれが当たり前のように振る舞っていて仄暗い雰囲気と相まってますます本物の姉かわからなくなりそうだ。だがそのやりとりを目の当たりにして蛍の瞳が揺れる。
「おねえちゃん……」
「……、姉さん」
悲しそうに呟かれた蛍の声を耳に入れながら空もまた姉を呼んだ。その声に姉は反応を返した。アビスの使徒から視線をはずし、空を真っ直ぐと見た。以前なら読めた感情も今は何も読み取ることはできなくてそれも空の心を傷つける。そんな空の気持ちを知ってか知らずか彼の姉は視線を空から蛍、パイモンと移り、最後に彼らと同じように彼女を見ていたもう1人の男に向けられた。