おめでとう、と言いたくて
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……そういえば風が強いな。潮風で髪の毛が硬くなっているだろうなとわざと違うことを考えて心を落ち着ける。そして、また何度かゆっくりと深呼吸をしてようやく行秋の方へと顔を向けた。内心はまだ焦りが残っていたが見た目には落ち着いたように見えるだろう。……たぶん。努めて平静に行秋に話しかけた。
「次はどうしたら良いの?」
「これで終わりだよ」
「……終わり?」
「うん。終わり」
「……」
昼過ぎまでかかって孤雲閣まできた用事が一瞬で終わるとは思わなかった。思わず肩の力が抜けた。おかげで乱れた心も鎮まった。代わりに疑問が次から次へと湧いてきた。そんな私の様子を気にした風もなく、「さ、帰っておばさんの長寿麺でも食べようか」と伸びをした行秋の腕を掴んで慌てて引き止める。
「待って! 武侠小説の舞台でもないのになんでモラを投げるだけにここまで来たの?」
モラを海に投げ入れるだけなら璃月港でもできる。人目についたらダメなら郊外でもいいじゃないの?わざわざ孤雲閣の端っこに来なくたって……。っていうか、行秋のモラ投げ入れちゃったよ。どうしよう。いくらだったかな。焦りすぎて数えてなかった。返さなきゃいけないのに……。せっかく誕生日なのに、行秋にこんな辺境の地まで連れられて、ましてモラまで(強制的に)借りさせられるなんて。疑問が不満に変わって行秋の方を見た。そこには私が思っていたのとは違う彼の姿があった。そのせいで私の不満な気持ちはどこかへいってしまった。彼は少し迷ったように珍しく目を泳がせていたかと思えば照れたようにおずおずと口を開き始めた。
「僕が……本を読むことが好きなのは知ってるだろう?」
それは知ってる。武侠小説にはじまりいろんな本を読んでいて万文集舎の常連ってことも。なんなら彼が執筆した本をもらったこともある。彼の字はその、よく言えば独特なものだけど昔から見ていた私には読むことができるのだ。だからこそ、この崖が彼の好きな武侠小説の舞台だと思ったのだ。
「それで前に読んだんだ。それが古い……岩王帝君にまつわる本で、その……」
歯切れの悪いその言い方は言葉を選びながら慎重に話しているように思う。いつもとは違うから珍しい。なんだか落ち着かない様子でソワソワしているように見えた。本当に珍しいかも。そう思いながらも口には出さなかった。この幼なじみは拗ねると面倒なことになるからだ。次の言葉を待つ間、岩に打ち付ける波の音が耳に入る。遮蔽物がないせいでやっぱり風が当たるなと思いつつ彼の様子を気遣う。
「……、」
ちらりと見た行秋のその表情。迷いながらもその瞳は真っ直ぐで。いつもの親しい人たちに見せる年相応なやんちゃな姿とも他所行きのおとなしい姿とも違う気がした。なんだか初めて見る人のように見えた。なんでだろう。見慣れた幼馴染みの顔のはずなのに。そのせいか心臓の鼓動がいつもより激しい。緊張しているみたいな自分の様子に戸惑う。私はまだ先ほどの焦りが残っているのだと自分に落ち着けと言い聞かせた。
「……た、誕生日にこの橋から両側にモラを投げると、その、……一年間安らかに過ごせるって書いてあったんだ」
私が自分の心に言い聞かせている間に行秋は決心がついたのかようやく口を開いた。そして私の問いに答えてくれると彼は照れたように少し下を向いた。そんな行秋の姿になんだかこっちまで照れてきたらしい。少し、顔があつくなった気がする。それにしても誕生日にモラを投げて安寧を祈る。昔の人は魔神の眠る地でそんなことをしようと思うなんてすごいなあ。帝君の神力にあやかりたかったのかそれとも……。そんなことより、誕生日かあ。あれ、私は今日誕生日だったよね。お母さんが長寿麺とか作ってくれるって言っていたし…。いや、ちょっと待って。……え、誕生日?
「……誕生日?」
「うん。……だからどうしてもここに来たかったんだ。なまえが次の1年も穏やかに過ごせるようにね」
話終わって吹っ切れたのか、先ほどとは違い今度は落ち着いた様子である。誕生日だから私をこんな辺鄙なところに連れてきたのか。自分は誕生日でもないのに、私のために孤雲閣まで連れてきてくれた。モラまで用意して……全部私が誕生日だったから。思いがけない行秋の言葉をゆっくりと咀嚼していく。その言葉をちゃんと理解した時、私は行秋の顔をまともに見られなくなっていた。そんな私の心を知ってか知らずか行秋はくすりと笑う。
「――誕生日おめでとう、なまえ」
そして続いて聞いたこの言葉は潮風が涼しく感じるほどに私の顔を熱くした。そして今回の一連の出来事が私の中で一生忘れられない大切な思い出になった。それは彼への見方が変わるきっかけにもなり、私の人生の大きな分岐点であったということを今の私はまだ知る由もない。
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なまえ
行秋の幼なじみ。良いところの子でも普通の家庭の子でもお好きなように。戦えるけど神の目は持ってるかは決めてません。もし持ってて岩元素ならギメル倒してます。素材いるもんね。
行秋
昔読んだ本に天成石橋のことが書かれてて、いつか誕生日になまえを連れて行こうと思っていた。けどこの年になるまで戦闘面の問題で孤雲閣には行けなかった。古華派に入って剣の腕がついたので今回念願の天成石橋に連れて行くことができて嬉しい。これからは毎年行くつもり。
天成石橋
検索かけたら無相の岩の向こう側らしい。中国サイトだったのであってるか不明(ちゃんと読んでない)。まちがっていたらすみません。