忘れた頃に間借り人
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――――――
「……?」
見慣れた天井を目に入れてなまえは自分がベッドで眠っていたことに気が付いた。
しかも朝になっていて、一瞬混乱し、起き上がって辺りを見回した。
そのときに見慣れた銀色が目に入った。
アルハイゼンだ。
いつの間にか無事に帰ってきたらしい。
いつ頃帰ってきたのかはわからないが静かに隣で寝ていることに気が付いて気持ちが落ち着いた。
そこでようやく彼がソファーで眠ってしまったなまえを運んでくれたのだと知った。
そんな彼に感謝しながらすっかり目が覚めたなまえは起こさないようにそっとベッドから離れた。
寝巻から普段着へと着替えを済ませ身支度を整えた後、彼女はもう一度アルハイゼンの方へと目を向けてから寝室から出て行った。
寝室から出た後、いつもは開いているはずの部屋の扉が閉じられていることに気が付いた。
不思議には思ったがまさか客人がいるとは思わなくて、中をのぞくことをせずにそのまま通り過ぎる。
それからの行動はいつもと変わりないものだった。
いつものように朝食のために準備をする。
準備といっても簡単なものだからそんなに時間もかからない。
最後にコーヒーのためのお湯をわかしておくことも忘れてはいけない。
「おはよう」
アルハイゼンが寝室から出てきたのはなまえが起きて30分ほど経った後のことだった。
ちょうど朝食もできあがり、タイミングの良さになまえは今日はなんだか良いことが起きるようなそんな気がした。
「おはよう、アルハイゼンさん。昨日、ベッドまで運んでくれたんだよね? ありがとう」
「かまわない。俺を待っていたからあんなところで寝ていたんだろう? 君を待たせたことが原因だとわかっている」
「私が勝手に待っていたんだもの。アルハイゼンさんが気にすることないわ」
「君は相変わらず……」
アルハイゼンが何かを言いかけたとき、物音がした。
それは家の外でなく、家の中のような近さだったからなまえは大げさに肩を震わせて驚いた。
思わずアルハイゼンに抱き着く。
「……な、なに?」
発生源のわからない物音に怯えるなまえは明らかに怖がっていて発生源を探しながらもアルハイゼンから離れようとはしない。
しかし音の発生源が何がわかっているアルハイゼンは動揺しなかった。
平然としている夫に抱きついたままなまえはおそるおそる周りを見渡す。
「まだ朝なのに……」と何か別の要因を原因として考え怯えている彼女にアルハイゼンは発生源である部屋を指さして教えた。
アルハイゼンに抱き着いたままなまえはその指先を追う。
それは一応客間とされている空室のひとつであった。
「なまえ、昨日カーヴェを泊まらせた」
「……え?」
すぐそばで囁くようにもたらされたアルハイゼンの言葉に驚いたなまえの顔が再び彼へと向けられたがそれは少しの間だった。
なまえがアルハイゼンの言葉を理解する前に再び物音が彼女の耳に入ったからだ。
それは扉を開く音でなまえはまたびくりと肩を震わせてアルハイゼンに抱き着いていた腕にも力が入る。
しかしその後に出てきた人物を見て、なまえの意識は完全にそちらにいった。
頭痛をほのめかすかのように頭を押さえながら登場した第三者の存在になまえは目を離せなかった。
たしかに閉じられた部屋は客室であったけれどそれが使われることなんてないと思いこんでいた。
なぜならアルハイゼンにはもう家族はいないし、なまえだって母と兄はいるが母はスメールには来ることはない。
そして兄はなまえがフォンテーヌに住んでいる頃にアルハイゼンと喧嘩別れした。
一度は一番の友人だと思っていたせいかその溝はとても深いようだ。
だから兄は頑なにこの家に近寄らなかった。
そのため客室という名ばかりのその部屋が使用されることはないとそう思っていた。
その思い込みがなまえに確認を怠らせ今の驚きにつなげたのだ。
「お……、おにい、ちゃん……?」
現れた第三者が兄のカーヴェだと知った時のなまえの驚きはとてつもないものであった。
どうして? なぜ? 本来であればそこにいるはずのない兄を見つめた彼女はそんな気持ちを持っていた。
「……なまえ」
戸惑うなまえの声に反応して顔を上げた兄の気まずそうな顔。
なまえを呼ぶ声に本当に兄なのだと実感が湧き、怖がっていたことも忘れてアルハイゼンから離れてカーヴェのもとへと走り寄った。
「お兄ちゃん……!」
なまえの戸惑う声が響く。
戸惑いの理由など聞かぬともわかっていただろう。
あれほど頑なにアルハイゼンに会わなかった兄がいま彼の世話になっているなんてなまえは目の前にある現実のはずなのに受け止めきれていない。
そんな妹に姿を認められて兄は気まずそうに立っていた。
妹の名前だけを呟き、居心地が悪そうにそれ以上動くことも話すこともなかった。
それは妹が原因ではない。
むしろカーヴェにとってなまえと出会うことは彼の幸福のひとつであり喜ぶべきことだ。
だが今回そんな妹を前にして何もできずにただ心持の悪さだけが支配しているのは彼のプライドを発端とした出来事からであった。
妹には心配をかけまいと隠していた事実が露見する未来はもうそこまで来ている。
わかっていたことだけど想像は現実とは違う。
心配する妹の様子を見てこれからもっと心配させることになるのだと思うと後悔を抱いてしまう。
やはりアルハイゼンについてくるべきではなかったのだと酒に酔った自分の単純な行動を恨んだ。
「……」
何も言わない兄を見ていたなまえはアルハイゼンへと振り返った。
助けを求めるようなその視線を受けてアルハイゼンは呆れた事実を告げずにこれからのことだけを告げることにした。
「……カーヴェはしばらくこの家に滞在することになった」
「え……?」
だんまりを決め込んだカーヴェの代わりにアルハイゼンはなまえに告げた。
アルハイゼンの言葉になまえはさらに驚きを示して兄を見つめた。
「お兄ちゃんが……? もちろん私は問題ないけど、いったい……何があったの?」
「……」
居たたまれないような雰囲気を醸し出していたカーヴェは妹と視線が合わないように逸らしていた。
うつむいたカーヴェとなまえの視線が合うことはなかった。
カーヴェがアルハイゼンを頼るなんて尋常なことではないとなまえは知っていた。
何か大変なことが起こったのだと思ったなまえは兄のことがとても心配になった。
兄とアルハイゼンの仲の悪さはもう何年も顔をあわせないほど相当根深いものである。
2人が喧嘩した後、兄は酔いに任せてなまえに手紙を送ってきていた。
そのことを兄自身は忘れてしまっていたようだが、その時のあの長い長い手紙に書かれていたアルハイゼンへの憤りは驚くほどのものだった。
それなのに兄はアルハイゼンを頼った。
その事実を知っているだけに2人がこうして相対していることが異常だということは簡単に気づくのである。
しかしなまえの質問にふたりとも黙ったまま何も答えなかった。
アルハイゼンにとってなまえの疑問の答えを示すことは簡単であったがそれはカーヴェに起こった問題であって説明責任はカーヴェにある。
だから彼がなまえにするべきだと考えたからである。
カーヴェはカーヴェで自身が破産したことをなまえには話すことをはばかれるようで黙ったままだ。
そのおかげで沈黙が3人の間を包む。
しばらくして沈黙を破ったのは意外にも問いかけを行ったなまえだった。
「……とにかくふたりとも座って。ご飯用意するから」
空腹の中そんなことを話していても仕方がない。
2人が昨夜何時ごろに帰ってきたのかなまえは知らないけれどお腹は空いているはずだ。
たとえ空腹ではなくとも二日酔いの頭痛に悩まされている兄には水を、そしてアルハイゼンにはコーヒーを飲んでもらえばいいだけだ。
ここで3人で突っ立っていたって埒が明かない。
兄にこれから用事があるのかはわからないけれど、話を聞くのはそれからでもいいはずだ。
なまえとカーヴェは兄妹だ。
兄がこの家に住むというのなら話す機会なんてこれからいくらでもつくれるのだから。
設定
なまえ
アルハイゼンの嫁でカーヴェの妹。夜更かしはできないタイプ。朝まで熟睡しがちで寝ると自発的に目覚めるまで起きることはほとんどない。アルハイゼンを待ってソファーで寝ることは時々ある。本人は起きていたいけど眠気には勝てない。ちなみに昨夜の残り料理であるタフチーン等は昼食として3人で食べた。男2人もいるから当然完食。
アルハイゼン
教令院の書記官でなまえの夫。家で飲む酒を買いに行ったらカーヴェを見かけて、捕まった。持ち前の観察眼でカーヴェの現状を見抜き、話を聞いて思うところがあって家に連れてくることにした。
カーヴェ
建築デザイナーでなまえの兄。なまえと仲が良く、なまえとは定期的に会っていたが最近の状況を告げることができずに多忙という理由をつけて避けてきた。大きな仕事が入ったことは事前に話していたのでなまえもその理由で納得していた。