静謐たる静寂こそが平穏
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「なまえ」
「ん……、なあに?」
それからアルハイゼンがある決意を秘めてなまえを呼んだのは夕食というよりは軽食を終えて食器を片付けた彼女がアルハイゼンの隣に座り一息ついた頃のことだった。
「明日、少し騒がしい事態になる。君に直接の危険はないと思うができれば家から出ないでほしい」
アルハイゼンの突然の提案になまえは純粋な疑問が湧いた。
「もしかして、何か……、あるの?」
「……――いや、大したことじゃない」
「……そう。うん、わかった。 明日はアルハイゼンさんの言う通りここにずっといる」
なまえには何もわからない。
アルハイゼンが何かを知っていて何かが行われるという事以外はわからなかった。
でもアルハイゼンはなまえに家にいて欲しいと言った。
つまり家の中なら危険はないと言う彼の見立てだ。
ここでようやくもしかしたらアルハイゼンが長らく家を開けていたのはその明日の何かのためではないかと思った。
でも、その何かが何なのかはわからない。
きっと聞いても無駄だろう。
アルハイゼンはなまえに危険なことについては話さないだろうから。
それが教令院のことであれば尚更だ。
なまえはアルハイゼンと違い教令院の関係者ではない。
妙論派である彼女の兄がいればアルハイゼンは何かを話したかもしれないが生憎数日前から砂漠へと出かけている。
「どちらにしても明日はジュニャーナガルバの日だ。アーカーシャ端末が使えない時間もあるから気をつけるに越したことはない」
「……?」
「どうした?」
アルハイゼンがなまえに投げかけた一言に戸惑った。
返事をすることなく首を傾げ不思議そうな彼女の態度に今度はアルハイゼンがなまえを見る。
「ううん、なんか今日のアルハイゼンさん変だなって、思って……」
「変? 俺はいつもと変わらない。久しぶりに会ったからそう思うんじゃないのか?」
「うーん、そうなのかな……」
アルハイゼンの言葉を素直に戸惑いながらも受けとめたなまえ。
そんななまえの違和感の正体を知りながらアルハイゼンはそのことには触れずに話題を変える。
「それよりなまえ、俺は明日も出かけなければならない。今日はもう寝ることにする」
「うん、おやすみなさい」
「君の兄が不在で良かった。今夜は遮音ヘッドフォンをせずともゆっくり寝られそうだ」
「ふふっ、お兄ちゃん熱中しちゃうと周りのこと忘れちゃうから。……私はもう少しやりたいことがあるから起きてるね」
「ああ、あまり遅くならないようにな」
そう言って立ち上がったアルハイゼンはすぐに自室に向かうのかと思いきやなまえを呼んだ。
なまえがどうしたのかと返事をすると、アルハイゼンはなまえに言葉をかけた。
「――え?」
かけられた言葉に驚いてなまえはキョトンとしながらアルハイゼンをただ見つめる。
なまえの反応は予想通りだったのかアルハイゼンは動じなかった。
今度は手を伸ばしてなまえにまた問いかけた。
「……だめか?」
「――ううん、なんか改めて言われたからびっくりしちゃって」
催促のようなアルハイゼンの言葉と共に伸ばされた手をとってなまえは立ち上がる。
そのまま軽い力で引き寄せられて抱きしめられた。
抱擁なんて珍しいものではない。
そのはずなのになまえはアルハイゼンのぬくもりがひどく懐かしいような錯覚に陥った。
たった数日会えなかっただけだというのに本当に不思議な感覚だ。
抱きしめられて距離が近づいてアルハイゼンの逞しい体に押し付けられた。
そっとなまえも手をまわして抱きしめ返すとアルハイゼンも腕に力を入れてくれた。
「……アルハイゼンさん。そういえばお兄ちゃんがあなたのこと文弱だって自称してたって言ってたよ」
押し付けられた胸板からも彼が文弱とはとても言えない。
なまえを抱きしめるその腕も力強くてそれだけで頼りになるし安心できる。
そんな彼に身を任せ、胸元に耳を当てて抱きついたまま穏やかに話すなまえにアルハイゼンは呆れたように息を吐いた。
「……なまえ、君は本当にあいつのことが好きだな」
「うん、だって……私のお兄ちゃんだもの」
なまえにとって兄のことが好きな理由なんてそれだけで十分だ。
夫と抱き合っているのに兄が好きだと話すなまえに思うことがないわけではない。
だがアルハイゼンにとってなまえが大切な
それは彼女の兄も同じでなまえを大切に思っている。
彼女がフォンテーヌから帰ってきてからしばらく兄と妹は二人で助け合って生きてきたのだからその思いもわからないわけではない。
それでもやはりどこか燻る思いもある。
「――――なまえ、」
だからこそ、アルハイゼンはなまえを呼んだ。
身を預けるように頬をアルハイゼンの胸板に寄せていたなまえが顔をあげようとした。
けれどその前にアルハイゼンの手がそれを拒むようになまえの頭に触れたからそのまま大人しく従って妻は夫に寄りかかる。
アルハイゼンが言葉を発する度、息をする度に彼の厚い胸板が上下するのが頬を通して伝わってくる。
それがなまえにどれほどの安心をもたらすのか彼は知らないだろう。
いくらなまえがアルハイゼンの行動に文句を言わないからといって妻が夫を心配しない理由にはならない。
彼が“自称”文弱であることを知っていても、やはり心配なのは心配だ。
怪我を負うことなどめったにないけれどそれでも砂漠の方へと赴くアルハイゼンの無事な姿を見るまでは安心できない。
何事もなく無事に帰ってきた時にようやく安心できる。
「アルハイゼンさん……」
甘えるようにすり寄ってきた妻の体をしっかりと片手で支えてながら彼はそっとなまえの髪を撫でた。
指通りの良いその美しい金糸に何度か指を通しながら離れようとしないなまえの好きにさせてやりながらアルハイゼンは考えていた。
脳裏に描くのは明日の計画のこと。
絶対に失敗はできない。
それにあの計画の都合上、自身が陥る立場については絶対になまえには知られてならない。
優しい彼女の顔を曇らせたくはない。
例えそれが演技だとしても知られるわけにはいかない。
もし知られてもそれは全てが終わった後の方が良い。
自身がなまえのもとに無事に帰ってから知る方が彼女の負担は少ないはず。
「なまえ」
名前を呼ぶというよりは思わずこぼれたようなそんな呼び方に身を預けるように頬をアルハイゼンの胸板に寄せていたなまえの顔が上がる。
彼女の瞳がアルハイゼンの顔を捉えて、アルハイゼンもまたなまえを見つめていた。
二人の視線が絡み合って彼は右手をそっとなまえの頬に添えた。
「アルハイゼンさん」
なまえの信頼しきったその声に耳を傾けながらアルハイゼンの親指が彼女の艶やかな下唇にふれ、なぞる。
それは合図のように優しくそしてこれはアルハイゼンだけの特権だ。
彼女の兄には許されていない行為。
なまえはその合図に了承の代わりに目を閉じる。
そのまま距離が近づき、そっと触れる。
ただ重なるだけでそれ以上はない。
それでも心が満たされるのはお互いの気持ちが通じ合っているから。
音もなく離れてなまえがゆっくりと目を開けるとアルハイゼンと目があった。
目が合うと彼女は嬉しそうに笑いかけた。
交わしあう視線を逸らすことなく、その瞳はずっとお互いを映している。
見つめあって、距離が近づき、もう一度触れた。
「なまえ、明日は俺が帰るまで家にいてくれ」
「……うん。美味しいご飯作って待ってるね」
明日、少数で決行されるクラクサナリデビ救出作戦。
失敗は許されない。
この計画の成否は彼女と自分のこれからもかかっているのだ。
「……おやすみなさい、アルハイゼンさん」
「おやすみなまえ」
アルハイゼンは自身の決意を胸に秘めてなまえをもう一度抱きしめた。
設定
なまえ
アルハイゼンの嫁。教令院の学者ではない。兄と同じく人のために生きられる性分であるがアルハイゼンと共に過ごす過程で色々注意もできるようになった。アルハイゼンが明日もちゃんと帰ってくるようなので明日は家で美味しい料理を作る予定。
アルハイゼン
教令院の書記官。この後は静かにぐっすり眠ることができた。毎日このぐらい静かなら良いのにと思っている。なまえに明日の外出を制限したのは彼女の身の危険というより明日の自身の境遇を知られないために一時的に情報を遮断させたいから。