静謐たる静寂こそが平穏
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すでに日が落ちて辺りが暗くなった夜に今回の計画の首謀者達は集まっていた。
明日の予定を再度確認した彼らはその大舞台のために英気を養わなければならない。
アルハイゼンの一言を発端として、それを再確認した一行は話をやめて明日に備えて解散することとなった。
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
「おやすみー」
別れの挨拶の代わりに口々におやすみと挨拶を交わして別れることにした。
明日はついにクラクサナリデビを救うために動くのだ。
不安や高揚する気持ちを抑えてそれぞれが家路に向かう。
救出作戦の一員であるアルハイゼンも真っ直ぐに家に帰った。
幸いなことにあのうるさい同居人もいないから静かに過ごすことができるだろう。
日が落ちた道は暗く、道中にある家々の窓から明かりが漏れている。
一見すると何気ない日常の様子だったが、アルハイゼンはもう知っていた。
何もない穏やかに見えるこの国の裏でひそかに動く悪意。
この国はいま危機的状況にある。
ひそやかに、だが確実に広がっていたその悪意は国を覆いつくそうとしている。
何も知らぬ人々が日常を穏やかに営むその裏で悪はずっとこの国を牛耳っていた。
通り過ぎる家々の人々は何も知らない。
知るはずがない。
全てのことが白日の下にさらされてから行動しては遅すぎるのだ。
何も知らずに日常を過ごしているのは悪いことではない。
変わらぬ日常を過ごすことは平穏で安定した生活を送るための重要な条件である。
すくなくともアルハイゼンにとってはそうである。
仕事や家などの生活環境はもちろんのこと、その他外的要因も作用し、平穏な生活を乱す事物は多く存在する。その原因を究明し取り除き平穏な生活を維持する。
今回の件はアルハイゼンにとっても平穏を乱される出来事である。
だから彼は彼らの仲間になった。
明日の作戦だってすでに下準備は済ませており、問題なく実行できる。
他の者たちだって士気は十分すぎるほど高まっており、作戦の失敗はほぼないと言って良いだろう。
そんなことを思いながらアルハイゼンはしっかりと施錠されている自らの家の鍵を開けて中に入る。
優しい灯に照らされたリビングルームには見慣れた姿がそこにあった。
玄関から聞こえた音に反応したのかソファーから起き上がりかけていたなまえがこちらを見ていた。
その動きは彼女が寛いでいたことが見てとれて、何事もなく暮らしていたことがわかって安心した。
「ただいま、なまえ」
「おかえりなさい」
帰宅したアルハイゼンが声をかけるとなまえは嬉しそうに笑う。
なまえが体を完全に起こした時、彼女の美しい金色の髪がサラリと揺れる。
そんな変わらない彼女の仕草と明るく優しい微笑みに帰宅したのだと実感が湧いてくるというものだ。
ソファーからおりてこちらに近づいてきたなまえにアルハイゼンも歩み寄る。
「無断で家を空けてすまない」
「ううん。アルハイゼンさんがお忙しいことはわかってるから大丈夫」
教令院の書記官アルハイゼン。
彼は自らの仕事量をしっかりと把握しており、残業なんて言葉は知らないほど有能な男であった。
だがその有能さ故に時折予期せぬ事態に巻き込まれることもある。
なまえもそれはもう知っていて、それが仕事であろうが私事であろうが気にしなかった。
アルハイゼンの現在の職は書記官であるが元々は教令院の知論派の学者である。
そもそも彼の一族は代々教令院の学者出身である。
アルハイゼンが自身の研究分野である言語について並々ならぬ情熱を傾けていることをなまえは理解している。
だから彼が前触れもなく帰ってこないことには気にすることなく、むしろ慣れてしまっていた。
しかしそれは他人には中々理解しにくいことらしい。
熟年の夫婦ならまだしも若い夫婦が夫の不在を邪推しないなどそんなことがあるのだろうかと多くの者はそう考えるらしい。
その筆頭が現在のっぴきならぬ事情で同居する彼女の兄である。
彼はそれをはじめて知った時、黙って好き勝手に家を開けるアルハイゼンに苦言を示し、なまえの代わりに文句を言ってやると熱り立って口喧嘩を始めてしまったこともあった。
アルハイゼンの性格から考えてそんなことはあり得ないと言い切れるはずなのになまえにはそんな考えに人々が至る方が不思議であった。
その口喧嘩も結局アルハイゼンの「それは君の意見であってなまえの意見じゃない」だの、「家賃を払え」「酒代を俺につけるな」「家から出て行ってもらってもかまわない」などといった弱みにつけこむような正論の言葉達に負け惜しみのような言葉を返すしかできなくなって半ば強制的に口論は終わってしまった。
そもそもこの言い争いの発端になまえを使ったがアルハイゼンに言わせてみればそんなものがなくても彼がアルハイゼン自身に文句があることは分かっていた。
だから彼女の兄に丁寧に対応する必要はないと思っている。
しかし彼女の兄にはそのように極めて辛辣に対応したアルハイゼンであったがその舌戦の後、心配するなまえをいつものようにソファーに座らせ落ち着かせると話をする時間を設けた。
なまえは理解していると思っていたから話さなかったと本来であれば前もって言うべきことだが、と前置きした上でアルハイゼンは妻に謝罪をした。
彼の言葉になまえは気にしていないから大丈夫だと伝えてアルハイゼンの手を握りその話は終わった。
それからはアルハイゼンに向けられなかった怒りの矛先を自らの作品に向けてカンカンとけたたましい打撃音を響かせながら部屋に篭る兄の心配をしていた。
最終的に兄の家賃を払うと話しはじめたなまえに甘やかすなと釘を刺してその話は終わったのだった。
なまえは自身の兄に対して甘すぎる。
彼の行き過ぎた思いやりに情けをかけるということは結局、彼を助けるのではなく首を絞めているのと同義だ。
あの歪な精神性はどこかで正さなければその歪みによって最悪の事態に落ち切ることは明白だ。
アルハイゼンから見れば十分な収入を得ているはずの人間が借金を背負い、妹夫婦の家といえども他人の家に間借りするという時点でもう落ちていると思えるし、実際に当人だって人生の最悪と口にすることもあるらしい。
考えなしに行動しているわけではないのがさらに愚かさを助長するかのようだ。
まあそのどれもなまえの兄のことだからアルハイゼンにとっては関係のないことである。
だがなまえにとってはとても心痛を覚えるらしい。彼女が家賃を肩代わりすると提案するのも度々聞いてきたことだ。その度に受け取らないと断り、彼女に言い聞かせている。
自ら破滅へと向かっていくその精神性は妹の優しさではどうにもならない。
むしろただ純粋に慕ってくる妹のそのやさしさに付け込んで彼女を貶めることにもつながる。
本人たちは気づいていない。
善行をしなければならないと思い込んでいる兄の潜在的な罪悪感を知らない妹はただ純粋に兄を心配している。
だからこそアルハイゼンは兄と妹を引き離した。
恋人であったなまえを守るために彼女と結婚した。
アルハイゼンにとって幸福とは平穏に生きることだ。
それをなまえにも求めるのは至って当然の感情であった。
「そういえばアルハイゼンさん。……ご飯食べてきた?」
アルハイゼンがそんなことを思い出しているそばでなまえは違うことを考えていたようだ。
夕飯にはもう遅い時間だが、もしも食べていなかったらと思いなまえは尋ねていた。
そんな問いかけにアルハイゼンは「まだだ」と否定したのでなまえから聞いたのに少し気まずい気持ちになった。
実は今すぐに空腹であろうアルハイゼンに出せるものがサモサしかない。
サモサは軽食だ。
夕食にするには遅い時間とはいえ軽食を夕食として出すのはためらわれる。
どうしようかと頭を悩ませたが悩んでいても仕方がないのでなまえは素直に話すことにした。
「ごめんねアルハイゼンさん。遅かったから先に食べちゃったの。……それで、今はお兄ちゃんもいないから……あの、すぐに出せるものがサモサしかないんだけど……いいかな?」
「何かあったのか?」
なまえの問いかけにアルハイゼンが最初に気にしたのはサモサしかないという理由だった。
軽食のサモサが残っていると言うことはつまり、なまえの夕食はそれだったと言うことだ。
「その、……お昼までタフチーンあったんだけど、全部食べちゃって……」
言いづらそうななまえの言葉を全て聞かずともアルハイゼンは事態を察した。
「そうか。ならサモサでかまわない」
タフチーンはかなり腹持ちが良いし、量も多い。
だからなまえがタフチーンを食べていたのはおそらく昼食だけではないということは簡単に理解できた。
サモサを用意するためにリビングから立ち去ったなまえの背中を見つめたアルハイゼンは事実を言おうとしないなまえの優しい気遣いを感じていた。
それからなまえが用意してくれたサモサを食べながらアルハイゼンは不在にしていた数日間の話を彼女から聞いた。
バザールで綺麗な布を買っただとか、調味料が安く買えて、しかもおまけをしてもらったとかそんな小さな幸せを詰め込んだような日常的な話。
彼が数日間、オルモス港やキャラバン宿駅、大赤砂海で経験したことと比べてなんと些細で他愛のない話だろうか。
でもそれでいい。
アルハイゼンのいない間のなまえが日常の中で穏やかに過ごしてくれているならそれで良かった。
彼女に平穏を与えたいからこそアルハイゼンは決めていた。
明日の予定を再度確認した彼らはその大舞台のために英気を養わなければならない。
アルハイゼンの一言を発端として、それを再確認した一行は話をやめて明日に備えて解散することとなった。
「じゃあおやすみ」
「おやすみ」
「おやすみー」
別れの挨拶の代わりに口々におやすみと挨拶を交わして別れることにした。
明日はついにクラクサナリデビを救うために動くのだ。
不安や高揚する気持ちを抑えてそれぞれが家路に向かう。
救出作戦の一員であるアルハイゼンも真っ直ぐに家に帰った。
幸いなことにあのうるさい同居人もいないから静かに過ごすことができるだろう。
日が落ちた道は暗く、道中にある家々の窓から明かりが漏れている。
一見すると何気ない日常の様子だったが、アルハイゼンはもう知っていた。
何もない穏やかに見えるこの国の裏でひそかに動く悪意。
この国はいま危機的状況にある。
ひそやかに、だが確実に広がっていたその悪意は国を覆いつくそうとしている。
何も知らぬ人々が日常を穏やかに営むその裏で悪はずっとこの国を牛耳っていた。
通り過ぎる家々の人々は何も知らない。
知るはずがない。
全てのことが白日の下にさらされてから行動しては遅すぎるのだ。
何も知らずに日常を過ごしているのは悪いことではない。
変わらぬ日常を過ごすことは平穏で安定した生活を送るための重要な条件である。
すくなくともアルハイゼンにとってはそうである。
仕事や家などの生活環境はもちろんのこと、その他外的要因も作用し、平穏な生活を乱す事物は多く存在する。その原因を究明し取り除き平穏な生活を維持する。
今回の件はアルハイゼンにとっても平穏を乱される出来事である。
だから彼は彼らの仲間になった。
明日の作戦だってすでに下準備は済ませており、問題なく実行できる。
他の者たちだって士気は十分すぎるほど高まっており、作戦の失敗はほぼないと言って良いだろう。
そんなことを思いながらアルハイゼンはしっかりと施錠されている自らの家の鍵を開けて中に入る。
優しい灯に照らされたリビングルームには見慣れた姿がそこにあった。
玄関から聞こえた音に反応したのかソファーから起き上がりかけていたなまえがこちらを見ていた。
その動きは彼女が寛いでいたことが見てとれて、何事もなく暮らしていたことがわかって安心した。
「ただいま、なまえ」
「おかえりなさい」
帰宅したアルハイゼンが声をかけるとなまえは嬉しそうに笑う。
なまえが体を完全に起こした時、彼女の美しい金色の髪がサラリと揺れる。
そんな変わらない彼女の仕草と明るく優しい微笑みに帰宅したのだと実感が湧いてくるというものだ。
ソファーからおりてこちらに近づいてきたなまえにアルハイゼンも歩み寄る。
「無断で家を空けてすまない」
「ううん。アルハイゼンさんがお忙しいことはわかってるから大丈夫」
教令院の書記官アルハイゼン。
彼は自らの仕事量をしっかりと把握しており、残業なんて言葉は知らないほど有能な男であった。
だがその有能さ故に時折予期せぬ事態に巻き込まれることもある。
なまえもそれはもう知っていて、それが仕事であろうが私事であろうが気にしなかった。
アルハイゼンの現在の職は書記官であるが元々は教令院の知論派の学者である。
そもそも彼の一族は代々教令院の学者出身である。
アルハイゼンが自身の研究分野である言語について並々ならぬ情熱を傾けていることをなまえは理解している。
だから彼が前触れもなく帰ってこないことには気にすることなく、むしろ慣れてしまっていた。
しかしそれは他人には中々理解しにくいことらしい。
熟年の夫婦ならまだしも若い夫婦が夫の不在を邪推しないなどそんなことがあるのだろうかと多くの者はそう考えるらしい。
その筆頭が現在のっぴきならぬ事情で同居する彼女の兄である。
彼はそれをはじめて知った時、黙って好き勝手に家を開けるアルハイゼンに苦言を示し、なまえの代わりに文句を言ってやると熱り立って口喧嘩を始めてしまったこともあった。
アルハイゼンの性格から考えてそんなことはあり得ないと言い切れるはずなのになまえにはそんな考えに人々が至る方が不思議であった。
その口喧嘩も結局アルハイゼンの「それは君の意見であってなまえの意見じゃない」だの、「家賃を払え」「酒代を俺につけるな」「家から出て行ってもらってもかまわない」などといった弱みにつけこむような正論の言葉達に負け惜しみのような言葉を返すしかできなくなって半ば強制的に口論は終わってしまった。
そもそもこの言い争いの発端になまえを使ったがアルハイゼンに言わせてみればそんなものがなくても彼がアルハイゼン自身に文句があることは分かっていた。
だから彼女の兄に丁寧に対応する必要はないと思っている。
しかし彼女の兄にはそのように極めて辛辣に対応したアルハイゼンであったがその舌戦の後、心配するなまえをいつものようにソファーに座らせ落ち着かせると話をする時間を設けた。
なまえは理解していると思っていたから話さなかったと本来であれば前もって言うべきことだが、と前置きした上でアルハイゼンは妻に謝罪をした。
彼の言葉になまえは気にしていないから大丈夫だと伝えてアルハイゼンの手を握りその話は終わった。
それからはアルハイゼンに向けられなかった怒りの矛先を自らの作品に向けてカンカンとけたたましい打撃音を響かせながら部屋に篭る兄の心配をしていた。
最終的に兄の家賃を払うと話しはじめたなまえに甘やかすなと釘を刺してその話は終わったのだった。
なまえは自身の兄に対して甘すぎる。
彼の行き過ぎた思いやりに情けをかけるということは結局、彼を助けるのではなく首を絞めているのと同義だ。
あの歪な精神性はどこかで正さなければその歪みによって最悪の事態に落ち切ることは明白だ。
アルハイゼンから見れば十分な収入を得ているはずの人間が借金を背負い、妹夫婦の家といえども他人の家に間借りするという時点でもう落ちていると思えるし、実際に当人だって人生の最悪と口にすることもあるらしい。
考えなしに行動しているわけではないのがさらに愚かさを助長するかのようだ。
まあそのどれもなまえの兄のことだからアルハイゼンにとっては関係のないことである。
だがなまえにとってはとても心痛を覚えるらしい。彼女が家賃を肩代わりすると提案するのも度々聞いてきたことだ。その度に受け取らないと断り、彼女に言い聞かせている。
自ら破滅へと向かっていくその精神性は妹の優しさではどうにもならない。
むしろただ純粋に慕ってくる妹のそのやさしさに付け込んで彼女を貶めることにもつながる。
本人たちは気づいていない。
善行をしなければならないと思い込んでいる兄の潜在的な罪悪感を知らない妹はただ純粋に兄を心配している。
だからこそアルハイゼンは兄と妹を引き離した。
恋人であったなまえを守るために彼女と結婚した。
アルハイゼンにとって幸福とは平穏に生きることだ。
それをなまえにも求めるのは至って当然の感情であった。
「そういえばアルハイゼンさん。……ご飯食べてきた?」
アルハイゼンがそんなことを思い出しているそばでなまえは違うことを考えていたようだ。
夕飯にはもう遅い時間だが、もしも食べていなかったらと思いなまえは尋ねていた。
そんな問いかけにアルハイゼンは「まだだ」と否定したのでなまえから聞いたのに少し気まずい気持ちになった。
実は今すぐに空腹であろうアルハイゼンに出せるものがサモサしかない。
サモサは軽食だ。
夕食にするには遅い時間とはいえ軽食を夕食として出すのはためらわれる。
どうしようかと頭を悩ませたが悩んでいても仕方がないのでなまえは素直に話すことにした。
「ごめんねアルハイゼンさん。遅かったから先に食べちゃったの。……それで、今はお兄ちゃんもいないから……あの、すぐに出せるものがサモサしかないんだけど……いいかな?」
「何かあったのか?」
なまえの問いかけにアルハイゼンが最初に気にしたのはサモサしかないという理由だった。
軽食のサモサが残っていると言うことはつまり、なまえの夕食はそれだったと言うことだ。
「その、……お昼までタフチーンあったんだけど、全部食べちゃって……」
言いづらそうななまえの言葉を全て聞かずともアルハイゼンは事態を察した。
「そうか。ならサモサでかまわない」
タフチーンはかなり腹持ちが良いし、量も多い。
だからなまえがタフチーンを食べていたのはおそらく昼食だけではないということは簡単に理解できた。
サモサを用意するためにリビングから立ち去ったなまえの背中を見つめたアルハイゼンは事実を言おうとしないなまえの優しい気遣いを感じていた。
それからなまえが用意してくれたサモサを食べながらアルハイゼンは不在にしていた数日間の話を彼女から聞いた。
バザールで綺麗な布を買っただとか、調味料が安く買えて、しかもおまけをしてもらったとかそんな小さな幸せを詰め込んだような日常的な話。
彼が数日間、オルモス港やキャラバン宿駅、大赤砂海で経験したことと比べてなんと些細で他愛のない話だろうか。
でもそれでいい。
アルハイゼンのいない間のなまえが日常の中で穏やかに過ごしてくれているならそれで良かった。
彼女に平穏を与えたいからこそアルハイゼンは決めていた。