そうか、殺してしまえば楽だったんだ
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――(Side. Cloud Retainer)
どう話せばうまく伝わるのだろうかと考えていた。
凡人達にも話を聞いて、いろいろ考えたがどうもしっくり来ぬ。
下手な言い方をすればなまえのあの落ちこみを復活させることもできぬ。
あれ以上落ち込むと彼女の心が危ういのはわかっていた。
だからこそ、元気づけようとしたのだが失敗してしまった。
彼の態度が変わればまだ活路を見出すことができると思うのだが、自覚していないようなので、どうもうまくいきそうにない。
帰終にも伝えてそれとなく考えを変えてもらうように導いてもらうのが一番やも知れぬ。
そんなことを思っていた矢先の事であった。
なまえの姿が見えないと騒ぎになったのは。
「なまえ様、どこにいらっしゃるのでしょうか……。前にお会いした時、少し様子がおかしかったので私も心配で……」
「お姉ちゃん、昨日遊んでくれるって約束したのに、来なかったの……」
二、三日経ってもなまえは見つからず、凡人達とも交流していたなまえの不在は彼らにも動揺を与えた。
妾のもとにも幾人かの凡人達がなまえの失踪についての真偽を尋ねにやってきた。
だが妾もなまえについてはいまだに情報がなく、望む答えを授けることはできなかった。
こうしている間にも事態はもう取り返しのつかない方向へと進みつつあったことに気づかぬまま。――
なまえが姿を消して数日、妾はこの日も暇を見つけてなまえを探していた。
すると、前方から呑気に歩いてきたのはそのなまえであった。
突然姿を現した彼女を信じられずに見つめてあるとなまえのほうから声をかけてきた。
「あれ? どうかした?」
「なまえ……今までどこに! 妾や帰終達がどれだけ心配したと思っておる!」
妾がそうなまえを叱ったけれど彼女の反応はどうにも鈍かった。
少し間が空いてそれからなまえが口を開いた。
「……心配? ……ああ、心配。……うん、ごめんね?」
「――――!」
謝るなまえの姿は違和感しかなかった。
これは本当になまえなのだろうか。
そんな現実離れした考えを持ってしまうほど、そこにいる……なまえのような何かはとてもなまえだとは思えなかった。
「……これから気をつけるね」
そうなまえは言うけれどそれがいつもの彼女とは違うことは明白で、長年友として共にいた妾でさえはじめて見るなまえだった。
「なまえ……」
「うん? どうしたの?」
嫌な予感がする。
妾がもし、もっと上手く言葉をかけていればこんなことにはならなかったのだろうか。
「……なまえ、何故……いや、なんでもない」
言いかけた言葉はなまえの無機質な瞳に吸い込まれたように続きを失った。
透き通るような純粋さを孕んだ瞳はもう何も映してはいない。
無感動で透明な何も描かないからこその美しさ。
妾では救えなかった。
そう訴えられているようで目を背けたくなってしまった。
もう遅かったのだ。
なまえは落ちるところまで落ちてしまった……。
なまえが妾以外に悩みを打ち明けることがないことを妾は知っていた。
だからこそ、彼女を元気づけようと何度も言葉をかけた。
だが、今のなまえはどう考えても……――――。
どんな時でも最悪だけはいつも当たっていたのだと妾は改めて思わざるを得なかった。
結局、なまえはもう何も知らない魔神となってしまった。
妾だけがなまえの本当の悩みを知っていて、なまえは妾だけに本心を打ち明けていた。
妾しか救える者はおらぬのに、何もできなかった。